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米国の利上げは「打ち止め」なのか?ポイントは今後の物価と雇用市場の動向

(画像=Nedrofly/stock.adobe.com)

世界中の投資家が気にする米国の金融政策。その動向は、投資家が最も注目している関心事といっても過言ではありません。

実際、金融政策に絡む米国要人の発言によって、米国の株式市場が乱高下するケースがたびたび見られました。もちろん、日本の株式市場も無関係とはいかず、米国の株式市場に連動する傾向が見受けられます。

はたして、今後の米国の金融政策はどう動いていくのでしょうか。ここでは、最近の要人発言を紹介しつつ、今後の展開を占ってみたいと思います。

目次
米国金融政策の影響を受ける日本の株式市場
米国の金融政策を決定するFRB、パウエル議長の発言
FOMC参加メンバーの発言と共通認識
利上げ回数や利下げへの転換時期は、今後のデータ次第
米国のインフレ率や雇用市場の動向
FOMCでは利上げを見送ったが…

米国金融政策の影響を受ける日本の株式市場

2023年10月3日、日経平均株価は前日比で一時600円以上も下落し、最終的には521円安で引けました。

一部報道によれば、「米国の金融引き締めが長期化する懸念から、長期金利が上昇。景気が腰折れするとの見方が広がった。ニューヨークダウの下落に連れ安となる形で日本市場も大幅下落した」といった分析が多くみられます。

「日本の株式市場は、米国の金融政策に絡む材料に対して過敏に反応している」との見方もあるようですが、日本市場が米国の長期金利、ひいては米国の金融政策動向の影響を受けている可能性は高いでしょう。

では、足元の米国の金融政策の動向は、どうなっているのでしょうか。

米国の金融政策を決定するFRB、パウエル議長の発言

米国の金融政策を決めるFRB(連邦準備制度理事会)が利上げを開始したのは2022年3月です。当時の政策金利上限を0.25%から0.50%に引き上げました。

以降、過熱するインフレ(物価上昇)を抑制するために急ピッチで利上げを続けますが、2023年以降は1月、6月、9月と金利を据え置いたため、市場では「金融政策の転換点(利上げから利下げ)が近付いている」との見方が広がっています。

パウエルFRB議長は、金利の据え置きを決めた9月19日、20日のFOMC(連邦公開市場委員会)後の会見で「インフレ率は高止まりしている」「インフレ率が目標の水準に向けて持続的に低下していると確信できるまで、政策金利を制約的な水準に維持する」「適切と判断すれば、一段の利上げを実施する用意がある」などと発言。

市場では、これらの発言が“タカ派” (金融引き締めに積極的なスタンス)と捉えられて、「FRBはすぐには金利引き下げに動かず、予想していたよりも金利の高止まりが続くかもしれない」との声が広がりました。

このまま金利の高止まりが続けば、米国経済は下振れのリスクが高まります。この会見の発言を受け、翌9月21日の米株式相場は大きく下げました。

10月19日にニューヨーク・エコノミック・クラブが開催した講演でも、パウエル議長は「慎重に(金融政策を)判断していく」と前置きしつつ、「インフレ率は、まだ高すぎる」「経済や雇用市場が、過熱する兆候が新たに見られた場合は、追加の金融引き締めが正当化されうる」などと発言。従来の考え方に変わりがないことを改めて表明しました。

FOMC参加メンバーの発言と共通認識

FOMCは7人の理事と、5人の地区連銀総裁の計12人で構成されています。政策決定は多数決で行われますから、今後の米国の金融政策を考えるなら、パウエルFRB議長以外のメンバーの考え方も見ておく必要があるでしょう。

FOMCの一部のメンバーによる直近の発言を紹介します。

ニューヨーク連邦準備銀行のジョン・ウィリアムズ総裁

・9月29日の発言
「労働市場の不均衡は縮小しつつある」
「利上げは完了した可能性がある」
「インフレは鈍化しているが、依然として高すぎる」
「政策金利はピークかそれに近い水準にある」

・10月19日の発言
「(インフレ率)2%という目標を持続的に達成できるよう、粘り強く取り組む」
「現在の政策スタンスを当面は維持する必要がある」

マイケル・バーFRB副議長

・10月2日の発言
「政策金利は、インフレ率を長期的に2%に戻すために十分な水準に達しているか、極めて接近している可能性が高い」
「パウエル議長の発言に強く同意する」

フィラデルフィア連邦準備銀行のパトリック・ハーカー総裁

・10月16日の発言
「現時点でいかなる金利引き上げも考えるべきではない」

・10月19日の発言
「経済成長率が予想より多少高めでも、政策金利は据え置くべきだ」

クリストファー・ウォラーFRB理事

・10月18日の発言
「インフレが高水準で安定するか、再加速すれば、金融引き締め(利上げ)が必要」
「利上げがあるとすれば、その時期は今後数ヵ月間のデータ次第」

ミシェル・ボウマンFRB理事

・10月2日の発言
「(インフレ率)2%の目標に戻すには、更なる利上げが必要になる可能性が高い」

ボウマン理事は、10月2日の講演で上記のようにコメント。その際、一度だけではなく、複数回にわたる利上げの可能性にも言及しました。ただ、同氏は10月11日にも同様の発言をしましたが、“複数回の利上げ”の可能性について、2日の講演時よりもトーンダウンしています。

5人のFOMCメンバーの発言やコメントで共通しているのは、

・インフレ率の目標である2%と比べると、現在のインフレ率は高い
・インフレ率2%を持続的なものにするためには、現状(政策金利が高い状況)を維持する必要がある

という点でしょう。やや見解の相違が見られるのは「今後追加の利上げが必要か」という部分ですが、それも「経済や雇用市場、インフレ率の上昇が再加速すれば」という条件付きではあるようです。

では、FOMC参加メンバーは、今後の政策金利をどう予測しているのでしょうか。

利上げ回数や利下げへの転換時期は、今後のデータ次第

「ドットチャート」の推移を確認してみましょう。

ドットチャートとは、FOMC参加メンバーによる政策金利の予測を集計したもので、3月、6月、9月、12月の四半期に一度、公表されています。

▽ドットチャートの年末中央値

時期 2022年12月実績 2023年3月実績 2023年6月実績 2023年9月実績
2023年末 5.125% 5.125% 5.625% 5.625%
2024年末 4.125% 4.25% 4.625% 5.125%
2025年末 3.125% 3.125% 3.375% 3.875%
2026年末 2.875%

2023年3月時点における2023年末の政策金利予測の中央値は5.125%。2022年12月時点の中央値と同じ数値になりました。しかし、2023年6月には5.625%まで上昇しており、

「年内にあと0.25%の利上げが行われる可能性」が示唆されました。

2024年末、2025年末に関しては、数値がそれぞれ上昇したため、現状では「利下げへのシフトが後ずれしそうだ」と読み取ることができそうです。

FOMCには「追加利上げや利下げの時期は、今後のデータ次第」という共通認識があり、今後のデータの推移によって、ドットチャートの数値も上下することになるでしょう。ここでいう「データ」とは、主にインフレ率と雇用市場の動向です。

米国のインフレ率や雇用市場の動向

インフレ率において、重要な指標となるのがコアPCEデフレーターです。

PCEとは、米商務省が公表している米国の家計が消費した財やサービスを集計した経済指標です。変動が大きい「食品」と「エネルギー」を、PCEから除いた数値のことをコアPCEデフレーターといいます。コアPCEデフレーターは、インフレの指標としてFRBが重要視しています。

米国が10月27日に発表した2023年9月のコアPCEデフレーターの上昇率は、前年同月比で3.7%でした。2023年8月の3.8%からは0.1%の低下となりました。

続いて、米国雇用統計を見てみましょう。

米国雇用統計とは、米国の雇用市場の動向を調査した統計です。失業者の人数や就業している人数をまとめており、注目される経済指標です。

2023年8月の非農業部門の雇用者数は、前月比で18.7万人の増加でした。9月は前月比で約33.6万人増となり、予想されていた約16.6万人増という数字を上回る形で着地しています。しかし、10月は約15万人増で、予想された約19万人を下回る結果となり、伸びは鈍化しています。

▽非農業部門の雇用者数

結果 予想
10月 約15.0万人増 約19.0万人増
9月 約33.6万人増 約16.6万人増
8月 約18.7万人増 約16.5万人増

※「結果」は改定前

FOMCのメンバーが重視する「米国のインフレ率の上昇」や「雇用市場の伸び」は鈍化してきていると考えていいかもしれません。ただし、ウォラーFRB理事が「利上げがあるとすれば、その時期は今後数ヵ月間のデータ次第」と述べているように、これらの数値だけで追加利上げのある・なしを判断することはできないでしょう。

では、2023年10月31日から開催されたFOMCでは、利上げについてどのような決定がなされたのでしょうか。

FOMCでは利上げを見送ったが…

FRBは、先のFOMCにおいて、政策金利を据え置くことを決めました。利上げの見送りは9月から2回連続です。これを受けて、市場では「利上げは最終局面に入っているのでは」との見方を強めているようです。

なお、パウエルFRB議長はFOMC後の会見で次のように発言。次回12月に開催されるFOMCで追加利上げを決定する可能性に含みを持たせました。

「引き締めの完全な効果は、まだ感じられない」
「インフレ率を2%まで引き下げる政策スタンスを達成したとはまだ確信していない」

これらの発言を踏まえると、12月に更なる利上げの決定がなされる可能性が残されています。しかしながら、市場の関心は「金融引き締めはいつまで続くのか」「利下げに転換するタイミングはいつか」といったテーマにシフトしているのかもしれません。

これらのテーマの回答を導くには、もうしばらく米国のインフレや雇用市場の動向を見守る必要がありそうです。

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