みずほ証券 公式チャンネル 4月のマーケット動向は?
Home / インタビュー / 危機管理はどのように行うべきか? 仮想通貨の未来を考える(後編)

危機管理はどのように行うべきか? 仮想通貨の未来を考える(後編)

前編では、仮想通貨の仕組みおよび、仮想通貨NEM(ネム)の巨額流出事件のいきさつについてお話をうかがいました。では、仮想通貨はどのようにして守っていけばよいのか? また、再びこのような事件が起きた場合の救済処置はないのか? 早稲田大学ビジネスファイナンス研究センター顧問/一橋大学名誉教授の野口悠紀雄氏に、引き続きお話をうかがいました。

>>危機管理はどのように行うべきか? 仮想通貨の未来を考える(前編)はこちら

仮想通貨が流出した場合の救済は理論的には可能

─前回、仮想通貨が流失した場合、救済処置がとられることもあるというお話でしたが、どのような処置なのでしょうか?

野口氏:ハードフォークです。仮想通貨というのはブロックチェーンによって記録がなされていますが、この記録は関係者が全員で合意することによって、ある種の違うヒストリーを作ることが理論的には可能です。つまり、資金流出事故が起きたのちに、それがなかったような状態を作り出すことが可能なのです。

─過去にハードフォークが実施されたことはありますか?

野口氏:あります。2015年、ドイツのSlock.it(スロックイット)社がICOというEthereumの仕組みを使った資金調達をした際、ハッキングによって資金が流失した事件(The DAO事件)が起こりました。これはEthereumのシステムがハッキングされたわけではなくて、Slock.it社のシステムがねらわれたのですが、流失した資金が非常に巨額であったことから、Ethereumはハードフォークしました。

今回のコインチェックのNEM流出事件についても、理論的にはそれと同じことが可能です。しかし、NEM財団は自分たちに責任はないのでハードフォークはしないといっています。

そこで、個人の安全対策や危機管理が大切になってくるのです。

─つまり、今回の事件は個人の努力で防ぐことが可能だったということですか?

野口氏:そうです。今回の事件は、NEMを持っている人がそれを取引所であるコインチェックに預けたままにしていたから盗まれたのです。報道されていることをみますと、スマートフォンで取引をし、NEMを仮想通貨の取引所に預けたままの人が多かったということですから、これはねらわれて当たり前です。取引所の管理がずさんであったことも事実ですが、持っている人の安全意識があまりに低く、ねらわれない方が不思議であるといってもよいと思います。

仮想通貨を守るためには個人でウォレットを持つこと

─具体的にはどのような方法で危機管理を行えばよいのでしょうか?

野口氏:仮想通貨は安全策をとろうと思えばいろいろな手段があります。一つ目としてはウォレットを個人で持って、そこで管理すればいい。ウォレットにはいろいろな種類があります。例えば、ハードウェアウォレット。これは、インターネットから切り離して仮想通貨を保存することができる仕組みです。そうすれば、取引所がねらわれても、個人の仮想通貨は守られるわけです。

二つ目として、さらに安全性を求めるのであればペーパーウォレットを使うべきであるとされています。仮想通貨の送金には秘密鍵というものが必要です。この秘密鍵は、数字と記号の組み合わせでつくった一種の暗号です。これを印刷して金庫にしまって厳重に管理する方法が、ペーパーウォレットです。そして、この方法がインターネットを通じて泥棒にねらわれないようにする最も安全な保管方法であるといわれています。

重要なのは、本当になくなっては困る金額は、そのような手段をとって保存すべきあるということを教育することなのです。報道においても、そういったことを報道すべきです。流出問題が、仮想通貨の危機であると騒いでいるだけでは、今回も事態は改善しないでしょう。

マウントゴックス事件の教訓を忘れてはならない

─「今回も」ということは、以前も同じような事件があったということですか?

野口氏:そうです。これと同じような事件が2014年に日本で起きました。マウントゴックスという取引所が事故を起こして、多くの被害者がでた。あの時の教訓は、ビットコインを持っていて、それを失いたくない人は取引所に預けっぱなしにしてはいけないということでした。つまり、今回の事故を防ぐには、この教訓を伝えることこそ重要であったわけです。

ところが、当時、日本のマスコミがどんな報道をしたかといえば、一流紙が「ビットコイン破綻」と大きな見出しで報じたわけです。ビットコインの仕組みを知らないということを暴露しただけでしたので、今回、あの大きな事件の教訓を生かすことができなかったわけですね。私は、マウントゴックスの事件の教訓が人々の間に知られていれば今回のような事件は起こらなかったと思います。

─仮想通貨を持つ限りは個人の危機管理は非常に大事ということですね

野口氏:個人も仮想通貨の危機管理は大切です。ただし、なくなっては困るような額を持っている人ですよ。遊びで価格の上がり下がりを楽しむだけならそこまでのことはしなくてもいいと思います。ハードウェアウォレットやペーパーウォレットというのは非常にたいへんですから。

─仮想通貨をきちんと理解するためにも、そういったゲーム感覚で少額からはじめることは必要でしょうか?

野口氏:理解するだけなら、別に実際に仮想通貨を持たなくても、文献を読めば理解できると思います。今の世の中で仮想通貨を受け入れている店舗は非常に限られていますから、ビットコインのことを何も知らなくても生活はできます。

技術開発によって仮想通貨の未来は大きく変わる可能性がある

─では、今後は仮想通貨で決済ができる店舗は増えると思いますか?

野口氏:それが実現するかどうかは、送金手数料に依存しています。ところが、先ほどいいましたように、残念ながら価格の高騰にともない手数料も上がってしまいました。つまり、ビットコインは自殺状態です。ただし、自殺状態というだけで死んだわけではない。現在、技術開発によって送金手数料を引き下げるための努力がなされています。

例えば、ライトニングネットワークという技術があるのですが、この仕組みを使うとほぼ手数料ゼロで送金することができます。その試験的なサービスはすでに始まっていますし、類似の試みもあります。このような技術開発がなされることで、ビットコインの値段がいくら上がっても送金手数料をほぼゼロに抑えることは可能なのです。

実際に使えるようになれば、ビットコインの開発者が夢に見ていた、少額決済が可能になります。つまり、数十円、数百円というごく少額の送金ができるのです。もし、少額決済が可能になれば、世の中は非常に大きく変わります。その可能性は決して断たれたわけではありませんので、私はこれが現実になることを非常に強く願っています。

─前編で、メガバンクが発行する仮想通貨もあるというお話をうかがいましたが、メガバンクの仮想通貨が広く流通した場合、仮想通貨の置かれている状況は変わると思いますか?

野口氏:非常に大きく変わる可能性があると思います。一つは仮想通貨による決済を受け入れる店舗側の問題です。ビットコインの場合、現在ビットコインで決済ができる店舗は非常に限定されていますけれども、メガバンクが発行した場合には、その店舗数は飛躍的に増えると期待されます。それから、もうひとつ重要な点は、ビットコインのような仮想通貨は価格が変動する。これに対して、メガバンクが発行する仮想通貨は固定価格制をとるであろうと報道されています。それによって、投機に使われることや送金手数料が自動的に上がってしまうなどの問題は発生しないはずです。

このような仮想通貨が実現すれば、送金が簡単にできるようになり、我々の日常生活を非常に便利にしてくれるであろうし、現在の送金システムでは不可能な経済活動が、少額決済のようなことによって実現する可能性があるので、大きな意味を持つと考えられます。したがって、私はメガバンクの仮想通貨ができるだけ早く利用可能になる事を期待したいと思います。

─メガバンクの仮想通貨が実現した場合、今現在、あまり流通していないビットコイン型の仮想通貨がなくなってしまう可能性はありますか?

野口氏:それはわかりません。使われずに価値がなくなるものはあるでしょう。性質が違うものですから、どうなるかわかりません。ビットコインは価格が変動しますから、投機の対象になります。しかし、メガバンクは価格が固定されますので投機の対象にはなりません。ですから、投機をしたい人はビットコインを投機の対象として買うでしょう。

─今後もビットコインは投機の対象としてますます人気が上がると思いますか?

野口氏:現在、ビットコインは投機の対象という意味での人気はありますが、ビットコインが非常に値上がりしたといっても去年1年間で20倍にすぎません。アルトコインズのなかには数百倍にも値上がりしているものがありますので、投機の対象としてはそちらの方が魅力的でしょう。

─最後に、今後、仮想通貨の未来はどうなるとお考えになりますか?

野口氏:先ほどからお話ししているように、ビットコインは現在、自殺状態にあります。それを救えるかどうかは、技術開発が進むか否かに依存しています。あるいは、ビットコインの投機について何らかの規制がかけられ、行き過ぎた投機が抑えられれば今の状態は変わるでしょう。ただし、10年後、20年後、具体的にどう変わるかについてはわかりません。1年後ですらどうなるかわかりませんから。

今、しっかり理解してほしいことは、今回のNEMの事件に関しては、取引所の問題であり仮想通貨の危機ではないということです。正しい知識を持ち、個人の危機管理、安全対策が重要であるということを教訓していただきたいと、私は願っています。

野口 悠紀雄(のぐち・ゆきお)
早稲田大学ビジネスファイナンス研究センター顧問・一橋大学名誉教授
1963年東京大学工学部卒業後、 1964年大蔵省(現・財務省)入省。 1972年エール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得。一橋大学教授、東京大学教授(先端経済工学研究センター長)、スタンフォード大学客員教授などを経て、2005年4月より早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授。 2011年4月より早稲田大学ビジネスファイナンス研究センター顧問。一橋大学名誉教授。