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人生100年時代、必要な保険、不要な保険を見極める (前編)

(写真=iStock by Getty Images)

社会人なら、生命保険などの民間の保険に加入するのが当然と思っていませんか? 今やそれは過去の常識。不要な保険に費やすお金があるなら、貯蓄や投資に回したほうが、よほど人生100年時代への備えになります。必要な保険と不要な保険を見極め、保険にかけるコストをできるだけ抑える方法を、ファイナンシャルプランナーの清水香さんにお聞きします。

保険の原点に立ち返り自分に必要な備えを考える

「人生100年時代とは、100年分のお金が必要な時代ということ。そのための資産形成の妨げになるような無駄な支出は、できるだけ抑えたいものです」と清水さん。なかでも無駄の温床になりがちなのが生命保険などの民間の保険だといいます。

「今の30代、40代の親世代に当たる60~70代の人たちが現役だった頃には、保険の運用利率が高かったため、保険で資産形成もできた時代でした。成功体験から親世代は子世代に『保険はお得だから』と勧めたがる傾向にありますが、諸々の環境が様変わりした今、それは過去の常識。保険とのつきあい方を人生100年時代にあった方法に更新する必要があります」。

では、どのようにつきあえばいいのでしょうか。「まずは、保険の原点に立ち戻ることです。そもそも保険の役割とは、生計維持者が死亡した場合などの“家計が破綻するほどの大きな経済的リスク”に対する備えです」。保険料はそのために支払うコスト。あれもこれも不安だからと、貯蓄でもカバーできるような事態にまで保険で備えてしまうのは本末転倒。コストがかさんで家計の健全性が奪われ、人生100年時代に必要な貯蓄や投資の妨げになりかねません。「大切なのは、自分やわが家にとって本当に保険で対処すべきリスクかどうかを判断することです」。「この保険に入るとお得」などという損得勘定からも離れたほうが判断を誤らない、と清水さんはアドバイスします。

公的制度により一定の医療保障や死亡保障を確保

「民間の保険を検討する前に、公的制度による保障について把握しておくことも重要です。医療保障や死亡保障など、私たちの身体、つまり『ヒト』のリスクをカバーする保障は、民間の生命保険などに頼らずとも、公的制度によりある程度確保されていることがわかります」。

公的制度による保障というのは、会社員の場合、健康保険(健康保険組合や協会けんぽなど)や厚生年金などによる保障のこと。「給与明細を見ると確認できますが、これらの保険料として月収の15%程度(加入健保により異なる)が徴収されています。月収40万円なら月6万円程度の保険料を支払っていることになります」。

健康保険で押さえておきたい保障は「高額療養費制度」と「傷病手当金」です。「高額療養費制度は、健康保険の対象となる医療費の1ヵ月の自己負担が、年収などにより定められた一定の上限額を超えた場合に、超過分が『高額療養費』として払い戻される制度です。病気やけがにより高額な医療費がかかったとしても、自己負担には歯止めがかけられているのです」。例えば、1ヵ月に100万円の医療費がかかった場合、自己負担額はその3割の30万円となりますが、高額療養費制度により自己負担額は8万7430円で済みます(年収約370万~約770万円の場合)。

傷病手当金は病気やけがによる療養により、働けなくなった場合の保障です。「4日以上連続して欠勤状態(給与が出ないこと)になると、給与の3分の2の額が最長1年6ヵ月支給されます」。

厚生年金に関して、「老齢年金(老齢基礎年金+老齢厚生年金)」については皆さんご存じでしょうが、ほかにも保障があることを知っておきましょう。生計維持者が死亡した場合の「遺族年金(遺族基礎年金+遺族厚生年金)」と、国が定める障がい者になった場合の「障害年金(障害基礎年金+障害厚生年金)」です。

「遺族基礎年金については、妻子が残され、かつ子どもが18歳以下(※1)の場合に出ます(※2)。子どもが1人の場合の年金額は100万3600円、子どもが2人の場合は122万7900円となります(2018年度の金額)。子どもがいない妻が残された場合には、夫の生前の給与収入などに応じた遺族厚生年金のみ出ますが、夫の死亡時に妻が30歳未満だと5年間しか出ないので注意しましょう」

※1 18歳到達年度の末日(3月31日)を経過していない子ども(=高校を卒業するまでの子ども)と、20歳未満で障害年金の障害等級1級または2級の子ども。
※2 子どものみ残された場合も出る。子ども1人の場合の年金額は77万9300円、子ども2人の場合は100万3600円(2018年度の金額)。

勤務先により保障が手厚くなることも

勤務先の制度も確認しましょう。「健康保険組合のなかには、高額療養費や傷病手当金の上乗せとして付加給付を支給するところもあり、保障がさらに手厚くなる場合があります」。高額療養費の付加給付によって医療費の自己負担が月に2万円までに抑えられるケースもあり、こうなると民間の医療保険などはまず不要だと考えられます。

死亡保障については福利厚生制度により、死亡退職金や弔慰金などが出る場合もあります。「公的保障と勤務先の保障を合算しても、まだ不足する分を民間の生命保険などで確保するという手順になります」。

下図は経済的リスクに対応する公的制度による保障と勤務先の保障、民間の保険をまとめたものです。民間の保険で確保すべき保障を検討する際の参考にしてください。「シングルだったり、結婚していても共働きで子どもがいなかったりすると、死亡しても経済的に困る人がいない場合がほとんどでしょうから、民間の生命保険などは不要なケースが多いと思います」。

図表1 30代、40代が押さえておきたい「ヒト」のリスクに対応する公的保障、勤務先の保障、民間の保険

死亡保障はグループ保険やネット生保の活用も検討

『ヒト』に関して、公的制度による保障と勤務先の保障を足してもカバーしきれない経済的リスクがあるとすれば、子育て中に生計維持者が死亡した場合ぐらいでしょう。「できるだけ低コストで死亡保障を得るには、勤務先の『グループ保険』を利用するのがお勧めです」。

グループ保険とはその会社にカスタマイズした団体扱いの生命保険や医療保険などのこと。「勤務先で取り扱いがあれば、総務や経理など福利厚生の担当部署で年1回募集しているはずです。子どもが成人するまでなど保障が必要な期間の分を確保しましょう」。勤務先でグループ保険を取り扱っていない場合には、ネット生保などの低コストな生命保険を利用するのもいいでしょう。

日経BPコンサルティング 金融コンテンツLab. 
ライター 萬 真知子

日経BPコンサルティング「金融コンテンツLab.」(https://consult.nikkeibp.co.jp/financial-contents-lab/)は、難しくなりがちなお金の話題を、わかりやすいコンテンツに仕上げることをテーマとして取材・情報発信にあたっている制作研究機関。月刊誌『日経マネー』編集部の在籍経験の長いベテランスタッフが中心となり、マネー系コンテンツを提供している。