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北村行伸教授に聞く「日本の人口減少と未婚率の上昇について」後編

前回のインタビューでは、経済と人口のサイズは自然とフィッティングしていくという話をお聞きしました。そんな時代の中で私たちはいったい、どのような生き方を選択していけばよいのか。前回に引き続き、一橋大学経済研究所の北村行伸教授にご教示いただきます。(このインタビューは2017年8月10日に行われました)

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過去のデータから分析される生活

――先生が研究されている実際のデータを解析して導き出した経済分析は非常に信頼性が高く、実情をとらえているように思えます。非常にリアルですよね。

北村氏:そうですね。ここにあるのは、戦前から全国各都道府県別のデータを集めて入力されたデータ。長い歴史の結果なので、小手先の解釈では変えられないような、動かしがたい事実がそこにあるのです。例えば「あのときは消費税をあげたから消費が落ちた」とかという議論がありますが、長期的に見れば、ほとんど関係ない。

例えば奈良時代から江戸時代に至るまで応仁の乱や関ヶ原の合戦など社会を揺るがす大きな事件は発生しましたが、でも人口と生産の連動した推移は安定した数字になっています。経済というのはそれほど簡単に政治では動かないということだと思います。

日銀の金融政策が経済成長に大きく寄与したと評価する人がいますが、多分その政策をやろうがやるまいが、状況はそんなに変わらないものです。私たちのように長期的に経済をとらえる研究者からすればほとんど関係がない。

マーケットというのは政府が介入できる規模に比べてはるかに大きいので、何をやってもたいした効果が出ないと思えば、しゃかりきになる必要はありません。

逆に民間が活動しやすいような経済環境を作るとか、メンタリティを前向きに動かすようなことをやった方が効果はあると思います。

人口減少と経済は連動している

――経済というのはやはり、生活している人の営みと連動しているということなのですね。

北村氏:今、世界中の国で「長期停滞論」というものがささやかれています。世界中が低成長、低消費、低インフレの時代に入ったという解釈です。それはアメリカ、ヨーロッパでもそうなので、経済政策のスタンスとはあまり連動はしていないように思います。

やはり人口との連動という部分は大きいです。ただ、勘違いをしていただきたくないのが、経済が衰退しても人口も連動しているので、その間で調整されていって、みなさん一人当たりの生活水準が下がるということはないと思います。

もちろん、それは国のマネジメントのやり方によると思いますが、全員が合意できて納得できるような流れに乗れば復興することも十分にあり得えます。つい最近といいますか、大正時代までは人口は今の半分ぐらいだったのですよ。

2100年代には人口が今の半分になるなんて危機感をあおる話もありますが、大正時代に戻るだけのことですから、もし本気でやる気があるのであれば、もう一度やり直しができるかもしれないというくらいの話なのです。

――長い目でとらえることが重要だというお話ですね。しかも、過去のデータから実証されているわけですから、非常に信頼性が高い。

北村氏:人口減少はそれほどオーバーリアクションするほどの現象ではないのです。予定調和ではありませんが、それ以外に道はないので、経済力の範囲内で暮らしていくしかない世界なのです。

経済力が落ちれば人口も減るし、それがその時点の実力なのですから、それよりダイナミックに世界の覇者になりたければ、産めよ、増やせよという考え方もあるかもしれませんが、現在の若い人たちのメンタリティは、もう少しリラックスして生きたいということでしょう。

明治維新以降の富国強兵みたいな話には乗ってこないので、彼らに結婚を強制するのは難しいでしょうね。民間人が自分たちのやりたい経済活動と社会生活を過ごして比較的快適に暮らしていける水準というのは、民間が自分たちで決めればいいことで、政府が決めるというのはナンセンスだということです。

自分ができることを見つけていくことこそ重要

――このような時代に私たちはどのように暮らしていくべきなのでしょうか?

北村氏:私たちは生きている限りは何らかのかたちで社会と関わりを持っているわけですから、その中で自分は何ができるのかというものを見つけていくことが重要だと思います。

それが例えばお金儲けやビジネスでなくてもいい。ボランティアでもいいでしょうし、人助けでもいいし、あるいは自分が表現したいものを見てもらうようなパフォーマンスでもいい。自分が社会でどれくらい必要とされているかというものを見つけるというか、そういう仕事を見つけることが重要です。

自分が社会の中でこれだけの役割を果たしているという自覚があって、必要だと思われるような社会的な仕組みができあがるといいでしょうね。自分なんかここにいなくていいんだと思って落ち込むような人を作る、そんな社会は健全とはいえません。

――それぞれに職能と申しますか、役割をもって暮らしていた、江戸時代のような昔に戻るという感覚でしょうか。

北村氏:そうですよ。農家だって、従事できる人数に合わせて耕作できる面積の田畑を受け持つなど、皆が精一杯頑張って働くという仕組みになっていた。誰もが必要な人材だったわけです。ところが現在社会においては、人手が必要とされる分野においては、十分な人材を充てることができないという、そんな状況を作っているのが問題だと思うのです。

高齢化が進んで、ヘルパーや介護に携わる人材が不足しているにも関わらず、時給も安くて大変だとなれば、人が集まらずに、他の楽な仕事だけれどもあまり需要のないような分野に人が集まっているのであれば、それを動かす仕組みが必要になります。それには多分賃金や労働条件を変えるなどいろいろな手段があると思います。

――確かに、最近の若い方の中には社会貢献意識の高い人が多いような気がします。

北村氏:なかなかうまくビジネス化ができていなかったりするので目立ってはいないですけれど、そういうことやりたいと思っている若者は確実に増えていますし、大学を卒業する時点では金融機関に入社しますが、5年ほどそこで経験を重ねたら、自分で独立したいという人も結構います。

実務で身につけられるものは身につけて、「どこで自分が必要とされているか?」「こういうサービスがあったほうがいいのではないか?」と思うもので起業してみるなど、チャレンジをすればよいと思うのです。それが、これからの時代を生きるために、ひとつのヒントになるような気がします。

北村 行伸(きたむら・ゆきのぶ)
1981年慶應義塾大学経済学部卒業。1982年ペンシルバニア大学大学院修士卒。1988年オックスフォード大学大学院博士卒。1988年経済協力開発機構(OECD)エコノミスト。1991年日本銀行金融研究所研究員。1996年慶應義塾大学商学部客員助教授。1999年一橋大学経済研究所助教授を経て、2002年より一橋大学経済研究所教授。2015年一橋大学経済研究所所長 最終学歴:オックスフォード大学大学院博士課程修了。ドクター・オブ・フィロソフィー(オックスフォード大学)。研究分野:応用計量経済学、マクロ経済学、金融・財政論、公共経済学 著書『ミクロ計量経済学入門』日本評論社、パネルデータ分析』岩波書店、『応用ミクロ計量経済学II』日本評論社など

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