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北村行伸教授に聞く「日本の人口減少と未婚率の上昇について」前編

わが国において急激な人口減少が進んでいます。特に少子高齢化によって生産年齢人口が減り続け、将来の日本経済への影響が懸念されています。具体的にはどのような問題が起きるのか。そして、こういった時代に私たちはどのような経済活動に従事していくべきなのか。一橋大学経済研究所の北村行伸教授にお話しをお聞きしました。(このインタビューは2017年8月10日に行われました)

歴史上で見る、日本の少子高齢化

――総務省の国勢調査によると2008年をピークに日本の人口が減少に転じ、15歳から64歳の生産年齢人口、および14歳以下が占める年少人口の割合も減少が続き、少子高齢化が急激に進行する実態が見てとれます。過去の歴史から見ても、現在のこういった状況はどのように分析されますか。

北村氏:過去といっても、どこまで歴史をさかのぼるのかによりますが、この一橋大学経済研究所には700年代、いわゆる奈良時代から始まり、1300年代の室町時代、1600年代徳川の時代、明治、大正、昭和、そして現在に至るまでの記録が残されています。

それを見る限りでは、日本の人口というのは奈良時代から室町時代に至るまでは約600万人前後で推移していて、江戸時代に入って1,800万人から2,000万人、3,000万人と増えてはいきましたが、はじめて1億人を超えたのは昭和に入ってからのことですね。

今までの歴史を見る限り、日本の人口はほぼ常に増加傾向にあったのですが、ここにきてはじめて人口が減るという、これまで経験したことのない状況に直面したために、少々騒ぎが大きくなっているところがあるとは思います。

北村氏:人口というのは、「これくらいの人数だったら、みんなが食べていける」という、物理的なバランスの上に成り立っています。奈良時代から室町時代にかけては600万人をまかなう程度の生産物しかなかったので、それ以上人口が増えなかった。

それが、だんだん経済成長が進み、江戸時代には1,800万人が生きていけるだけの生産物があるという状態になったし、昭和になって1億人を超える人口を支えていけるほど高度成長したということなのです。もちろん、現在は生産物がなくて人が生きていけないから人口が減っているというわけではないのですが、間違いなく経済成長と人口は連動しています。それは過去のデータからはっきりと見てとれるのですね。

――そもそも人口減少の要因として、どのようなことが考えられるのでしょうか。直接的な要因としては“結婚・出生率の低下”ということになるとは思うのですが、どうしてここまで、結婚しない男女が増えたのでしょうか。

北村氏:戦前から戦後にかけての時代には、大体、男性で95%、女性で93%の日本人が結婚をしていました。生涯未婚率が男性で4~5%、女性で6~7%という状況でした。

それが1950年代、昭和20年代~30年代にかけて続いていました。今後、生涯未婚率で男性が25%、女性が20%にまで上っていくことが予想されています。クラスメイトの男子の4人に1人、女子の5人に1人は50歳まで独身という状態になるのです。

ところが、裏を返せば、実は昭和の時代に95%の人が結婚していたということが異常なんですよ。

江戸時代や明治の始めまでは、未婚の人がたくさんいました。長男が家督を継いで、次男、三男は行くところがないとか、意外と婚姻は難しかったので、結婚しないで、家で長男のために働く人も結構いました。

将軍家ならまだしも、一般庶民の社会においては、結局、人口が増えないような仕組みになっていたのですね。

ところが、明治維新以降、先進国の仲間入りを果たし、国家が富国強兵のスローガンを掲げるようになると、将来、軍人になる子どもが必要になる。産めよ、増やせよと政府が奨励して結婚や出産を推進し、国のために捧げてくださいという時代が明治の後半から昭和の前半まで続いていたのです。

その反動もあってか、戦後は「勝手にしていい」となって、国は関与しなくなりましたが、しばらくの間は、戦前から続く「お見合い」というメカニズムが横行。世話を焼く人が強引に、「あの人と結婚しなさい」なんて働きかけたりして、それが昭和の後半になって、あっという間に恋愛結婚の時代になりました。

ところが恋愛結婚というのは、むしろお見合い結婚より難しく、自分で「いい人がいれば、結婚します」と言ってはみても、うまくはいきません。

強制力がないものは結婚に限らず、なかなか決まらないものです。特に女性が社会進出して所得があれば、慌てて結婚しなくても良いという風潮になってきていますし、加えて社会的なインフラが整い、一人暮らしがしやすい環境になっていますよね。

コンビニもあるし、一人暮らし用の快適な住宅もあるし、非常に便利になっているので、男女とも、あえて結婚しなくても何不自由のない生活ができるように思える、「結婚しなくてもいい」と思えるような環境を作るビジネスが次々に登場しているという背景があって、婚姻率が低下し、未婚率が5%から25%にまで上昇してしまったのでしょう。

さらに、先ほどの人口と経済が連動しているという話からすると、もしかしたら最近の若い人は「この先は経済が伸びないから、あまり子どもいっぱい作っても大変だよね」と、この先の時代を予見して、「結婚しないでも、このままでいい」と思ってしまっているかもしれません。

未婚者増による人口減がもたらす個人や企業への影響とは

――経済状況が人口にフィットしていくとなりますと、未婚者が増えて人口が減っていくのはあまり好ましいこととはいえませんよね。

北村氏:そうとも言えませんよ。スウェーデンやフィンランドに行ってごらんなさい。国土面積は日本と変わりませんが、人口は全然少ない。でも、国民はとても幸福を感じながら生活していますよね。

フランスもそう。日本よりもずっと大きな国土を有していますが、田舎に行ったら畑ばかりですよね。ましてやアメリカや中国、ロシアにいったら海岸沿いに人はいるけれど真ん中は原っぱですから。

パリに行ってもロンドンに行っても、中心部から30分ほど車を走らせたらもう、森や牧草地になりますからね。東京の人口密集がちょっと異常なわけですから、少しばかり人口が減少しても十分やっていけると思います。

人口の話とは少しずれますが、休暇制度にしてもそうでしょう。

フランスは2ヵ月くらい平気で大学を閉めてしまう。ところが残りの10ヵ月はバリバリ働いていますから、フランス人研究者の中には私よりよっぽど論文を書いている人が大勢います。私たちは不要な会議などに無駄な時間ばかりを費やして、ちっとも本質的なことに時間を使っていないですね。もう少し考え方を変えて、メリハリをつけて暮らせば、もっといろいろなことができると思います。

余裕をもって心豊かな生活を送る。フランスの出生率が上がっているなんて話も、そういった豊かさの問題に起因しているのかもしれません。

――そういう暮らしぶりというのは、確かに個人にとっては“豊か”だと思うのですが、その一方で、人口頼みで経済を動かしてきた企業にとってはどうなのでしょうか。

北村氏:それは発想を変えなければいけないですよね。大量に生産して、派手にコマーシャルを打って、1人でも多くの消費者に購入してもらおうという生産モデルでは、もう立ち行かないですよ。

もっと質の高いものを手作りするとかオーダーに応じて作るとか、市場はそういったものを求めていますから、それほど大量に生産する必要はありません。企業側としても価値観や体質、体制を変えていかざるを得ないと思いますし、もしそういうことでなかったら、グローバルに競争するしかありません。

国内のマーケットではなく、インドや中国といった13億以上の人口を抱える国の市場に進出していけばよい。もちろん、すでにそういう志向の企業もありますよね。

ただし、日本国内の消費者心理からすると、質の良い商品を求める傾向にありますから、高い教育を受けた少人数の作業者、技術者が手作りの商品やサービスを提供していくという方向になるのではないかと思います。

ただし、ここで忘れてはいけないのは、北欧諸国の国民が心豊かに暮らすことができる最大の理由が、国民と政府の信頼関係にあるということです。

税金は高いですが、教育費や医療費は国がすべてまかなってくれるし、年金だって十分にもらえる。だったら税金が5割でもいいと思えるのでしょう。老後の不安を抱え、本来なら将来に向けて自分で蓄えておくべき生活資金の計画を、すべて政府がやってくれるし、その政府が信頼できると思っていれば、それは良い社会システムと言っていいでしょう。

アメリカや日本のように「自助努力」といわれると、貯金しなくてはとか、公的年金では十分ではないので、私的年金にしようか、それとも投資をしたほうが良いかなどと考えなくてはなりませんよね。でも自分にはそういったファイナンスの知識はないとか、億劫に感じる人もいますよね。

北欧では、そういった細かい将来の生活資金計画をきちんとできない人もかなり多いので、政府が代わってやっているのです。

日本でも投資家といえるような人は本当に限られていると思いますし、大半の人はあまりそういうことに煩わされたくはないけれども、将来の不安を抱えたくないと考えていると思うのですね。そういった社会システムをどのようにしていくべきかというのは、国民全員で考えていかなければいけない問題だと思います。

人口と経済がフィットしている中、高齢化が進むと私たちの暮らしは?

――人口と経済がジャストフィットしていくという現象の中で、考え方によっては人々が心豊かな生活を送ることができるというお話はイメージできました。その一方で高齢化という問題があります。税収が縮小し、将来的な社会保障に対する不安もあるのですが…。

北村氏:これは政治家や官僚が中心になって進めるシステム構築の問題です。目先のことだけを考えるのではなく、恒久的に年金の財源を安定化させるようにデザインをしていかなければ、我々も落ち着いて暮らすことはできません。

どうしても政治家は次の選挙で当選するかどうかについて意識がいきがちですから、小手先の政策に走りがちです。国民の合意が得られるような、長い目でみて良いプランができあがり、それを維持できるような仕組みができればいいとは思います。政権が変わる度に、国の制度がゆがめられるケースは害が多いです。

例えばアメリカのオバマケア。健康保険など、国民生活の根幹を支える制度というのは、本来は政権が交代したからといって変わっていいようなものではありません。

ところが政権交代が起こったり、制度がコロコロと変わったりすれば、国民もさらに不安になって、“自分で身を守るしかない”という議論になり、さらに経済活動が委縮していく可能性があります。

本来であれば、そういった不安を解決するためにあれこれ考える時間に煩わされるのではなく、自分の趣味を楽しみ、自分の才能を伸ばすようなことに時間やエネルギーを使えるようになれば、国の豊かさも上がっていくように思えるのです。

 

北村 行伸(きたむら・ゆきのぶ)
1981年慶應義塾大学経済学部卒業。1982年ペンシルバニア大学大学院修士卒。1988年オックスフォード大学大学院博士卒。1988年経済協力開発機構(OECD)エコノミスト。1991年日本銀行金融研究所研究員。1996年慶應義塾大学商学部客員助教授。1999年一橋大学経済研究所助教授を経て、2002年より一橋大学経済研究所教授。2015年一橋大学経済研究所所長 最終学歴:オックスフォード大学大学院博士課程修了。ドクター・オブ・フィロソフィー(オックスフォード大学)。研究分野:応用計量経済学、マクロ経済学、金融・財政論、公共経済学 著書『ミクロ計量経済学入門』日本評論社、パネルデータ分析』岩波書店、『応用ミクロ計量経済学II』日本評論社など

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