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今すぐ始める“ニューロビクス” 脳の老化は止められる(後編)

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実は、30代から始まっている脳の老化。その原因は、「脳過労」です。前編では、脳の老化に詳しい脳神経外科医、おくむらメモリークリニック院長の奥村歩さんに、脳過労が起こるメカニズムとその実態を解説していただきました。
後編では、この脳の老化を防ぐために今すぐすべき「脳過労」解消法を紹介します。

>>今すぐ始める“ニューロビクス” 脳の老化は止められる (前編) はこちら

「集中」と「ぼんやり」の切り替えで脳過労を防ぐ

「脳過労」やそれによって引き起こされる脳の老化を防ぐにはどうしたらよいのでしょうか。奥村さんは、「ぼんやりする時間を意識的に持つことが大事」と指摘します。

実は、「ぼんやり」しているときには、脳は休んでいるわけではありません。「ぼんやり」モードのときこそ、自分の置かれた状況を確認しながら、次の仕事や作業に態勢を整える「デフォルトモード・ネットワーク」という脳のアイドリング・システムが働いているというのです。デフォルトモード・ネットワークが働いているときには、脳内の血流がアップし、脳の回路のつながりが良くなることもわかっています。

「脳は、仕事や作業に取り組む『集中』モードと、自分の状況を確認する『ぼんやり』モードを状況に応じて切り替えることで、パフォーマンスを上げているのです。仕事に追われ、帰宅後や休日もスマートフォンやパソコンにどっぷりつかって集中しっぱなしの状態が続くと、脳過労となり心身の不調を招いたり、将来、認知症になったりするリスクが高まります」と奥村さん。

つまり、物忘れやうっかりミスが増えたときにすべきことは、計算ドリルやパズル等の脳トレではなく、「集中」モードを「ぼんやり」モードに切り替えて脳を緩めることです。「ネットにどっぷりつかっている人なら、仕事の休憩時間は、スマホやパソコンをオフにしてぼんやりしてみましょう。また、休日に寝てばかりいる人や会社を退職してぼんやりしてばかりいる人は、逆に、好きなことに没頭する時間を持つこと。そうすれば、脳が緩んだときにデフォルトモード・ネットワークが働き、脳の回路のつながりが良くなります」と奥村さんはアドバイスします。現役世代にとっては、われを忘れて「集中」モードで働くことは大切ですが、その合間や後には意識的に「ぼんやり」して、自分を取り戻す時間を取るべきなのです。

脳過労を解消し、脳のつながりを良くする「ニューロビクス」

さらに、奥村さんが、脳過労を解消し、脳のつながりやデフォルトモード・ネットワークの働きを良くする“処方せん”として提案するのが、下記の「ニューロビクス」です。何歳になっても、「ニューロビクス」を実践することで、脳の回路を伸ばし、成長させられるそうです。

表 実践! ニューロビクスで脳のつながりを良くしよう
POINT! 自分の不調を客観的にとらえる
脳の調子が悪いほうへ傾いたときのパターンを把握しておくと、早い段階で悪い流れから抜け出せます。

気軽に取り組めるニューロビクス

悩みを大・中・小に仕分けする すぐに何とかなることは「小」、少し手間がかかることは「中」、じっくり考えて結論を出すべきことは「大」と仕分けましょう。「問題を整理すると、日ごろの自分がいかにつまらないことにとらわれているか、客観的にみられます」(奥村さん)。
気になることを書き出す 書き出す作業は、自分を客観的に把握するための最も簡単で効果的な手法です。怒りや不満、不調の原因を思いつくままに書きましょう。書くことは自分を知ることや、デフォルトモード・ネットワークを刺激することにつながります。
高い所に上ってみる 人間は、見晴らしの良い所に立つと、自分の頭の中のことをいつもと違った広い視点でとらえようとする傾向があります。「鳥瞰視、客観視する力が強まって、迷路から抜け出すように、スランプや難しい問題の解決策がみえやすくなるのです」(奥村さん)。

POINT! 脳のアイドリングタイムを意識的につくる

ぼんやりタイムなしでは、デフォルトモード・ネットワークは機能しません。意識的にアイドリングしましょう。

気軽に取り組めるニューロビクス

スケジュール帳に空白を書き込む スケジュール帳が埋まっていないと気が済まない人は、デフォルトモード・ネットワークが機能する暇がありません。機能させる時間として、スケジュール帳にはあえて30分~1時間の空白を書き込み、その時間をぼんやりと過ごしてみましょう。
単純な作業に没頭する 靴磨き、庭の草取り、風呂掃除等、あまり頭を使わなくてもいい単純作業に没頭すると、脳の意識的活動が低下して、デフォルトモード・ネットワークが機能します。「単純作業をしているうちに、頭が静まって、いろいろなイメージが浮かんできます。そうなったら、デフォルトモード・ネットワークが働いている証拠です」(奥村さん)。
動物や植物に親しむ 動物や植物には脳を癒やす力があります。時間が経つのを忘れて動物と触れ合ったり、ガーデニングにいそしんだりすると、デフォルトモード・ネットワークが刺激され、脳の疲れが取れます。山道で森林浴をしたり、野原でぼんやりタイムを楽しむのも効果的です。

POINT! 生活習慣を変える

脳の老化は生活習慣病とも関係があります。予防のために、食事、運動、睡眠等生活習慣を見直しましょう。

気軽に取り組めるニューロビクス

ウオーキングをする

「脳を鍛えるのに有効なニューロビクスは、ウオーキング、ジョギング、水泳等の有酸素運動。なかでも、気軽に楽しめて、ひときわ高い健康効果を得られるのがウオーキングです。週3回、1回につき30分程度のペースで続けるのがベスト」(奥村さん)。ウオーキングを習慣にすると、デフォルトモード・ネットワークが太くなり、脳の回路のつながりも改善します。

質のいい睡眠をとる

睡眠中、脳内では、疲労物質を代謝したり、壊れた脳細胞を修復したりといった、メンテナンス作業が行われています。脳の機能を維持してパフォーマンスを高めるためには、しっかりと睡眠時間を確保し、ぐっすり寝て、しっかりとメンテナンスすることが不可欠です。

駆け引きのあるスポーツをする

ゴルフ、社交ダンス、テニス、卓球、草野球等、相手と駆け引きをしたり、勝ち負けを競ったりするスポーツには、脳の回路を成長させる効果があります。また、相手や仲間がいないと成り立たないスポーツを通じて、社会的な関係性を維持することが、脳へ刺激を与えます。

POINT! 脳がイキイキした状態をつくる

脳がイキイキするニューロビクスを行うと、脳に栄養が注がれ、脳の回路が成長します。

気軽に取り組めるニューロビクス

やりたいことリストを作る

やりたいことを書き出した「やりたいことリスト」を作成しましょう。「作ってみると、意外にすぐに実現できそうなもの、絶対に実現させたいことが見えてきて、せっかくだから実現に向けて準備を始めようといった、意欲が湧いてきます。自分のやりたいことを追い求める意欲が脳を刺激し、デフォルトモード・ネットワークを活性化させるのです」(奥村さん)。

いい道具をそろえる

やりたいこと、実現したいことを続けるモチベーションを保つには、ある程度お金をかけていい道具をそろえ、そこから離れられないようにするのも一つの方法です。いい道具をそろえることで、やる気も持続しますし、没頭することで脳がイキイキと保たれます。

好きだった懐かしい音楽を聴く

昔好きだった音楽を聴くと、脳の情動領域が刺激され、脳にしまわれていた古い記憶が引き出されます。さらに、懐かしい音楽で、その当時の記憶がよみがえると、デフォルトモード・ネットワークが刺激され、過去の自分と現在の自分とを結びつける働きが高まります。

POINT! 脳に刺激を与える

ITにばかり頼っていると、脳の衰えは加速する一方。いつものやり方を変えて脳全体に刺激を与えましょう。

気軽に取り組めるニューロビクス

ネット検索する前に3秒考える

すぐにネット検索に頼ってしまうことが、人間の脳が本来持っている検索機能を衰えさせています。「仕事等で急いでいるときは別ですが、普段はすぐにネット検索せずに、3秒だけでも我慢して自分で考えて思い出そうとする習慣をつけると、思い出す力、答えにたどり着く力が鍛えられ、脳のつながりが良くなります」(奥村さん)。

あえて迷子になってみる

スマホの地図機能を使えば、簡単に目的地へ着ける時代だからこそ、時間のあるときには、見知らぬ土地で迷子になった気分でさまようのもいい。それが脳の刺激になります。面白いものを発見し、帰り道を考えることで、脳回路を発達させる効果もあります。

リアルの質感を大切にする

仕事の連絡はメール、買い物や食事もネット注文で済ませるバーチャルな生活を続けると、視覚刺激に偏るために、脳回路のバランスが乱れ、脳が疲労する結果に。仕事や買い物でも、人と会ったり、物に触れたりすると、バーチャルでは感じることのできない嗅覚、聴覚、触覚等が刺激され、脳の回路のバランスが整います。

 

「脳の老化は30代から始まっていますが、一度下降線をたどったとしても、ニューロビクスでデフォルトモード・ネットワークの働きを活性化させることで、脳の機能を回復させることができます。脳のつながりが良くなると、外見も若々しく変化します。ニューロビクスは30代~40代からスタートするのが理想ですが、何歳から始めても遅くはありません。脳のメンテナンスをする習慣をつけた人とつけなかった人とでは、数年後、十数年後の脳の老化度に差がつきます」と、奥村さんは話します。

ニューロビクスは、どれから始めてもOKです。日常生活の中で「脳を緩めること」と「ニューロビクス」を実践して、脳過労を解消しましょう。

 

おくむらメモリークリニック院長
奥村歩(おくむら・あゆみ)さん

岐阜大学大学院医学博士課程修了。同大学附属病院脳神経外科病棟医長併任講師等を経て、クリニックを開設。もの忘れ外来で3万人以上の認知症患者を診療。著書に『脳の老化を99%遅らせる方法』(幻冬舎)等。※ 『日経おとなのOFF』2017年5月号を参考に記事を作成しています。

 

日経BPコンサルティング 金融コンテンツLab. 
医療ライター 福島安紀

 日経BPコンサルティング「金融コンテンツLab.」(https://consult.nikkeibp.co.jp/financial-contents-lab/)は、難しくなりがちなお金の話題を、わかりやすいコンテンツに仕上げることをテーマとして取材・情報発信にあたっている制作研究機関。月刊誌『日経マネー』編集部の在籍経験の長いベテランスタッフが中心となり、マネー系コンテンツを提供している。