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国民投票を経て、名実ともにエルドアン体制へ

(写真=mdgn/Shutterstock.com)

2017年4月16日、トルコではエルドアン大統領に権力を集中させる憲法改正の是非を問う国民投票が行われ、賛成51.4%、反対48.6%と僅差ながら賛成多数で可決されました。トルコでは、隣国シリアで勢力をふるう過激派組織「イラク・シリア・イスラム国(ISIS)」や昨年7月に発生したクーデター未遂事件、経済成長の鈍化などさまざまな問題を抱えており、治安対策の強化や実現性の高い経済対策などが期待されています。一方、大統領権限強化の憲法改正案は承認されましたが、国内の世論は二分しています。為替市場では、政治の不確実性の高まりに対する懸念が後退し、トルコリラは上昇しましたが、大統領の独裁化への懸念も根強くリラの下支え効果は限定的だと予想されます。

トルコの大統領の権限強化とは?

トルコは1923年に建国されました。ほとんどがイスラム教徒ですが、初代大統領のケマル・アタテュルクが政教分離の世俗主義を国是と定めて以降、世俗主義に基づき経済欧米化とともに国家の近代化を進めてきました。トルコでは、議院内閣制がとられており首相に行政権が付与されています。大統領職は国家元首という位置づけではありますが、あくまで儀礼的な存在でした。しかし今回の国民投票により、大統領職には首相に与えられていた行政権が付与されることとなり、「実権型大統領」が誕生することになりました。行政のトップは大統領となり、政令を出す権限や閣僚等の直接任免権を有することになります。また、大統領は議会を解散できる一方、議会は大統領を罷免することが困難となります。次回大統領選挙が行われる2019年11月より、トルコは実質的に議院内閣制から巨大な権限を持った大統領制に移行することとなります。

なぜ国民投票が実施されたのか

国民投票をするにいたった出来事の一つが昨年7月に起こったトルコ軍の一部によるクーデター未遂事件です。この事件で事態収束に強いリーダーシップを発揮したエルドアン大統領に対する国民の支持が高まり、大統領制のもとでテロ等の国内課題に、より効果的に対応できるとの意見が主流になり始めました。

なぜトルコでクーデター?

エルドアン大統領は、一連のクーデターは米国在住のイスラム教指導者ギュレン師が率いるグループ「ギュレン運動」が扇動したと主張しています。軍関係者や裁判官を拘束、警官や大学教員などを解任し、クーデター未遂後の反対勢力静粛の動きが広がりました。元々、ギュレン師はかつて与党・公正発展党(AKP)を支持していましたが、2013年末から14年初めにかけて、当時AKP首相だったエルドアン氏がイスラム色の強い政策を打ち出し、強権的な姿勢を強めたことや、政府がギュレン運動の資金源といわれる大学予備校の閉鎖を示唆したこと等から、AKPとの軋轢が深まっていました。このことがきっかけでクーデターが発生したと考えられています。

トルコ経済の現状とこれからの見通し

トルコ経済については、昨年のクーデター未遂事件後の落ち込みから持ち直す動きが見られます。2016年10-12月期の実質GDPは前年比+3.5%と7年ぶりマイナス成長となった2016年7-9月期からプラスに転じました。16年通年の成長率は+2.9%となり、市場では今年の成長率も昨年と同程度の拡大が見込まれています。ただ、4月17日にトルコ政府は非常事態宣言を3ヵ月延長発表するなど、政治不透明感が払しょくされたとは言い難い状況です。

トルコが大統領制に向かうなか、政治面ではエルドアン大統領の手腕に注目が集まっています。2000年代のトルコの高成長の立役者として、依然国民的な人気の高いエルドアン大統領は、トルコを再び成長路線に乗せていけるのでしょうか。それとも宗教色の強い独裁者としての側面が強くなってしまうのでしょうか。経済面では高いインフレ率や経常赤字などの経済のファンダメンタルの弱さは引き続きリラ安の一因となっており、こうした経済状況が続くようだと、基本的にはリラも上値が重い展開が続くとみられます。

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