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榊原正幸教授に聞く「インフレ時代における資産運用の考え方とは」前編

2016年1月29日、日本銀行は「マイナス金利付き、量的・質的金融緩和」の導入を発表しました。それ以降、日本はマイナス金利のもと政策が行われています。デフレからインフレに潮目が変わったなどと聞くこともあります。今後、インフレ時代になるのであればどのような資産形成方法を検討したらよいのでしょうか。青山学院大学大学院の榊原正幸教授に、私たちの生活にインフレがもたらすものについてお聞きしました(このインタビューは2017年9月20日に行われました)。

2017年現在、日本はインフレ状態なのか?

――まずは、“現在はインフレである”という定義から確認しておきたいのですが。

榊原氏:おっしゃるとおり、間違いなくインフレです。だから、まずデフレマインドは捨ててくださいとお伝えしたいです。日経平均株価のチャートを追えばわかりますが、2012年12月にアベノミクスが始まって以来、現在まで株価は、相対的にかなり高めに推移しています。もっとロングレンジでみても、実はバブル絶頂期と現地点の時価総額は同じ、もしくは少し超えているぐらいと言われていますよね。

なぜこういうことが起きるのか。上場企業の数や発行済み株式数が増えているから、見た目の数値としての日経平均株価が低くても市場の横幅が大きくなっているのです。横幅=母数が大きくなったため、グラフの縦軸に示される株価は半分ぐらいになっている。ボリュームはバブル期と一緒、もしくはそれ以上に多いのかもしれないという話なのです。

グラフをみておわかりのように、バブルが崩壊した後、長らく続いていたデフレは2003年でいったん終わっています。小泉政権時代にいったん、インフレになっていますよね。2007年当時は、“インフレミニバブル”なんて言われました。

ところが、リーマンショックを発端として、民主党政権下で、再び日本はデフレに戻ります。経済にとっては最悪な時期を迎えていましたね。世界の株価はどんどん上がっていった時代ですから、日本だけが取り残されてしまう格好になってしまった。そして、2012年12月に、アベノミクスのスタートと同時にようやくデフレが完全に終結。ここから、ずっとインフレ状態が続いていきます。きっと、この先もずっとインフレが続いていくでしょう。ただ、私の願いとしては、ハイパーなインフレではなく、ごく普通のインフレであってほしいと思いますよ。

アベノミクスはインフレ政策?

――なぜ、政府はインフレを誘発しようとしているのでしょうか。

榊原氏:アベノミクスというのはそもそもインフレ政策ですよね。政府としては1,000兆円にものぼる国家の債務を実質的な意味で圧縮したいと考えています。インフレにすれば資産は増えていく一方で、負債は固定されていますから、相対的にみて、借金の返済が楽になります。実質的な意味での債務の圧縮ができるわけです。ちなみに、こういう話をすると、どうしても債務の話ばかりがクローズアップされがちですが、わが国には同時に債務とほぼ同額の1,000兆円にのぼる資産がありますから、国家財政が崩壊するようなことはないと思います。

そんなねらいがあったアベノミクスがスタートして4年9ヶ月が経ったわけですが、おそらく今後もインフレ政策は続けられていくでしょうし、それにともなって、インフレのトレンドは続いていくでしょうね。よくよく考えてみれば、みなさんがおわかりのように、物流コストや人件費などといった、あらゆるベーシックなコスト要因が上がっているではないですか。そんな状況にあって、どうして世の中ではインフレだという論調が表面化しないのでしょうね。日本の世の中の空気は、何となくまだデフレマインドのままですが、私一人だけ、思いっきりインフレマインドになっていますよ。

――どうしていまだに多くの人が、デフレマインドを引きずっているのでしょうか。

榊原氏:原因の1つに、“給料が上がっていない”という現実があげられます。平均値が下がっているのですよ。なぜなら、この十数年の間に雇用形態が大きく変わりましたよね。終身雇用は崩壊しリストラが進み、派遣社員が増えましたから、20年前のバブルの頃と比べたら大きく社会構造が変わっています。どうしても派遣社員の方になると、手取り賃金が低いですし、しかも派遣社員の人数も増えているのですから、当然平均値は低くなってしまいます。

昔は、みんな年収600万円くらいもらっていたんですよ。今は300万円の層と1,000万円の層に分かれていて、平均すると400万円になったという感覚でしょう。バブル時代から時間をかけて、ジリジリと所得が下がっていったので、なかなかインフレマインドにはならないですよね。所得は下がり気味なのに、物価は上がり気味ですから、どんどんこの先も辛い世の中になってくることが予測されます。

ハイパーインフレになってしまったら、世の中はどのように変わるのか

――そんな状況で、もしハイパーインフレになってしまったら、どのように世の中が変わってしまうのでしょうか。

榊原氏:ハイパーインフレというのは、国際会計基準では3年間累計で100%、すなわち、複利で割り返すと年率26%以上の物価上昇を指す言葉です。インフレ率がひどく高いケースでは1年後に1億倍というものもありますし、3年で2倍という低いインフレ率のも実際にあります。低めのハイパーインフレから高めのハイパーインフレまで、極端に数字が違うんですね。

そうなってしまうと、対策ができていた人はいいですけれども、対策ができなかった人は、かなり厳しいですよ。

極端な例としては、2年後に1億倍になるとしたら100円のものが100億円になるわけですよ。ハイパーインフレになるというのは、そういった不幸を引き起こす可能性があります。それこそ平均年収よりも低い人たちは対策なんてできていませんし、しかもその層がボリュームゾーンとなっているので、大多数の人が不幸になる可能性がある。そういった意味でハイパーインフレというのは本当に怖いんですよ。

>>榊原正幸教授に聞く「インフレ時代における資産運用の考え方とは」後編はこちら

榊原正幸(さかきばら・まさゆき)
青山学院大学国際マネジメント研究科教授。
1990年名古屋大学大学院経済学研究科博士課程修了。1997年より東北大学助教授。2001年レディング大学よりPhDを授与される。2003年東北大学大学院教授を経て、2004年から現職。
主な著書に「現役大学教授がこっそり教える 株式投資『必勝ゼミ』」シリーズ、「現役大学教授が本音で教える いちばん安心できる『お金の授業』」など。

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