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市場を揺るがすリスク動向ポイント

金融市場
(写真=PIXTA)

・ 2016年は年初よりいくつかのリスクが市場を席巻
・ しかし、3月に入り徐々に落ち着きを取り戻す展開に
・ 基本的には年央にかけてリスク回避ムードは後退する見込み
・ ただ、英国とトランプ氏という2つのリスクには注意

4つのリスクが市場を席巻

 2016年の金融市場は大荒れのスタートでした。主に、(1)中国経済、(2)原油価格、(3)欧州金融機関、(4)米国景気といった4つのリスクが注目され、世界的に株価が下落しました。為替市場ではリスク回避の円買いの流れが強まり、ドル円相場は1月末から2月序盤にかけての10営業日で121円台から110円台まで10円以上も急落しました。昔から「有事の円買い」と言われ、世界の金融市場が荒れた時は比較的安全資産と評価されている円が買われる動きが強まるのです。

 しかし、3月に入り上述した4つのリスクに対する危機感は徐々に後退する流れが強まりました。

それぞれ沈静化に向かう動き

 (1)の中国経済については、市場からは政府・当局が本気であると評価されているようです。中国政府は人民元を安定推移させ、株式市場を監視しています。中国人民銀行は弾力的に追加緩和を実施し、中国政府が3月の全国人民代表大会(全人代)で積極的な財政運営方針を打ち出しています。全人代は国会に当たる立法機関であり、最高権力機関として位置づけられています。

 (2)の原油価格については、2月16日にサウジアラビアやロシア等の産油国間で増産の凍結(減産ではない)に関する合意がなされたことが大きいです。それまで交渉のテーブルに着くことのなかった世界1、2位の石油輸出国であるサウジアラビアとロシアが話し合いを持ち合意に至ったことで、2015年に大きく下落した原油価格の今後の安定に向けた第一歩となることが期待されています。両国を含む4カ国は2月、他の産油国の同意を条件にしながらも、1月の水準で生産を据え置くことを確認していました。

 (3)の欧州金融機関については、特に大幅な赤字を記録したドイツ最大のドイツ銀行を含む大手行に対する信用不安が急激に高まる場面がみられました。しかし、ショイブレ独財務相が「懸念していない」と発言するなど、当局も火消しに走ったほか、問題視された銀行のトップも自らメッセージを発して資金繰り不安の払しょくに動きました。さらに、ドイツ銀行6,000億円規模の自社債券の買い戻しを発表しました。同行は17年から26年までの間に償還を迎えるユーロ建てとドル建ての債券を買い戻す計画です。これらの動きにより、市場の懸念は後退する流れとなりました。

 (4)の米国経済はISM非製造業指数の悪化等、一部に注意が必要な状況となりつつあることは確かです。ISM非製造業指数とは、米国の供給管理公社ISM(Institute for Supply Management)が発表する、非製造業における景気転換の先行指数のことです。毎月第3営業日に発表されています。一方で雇用や消費者マインド等は良好な水準を維持しています。一時的には不安視する向きもありましたが、徐々に現時点で米国経済が大きな変調をきたしているわけではないとの見方が強まりました。

年央に向け落ち着いた動きを想定

 基本的には、このようなリスクに対する落ち着きをふまえ、今後、年央に向けては「年序盤にかけての混乱が実体経済に与える影響の精査」「これを受けた金融政策動向」等に焦点が当たりやすい状況になる展開が想定されます。ファンダメンタルズや金融政策に焦点が移れば、ドル円に関しては日銀の追加緩和のタイミングや米連邦準備理事会(FRB)による利上げのタイミングといった部分に焦点が当たりやすく、年序盤にみられた急激な円高は調整を迫られるでしょう。

 ただし、一方で市場にはまだ十分に織り込まれていないとみられるリスクが2つほど台頭しつつあり、一定の注意が必要です。それは、英国の欧州連合(EU)離脱リスクと米大統領選挙におけるトランプ氏の存在です。

英国はなぜEUを離脱したいのか

 もともと、英国は自治権や主権に対するこだわりが強く、EUの中でも統合に関しては一歩引いた立ち位置です。共通通貨ユーロに参加しない権利を持つほか、欧州の加盟国間で国境検査を撤廃するシェンゲン協定にも加盟していません。さらに近年は、ギリシャ救済等のユーロ圏の問題に巻き込まれたことに対する不満や、移民流入の増加に対する不満が高まっていました。EUが東欧に拡大した結果、低賃金で働く移民が英国に流入し英国人の雇用を奪っているとの不満です。2004年に東欧諸国がEUに加盟していますが、04年と12年の英国における移民数を比べると5割近く増えています。

 加えて、長引く世界的な景気低迷が視線を内向きにさせ、右傾化や排他性を強めています。英国、ノルウェー、デンマーク、オランダの各経済水域にまたがる北海油田を持つスコットランドで独立の声があがっていますし、スペインでもバルセロナを擁し、経済的にも比較的豊かとされるカタルーニャ州―地中海に面し、フランス国境に隣接した南部の地域―が独立を目指す動きを見せています。英国経済は低迷するユーロ圏経済を尻目に回復傾向を続けており、米国に次いで利上げに踏み切る先進国は英国との見方が強まっています。このような景気の温度差や右傾化も英国のEU離脱論につながっていると思われます。

離脱はリスクオフに

 EU離脱が現実化すれば英国経済には大きな打撃となります。人・物・資本・サービスの「4つの移動の自由」を掲げるEUから外れれば、関税等についてEUと交渉するところからスタートする可能性が高いです。スイスとEUとの二国間協議は履行までに長い年月がかかった経緯があり、交渉は簡単ではないでしょう。

 英国は輸出の約5割(2014年)がEU向けです。また、ロンドンのシティが欧州に対して「金融のハブ」として機能できるのは、英国で認可を得ればEU加盟国内で活動が行える統一免許制度があるから。英国が欧州の窓口としての機能を失えば、金融機関は中心拠点をEU内に移転させるでしょう。

 残るEUやユーロ圏にとっても悪材料です。国内総生産(GDP)で域内2位の大国が離脱すれば、世界における発言力や域内の問題への対応力が低下します。また、スペインのカタルーニャ州等、他の分離独立派を勢いづかせ、世界からはEUの団結・一体性に疑問が持たれることでしょう。

 したがって、英国のEU離脱は欧州の金融資産や通貨にとっては悪材料です。ポンドやユーロの下落とともにリスクオフの円買いにつながる可能性も高いのです。EUからの独立を問う英国の国民投票は6月23日に予定されています。

トランプ氏が健闘

 もう一つのリスク要因が、米大統領選での健闘が目立つドナルド・トランプ氏です。これまで公職の経験はなく、実業家で億万長者、テレビショーのホストとして有名な人物です。当初より、「メキシコからの不法移民の多くが犯罪者」「メキシコとの国境に壁を作る」「不法移民を追放する」「イスラム教徒を入国禁止にすべき」等といった問題発言が多く、すぐに消える泡沫候補とみられていましたが、3月に入っても共和党候補のトップでした。

その政策は

 トランプ氏のスローガンは「Make America Great Again」(米国を再び偉大な国に)です。そのために重視しているものの1つが雇用です。米企業による生産拠点の海外移転を批判する一方で、法人税の引き下げを掲げ生産拠点の国内引き留めをはかっています。不法移民が米国民の雇用を奪っているとして前述の通り不法移民の追放を宣言しました。外交面では日本や中国等は通貨安誘導しているとし、通貨操作に対する相殺関税の導入を訴える等、保護主義的です。相殺関税とは、政府の補助金を受けて生産なされた輸出品が、輸入国の国内産業に損害を与えている場合に、当該補助金の効果を相殺する目的で賦課される特別な関税のことです。

 トランプ氏はまた環太平洋連携協定(TPP: Trans-Pacific Partnership)にも反対しています。TPPは太平洋を囲む米国やメキシコ、チリなどの北中南米、豪州やニュージーランド、マレーシアやシンガポール、日本などの国による経済連携協定のことで、加入している国同士の貿易の関税をなくそうというものです。

 トランプ氏の主張には、税制の簡素化や減税、教育省等の規模縮小を訴える等、共和党的な「小さな政府」政策がある一方で、年金や医療保険制度、インフラ整備の拡充を志向する等「大きな政府」の政策も掲げています。総じて「米国の利益」という目的に対して素直で直線的、それだけに排他的で過激といった印象を受けます。政治家としての実績や政策の具体性がなく、思いつきのような発言も多いことから全体的に不透明感が強く、他国との軋轢(あつれき)等を含めトランプ大統領が現実味を帯びれば金融市場は嫌気するでしょう。

なぜ人気なのか

 メディアや有識者のトランプ氏に対する評価は非常に低いのです。しかし、実際の投票では強さを発揮しています。なぜでしょうか。

 背景には「格差に対する絶望感」があるとみられます。米国は上位10%の高額所得者の所得が全体の所得の約50%近くを占めます。中間所得層は減少し続け、昨年ついに過半数を割り込みました。少数のお金持ちが増える一方で中間層が減り貧困層が増加する「2極化」の構図となっています。これまで民主党政権も共和党政権もこの傾向を変えられず、メディアもそれを正しませんでした。これが政治やメディアに対する強い不信につながっているのです。このような不満や怒りを代表してくれる存在としてトランプ氏に人気が集まっているようです。

 こうなると、公職に就いたことがないという事実は欠点ではなく利点です。マスコミが投げかける嫌な質問に対して、プロの政治家は印象良くかわしますが、トランプ氏は本音を言い放ちます。そして、それによってメディアや政治家等からさらに批判を浴びる構図が中間所得層以下の民衆に受けています。本来、この中間所得層以下の民衆とトランプ氏のような億万長者は相反する構図ですが、億万長者だからこそ彼らの支持を受けている面もあります。選挙運動の大半を自分の資産からねん出しています。米国の大統領選は巨額の資金が必要で、大企業の献金が流入します。結果として「大衆の声は聞かず、大企業の献金にまみれた、信用できず何も変えられない政治家」が牛耳っているとの不満につながるのですが、トランプ氏はここから一線を画しています。自己資金で選挙活動を行っているということは何者にも買収されないということを意味し、これが転じて信用でき、何かが変えられる政治家という期待につながっているのかもしれません。

年央にかけて注意

 基本的に英国のEU離脱もトランプ大統領の誕生もテールリスク(現実化する可能性はほとんどありませんが、現実化すると影響の大きいリスク)であり、可能性は低いでしょう。ただ、それだけに市場の折り込み度合いも低いとみられます。いずれも今後年央にかけて顕在化する可能性があり、注意が必要です。