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「1992年アメリカ」― 兜町カタリスト櫻井英明のここだけの株話

「1992年アメリカ」

1992年8月後半。
成田からサンフランシスコへ飛び立ちました。
出張の理由は「アメリカ不動産証券化の視察」。
担当役員の常務さんと現地のブローカーと3人でほとんど全米を回りました。
因みに、ユタ州ソルトレイクシティ → ニューメキシコ州アルバカーキ、サンタフェ → コロラド州デンバー、アリゾナ州フェニックス、ツーソン → オクラホマ州タルサ。
テキサス州ヒューストン、ダラス → テネシー州メンフィス → ニューヨーク → ワシントン州シアトル。
昼は車で移動して物件視察とミーティング、夜は飛行機で移動というめまぐるしさ。
かつて放送されていたアメリカ横断ウルトラクイズ並みの行程でした。
テキサスでは、米CBSで放送されたTVドラマ「ダラス」の主人公であるJRユーイングのような大富豪とミーティング。
その規模の大きさに驚いたことを覚えています。
ようやくニューヨークに着いて味わったのは、都会のネズミと田舎のネズミの気分。
夏の暑さの残っていた中西部と南部。
そこから秋の冷気が漂う東部。
ニューヨークでは、テニスの全米オープンが開催されており、レーバーデイにティファニーがお休みだったことが甦ります。
東京にレポートを送りながら、住宅とショッピングセンターばかり見ていました。
ウォルマートの経営状況がREITの分析には不可欠なこと。
あるいは、Kマートでの従業員のストライキの状況などはREITにとって好ましくないことなど、学ぶ点は多々ありました。
さらに驚いたのは、当時からサンディエゴ近郊のラホーヤなどにはバイオ研究所の案件などがあったこと。
「REITに組み入れた研究所からフランケンシュタインみたいな怪物が出てきたらどうする?」。
真面目にこんな議論をした覚えもあります。
住宅や商業ビル、ホテルなどだけではなく、REITは無限の可能性を秘めた錬金術みたいなものと感じながら帰国しました。

「MBAばかり」

当時の日本の不動産業界といえば、物件仕様書にしても、簡素なもの。
せいぜい新築マンションのパンフレットに地域の状況等が記されている程度でした。
ところが、アメリカの不動産業界はレベルが高く説明をしてくれる人はほとんどがMBAの肩書き。
地域の経済状況から空室状況、テナントの資力など大量のデータを使っての物件説明には驚かされた記憶があります。
立地条件やその地域の将来展望、テナント状況の把握、借入金の状況など不動産を対象にしながらも、REITには株式並みの分析能力が必要なことに気付かされました。
加えれば、投資家が納得できる分析が出来なければ、商品そのものが成立しない仕組み。
当然ながら、優秀なMBAがこぞって商品組成と運用をするのですから、米国でREITが隆盛を迎えたのも当然の成り行きだったのでしょう。
そういえば、ウォール街で出会った米国人の債券トレーダーは、エンパイアステートビルを見上げる自室で「来年はクビかも知れない」と悩んでいました。
一方で、不動産関係のブローカーやデベロッパー、あるいはREITの組成をしているファンドマネジャーは鼻息が荒く、まさに「わが世の春」。
90年代というのは、アメリカのREITの時価総額が爆発的に増加した時代でもありました。
当時は、不良債権の処理に忙殺されていた日本の不動産業界も、いずれはこういうREITという形式が導入されて業界に大変化をもたらすに違いないと確信しました。
当時の日本の不動産業界からしてみれば、それこそコペルニクス的な転回だったことでしょう。
そもそも、不動産業界に就職するMBAなんて想像すら出来なかったと思います。
何でも証券化する貪欲さと新たな世界に挑戦するダイナミックさ。
このエネルギーがREITに集約されていました。
意外だったのは、成田を飛び立つ前に当時15%程度あったREITの分配金利回りが、急速に低下(価格は上昇)し、2ヵ月後には8%程度まで低下してしまったこと。
相対取引や一物一価で価格形成要因が比較的見えにくい日本の不動産と比較すると、なんと明快な価格形成だったことでしょう。
不動産の価格自体が市場でキチンと動くことに驚きを禁じえませんでした。
当時証券界は、ようやくNYの状況に追いついた格好でしたが、不動産の世界では20年以上の差があると感じたものです。
まさに「不動産を紙に変える錬金術が不動産投資信託=REIT」。
大量の不良資産や債権を抱えた日本にとっては、いずれ必要になる仕組みだったのでしょう。

「日曜のゴルフと勉強」

 ある大手証券で事業法人部に在籍された先輩氏の感想。
「事業法人部にいた時に、ある大手商社を担当していました。ある常務氏がその大手商社の専務に会わせろというので、同行しました。その役員氏は、証券マンなのにマーケットのことは全然分からず。特技はゴルフ、『ゴルフの話しか出来ない』、という往年の姿勢の人。
大手商社の専務が証券のその常務氏に、『常務は土日もゴルフですか?』と聞かれたそうです。
そこで常務氏。「専務は土日はどうされていますか?」
専務。「土曜はゴルフに行くこともありますが、日曜日は絶対にゴルフは行きません。
世界中の経済紙を熟読して月曜日の業務に備えないと、商売になりません。ゴルフは2日連続でやると頭脳が鈍ります。常務も土曜日だけにして記憶力や頭脳の回転が鈍らないように注意された方が良いですよ!」。
はるか昔の90年代前半の話ですが、当時は証券界もこの程度の業界レベルだったようです。

「タテとヨコ」

相場には2種類の人達がいると言われます。
一つは「タテ追い人」。
一つの銘柄を時間軸を長くして追いかける人たちのこと。
この人達にとっては、株価を買い目線で見ているので、下落はむしろ歓迎方向となります。
もう一方は「ヨコ追い人」。
上がりそうな銘柄をいつも追いかけるヒーロー追いの人たち。
上がっている株を追いかけるのですから、上がり続けてくれないと儲かりません。
つまり、「売りたい強気の売り目線」の人たち。
どちらかというと前者に「幸多く」、後者は「労多くして益少なし」みたいな印象です。
常にヒーローを追いかけることは間違いなく楽しいこと。
しかも充実しているかも知れませんし、そこには「生きざま」が多く投影されていることでしょう。
しかし、実利という点から見ると個人的経験則では静かなタテ追い人の方に軍配が上がるようです。
銘柄は主役でいる時間は短く、脇役でいる時間あるいは悪役でいる時間は長いもの。
結局、それを我慢できるかどうかという心理的問題が株式投資の損得を結果付けるような気がします。

 

櫻井 英明(さくらい えいめい)
ストックウェザー「兜町カタリスト」編集長

日興証券での機関投資家の運用トレーダー、「株式新聞Weekly編集長」などを経て、2008年7月からストックウェザー「兜町カタリスト」編集長。
幅広い情報チャネルとマーケット分析、最新経済動向を株式市場の観点から分析した独特の未来予測に定評があり、個人投資家からの人気も高い。

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