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株式相場と目利き― 兜町カタリスト櫻井英明のここだけの株話

「実況」

5月といえば企業決算のシーズン。
特に、第2週から第3週にかけてはピークとなります。
ストックボイスで実況を担当している水曜後場のある日。
午後1時25分のある日本を代表する企業の決算発表が一大イベントでした。
結果は、従来予想を上振れ着地で今期見通しもアナリストコンセンサスを上回るというサプライズ付き。
自社株買いのおまけまでついていました。
発表10分前からピクついていた株価は、午後1時25分の決算発表と同時に大陽線でプラス転換。
ストックボイスでは、その株価の動きの一部始終を1分足の画像で実況しました。
百万言(ひゃく まんげん)を用いるよりも、現場の動きを忠実に画像で見る方が臨場感は絶大。
そして、「今、何が市場で起こっているのか」がわかってもらえたような気がしました。
そもそも実況というのは、今起きていることを忠実にピックアップすること。
決して過去の振り返りではないということを再確認させてくれました。
常にその日のメインイベントをフォーカスすることの重要性とでもいえるでしょう。
「何もない日」など1日もありません。
「何もない日」があるとすれば、それは怠慢といえるかも知れません。
時価総額で日本最大級の企業の決算。
そのタイミングで世界経済や為替動向、需給動向にプライオリティはないでしょう。
「事件は現場で起きている」は刑事ドラマ(映画)のセリフでしたが、株式市場はまさにその「現場」。
それにしても、従来の習慣から脱却して場中に決算発表が行われたのは大きな変化でした。
「大引け後の決算では夜間取引や海外ADR取引にいいところを持っていかれてしまうだけだった。
場中の取引に大いなる刺激を与えるという効果があった。
場中の発表がもっと増えるようなら商いも活気づくかもしれない」という声も聞こえてきました。
「金曜引け後に決算発表だと土日がゆっくりできない」というある上場企業トップの声を聞いたことがありますが、意外と本音かも知れません。
数字とグラフの向こう側にはそんな人間くさい会話もあるものです。

「審美眼」

訳あって古銭・切手等関連の雑誌を眺めていたら、こんな一文がありました。
「割れ継ぎされた補修品で1万円の焼き物と、割れや継ぎのないきれいな状態の1万円の焼き物。
どちらを選ぶのが正解かというと、補修品の方だという。」
割れ継ぎがあって1万円なら、割れ継ぎがない状態であったならばそれなりの価値があるはず、というのが理由。
割れ継ぎがない、きれいな状態であっても1万円でしかないのなら取るに足らないシロモノだ。
安物の焼き物を何十個求めても鑑識眼が向上するはずはなく、所詮三流の収集家で終ってしまう。
古銭も一緒。
欠点のある古銭を毛嫌いする人で一人前の収集家になった人はいないという。
昔の古銭家は美醜にはこだわらなかった。
穴あき銭の場合は割れ継ぎがあってもヒビがあっても入手に努め、大切に扱ったもの。
穴あき銭はワビサビの世界。
とっつきにくいけど奥が深く、一度魅力に取り憑かれるとトコトンのめり込んでしまう」。
これはひょっとすると株式も一緒かも知れません。
誰もが優秀と認める株は確かに一流でしょう。
でも減益とか欠損という株が一流でないとはいえないこともあります。
もし、大幅増益の株と大幅減益の株価がPERなどの株価指標上同じ水準だと仮定してみると、どちらを選ぶかというのは結構悩ましい問題になります。
「儲けていてもそこまで」なのか「儲かっていなくてもそこにいる」。
この差は大きいですし、それこそ「天と地」くらいの開きがあります。
フツーに考えると「割れ欠け」はダメ。
でもキレイなものだけを求める姿勢でなくても、逆に醜いものにも未来はある筈。
その時間軸の差が株と陶器や古銭の違いかも知れません。
「同じような材料が出ても、ファンダメンタルズに大きな変化がなくても、上げるときも下げるときもある。
それが相場」。
この言葉の持つ意味も大きいでしょう。

「名言」

フィディリティのマゼランファンドの残高を2,000万ドルから140億ドルへと700倍に育てた伝説のファンドマネージャー、ピーター・リンチ氏。
「観察こそ原点」というのが氏の投資哲学でもあります。
企業は私たちの生活行動の延長線上に存在しています。
株価としての自動車メーカー。
株価としての食品メーカー。
これは株価だけの側面ですが、人々の周囲に商品はあります。
「ここを分けずに考えると、自分の身の回りに株式投資のヒントがあるように思える」というのが、プロとしてのピーター・リンチの思考法。
ただ単に格好良い車を売っているとか、美味しい料理に欠かせない醤油を作っているという理由だけでは足りないでしょう。
「興味を持ち、調査リストに載せるのは結構なこと。
しかし、利益見通しや競争上の位置、成長計画、財務状況などについての調査を済ます前には決して投資をしてはいけない」。
将来の成長がどのようにしてもたらされ、そしてそれがいつ減速するのかを、時間をかけて見極めること。
これが投資における「ワンアップ」への近道ということになります。
「まず株を買ってしまい、後で送られてきた年次報告書(年間取引報告書)はゴミ箱行き」ではいけません。
さまざまな生活シーンに登場する商品やサービスは大切なキッカケ。
その上で徹底的に調べること。
飽きるほど観察すること。
これを繰り返しながらできればトップの人柄をも見ること。
そして、製品の動きや開発状況を電話でもいいから調査すること。
過去の値動きを目に焼き付けることも大切。
理想論かも知れませんが、これらを継続することの延長線上に、成長株が出現してくると考えたいものです。
通勤電車が込んでいたらその電鉄会社を調査。
行列のできるレストランがあったら、その会社を調査。
自分の感覚で「行ける」と感じたら、今度は脳を働かせましょう。
その結果、よく知っている企業リストが出来上がり、株式市場の世界は広がるはず。
ウンチクだって大切な要素。
それを知っていることで、未体験ゾーンの相場の海の航海に役立つでしょう。
まずは観察。
目の前を走馬灯のように通り過ぎていく事柄を、捕まえる能力は誰にでも備わっているもの。
「クレヨンで説明できないアイデアには決して投資するな」。
「株価の今日や明日、または来週の動きは、単なる気紛れでしかない」。
「会社に投資するのであって株価に投資するのではない」。
ピーター・リンチ氏の名言としか言いようがありません。

 

櫻井 英明(さくらい えいめい)
ストックウェザー「兜町カタリスト」編集長

日興証券での機関投資家の運用トレーダー、「株式新聞Weekly編集長」などを経て、2008年7月からストックウェザー「兜町カタリスト」編集長。
幅広い情報チャネルとマーケット分析、最新経済動向を株式市場の観点から分析した独特の未来予測に定評があり、個人投資家からの人気も高い。

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