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「酷暑の中で」― 兜町カタリスト櫻井英明のここだけの株話

「酷暑の中で」

歴史的な暑さとなった2018年7月。
週末に富山と名古屋へ連続ででかけました。
遠征当日の最高気温は富山が36度台、名古屋は39.5度でした。どちらも気温の高さでは日本有数の土地ですが、それにしてもまさに酷暑。耐え難いほどの暑さでしたから、東京に戻ってきたときに感じたのは、不思議なことに「涼しさ」でした。東京も最高気温35度台でしたから、暑いはずなのですがセミの鳴き声までが妙に心地よく響きました。要は比較の問題なのでしょう。株価も高値から下がってくると痛みは大きいですし、安値から戻ってくると妙な上昇感が出てくるもの。比較がなければすべて成立しないのは市場も一緒です。
7月の別の週末。
神奈川の保土ヶ谷球場に、高校野球の神奈川大会2回戦を見に行きました。
古豪のノーシード横浜商(Y校)と、第2シードで強豪の横浜隼人(浜のタイガース)の対戦。
球場は満員で外野開放になるほどの満員。
しかも、半分以上はY校の応援団と学校関係者とOBとファン。
圧倒的応援で結果はノーシードのY校の勝ち。
グラウンドの実力に、市場外の声援が重なってのシード校への勝利でした。
いわゆる株式市場でいわれる「理外の理」なのかも知れません。
市場内で起きている株価試合も、市場外の応援団の多さによって結構左右されるもの。
酷暑のなかの球場でそんなことが脳裏を掠めました。

「時間軸」

株式投資は未来に向かって時間軸を切り取る作業。
切り取るタイミングによって、対象銘柄が良い株にも、悪い株にもなります。
コピペをする際に、カーソルの始点と終点が異なれば文章の意味がまったく違ってしまうのと一緒です。
ところが、ココがなかなか理解することが難しいもの。
市場は良い銘柄を見つけることに力を入れがちだが、良い銘柄とは上昇時間が長い株のこと。
「相場は銘柄もさることながらタイミングこそ重要」とある老練な市場関係者の言。
あれこれ相場観を磨くのは切り取るタイミングを身につけることが大切です。
そうすると相場の世界の風景が変わってくるかも知れない。
一方で、上がり続ける銘柄と上下変動を反復する銘柄。
毎月積立みたいなドルコスト平均法的視点で考えると、上下変動する銘柄の方がパフォーマンスはシミュレーション上では良くなります。
市場では「上がり続ける株が良い株」。
実際は「下がって元に戻る株が良い株」。
これは時間軸の切り取り方と投資手法(ドルコスト法とか上昇銘柄追撃法あるいは下落銘柄追撃法)などで変わっては来ます。
しかし、積立型においては下落した方がパフォーマンスが良くなるというのは市場感覚の真逆の「パラドックス」。
時間軸の切り取り方というのは結構大切です。

ペイフォワードそしてメビウスの輪。
相場は永遠に続くものですし、買ったら怖いし売ったら寂しいの世界。
まさにペイフォワードです。
メビウスの輪のように輪廻転生(りんねてんせい、りんねてんしょう)であることもまた事実。
いつまでも回り続けるメリーゴーランドというのが相場です。
自分が買った株価より、上の株価を誰か他の人に買ってもらうのが基本動作、というのが株式市場の根本原理と唱える人はあまりいませんが・・・。

「不協和音こそ美しい」

同時に響く二つ以上の音が協和融合しない状態にある和音を不協和音といいます。
7世紀以降の西洋音楽で登場した言葉です。
和音の3つ以上の楽音に1つでも他の楽音と不協和音程の関係にある楽音があること。
モーツァルトの「弦楽四重奏曲第19番ハ長調」、あるいは「ハイドン四重奏曲」中の第6作。
要は耳に心地良くなく、あまり聞きたくない和音ということ。
だから不調和な関係のたとえにも使われます。
今の米中関係などまさに不協和音でしょう。
しかし、思考を転じると不協和音というのは耳に残るもの。
以前広報担当をしていたとき。
代理店さんが持ってきたCM局候補が3つありました。
一つはきれいなピアノの旋律。
一つは美しいソプラノの合唱。
そしてもう一つは、不協和音の塊のような男性のテノール。
多くの担当者はピアノの旋律を支持。
しかし、採用になったのは不協和音の塊のテノールでした。
実際にTVで流れてみると、心には染みませんでしたが旋律は妙に脳裏に残りました。
「イヤなもの」は「イイもの」よりも心に残るもの。
だから、相場でも誰が見てもきれいな銘柄よりもどこか瑕疵がありそうな銘柄に人気が集まるのでしょう。
優等生よりは不良の方がどうも人気があるというような、とてもおもしろい現象です。
バブルだって主力銘柄が醸成したわけではなく、どこか怪しげな銘柄が主役でした。
そう考えると「不協和音こそ美しい」。
そして、不協和音満載の今は、実は最高の一時なのかも知れません。
傷を舐めあって調和して、「赤信号みんなで渡れば怖くない」といって損を重ねてきたバブル崩壊以降の失われた時代。
そんな経験則はもう失われてしまって良いのかも知れません。

 

櫻井 英明(さくらい えいめい)
ストックウェザー「兜町カタリスト」編集長

日興証券での機関投資家の運用トレーダー、「株式新聞Weekly編集長」などを経て、2008年7月からストックウェザー「兜町カタリスト」編集長。
幅広い情報チャネルとマーケット分析、最新経済動向を株式市場の観点から分析した独特の未来予測に定評があり、個人投資家からの人気も高い。

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