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新興国・資源国通貨展望:経済・政治情勢を映した選別の動きは継続へ

Developing country
(写真=PIXTA)

 2016年1-3月期の新興国・資源国通貨は、前年夏ごろより続いていた下落傾向から反発しました。

 その理由は新興国・資源国通貨の下落につながる3つの懸念――中国景気の減速、商品市況の低迷、米国の利上げによる資金流出懸念――が弱まったからとみられます。

 米国の利上げペースは、金融市場に配慮してゆるやかなものになるとみられます。このため、ドル買いと新興国・資源国通貨売りが加速する事態は起きにくくなっていると思われます。

 今後は中国経済や商品市況の動向を注視しつつ、新興国・資源国通貨は、(1)経済ファンダメンタルズ、(2)政策への信認度、(3)資源・中国依存度――といった観点での選別の動きが継続するとみられます。

 豪ドルは下がりそうで下がらない、底堅さを増していく展開が予想されます。これは豪州で資源セクターから非資源セクターへの経済のリバランス(構造転換)が進んでいるからです。ブラジルレアルは政治情勢に加え、インフレ抑制などのファンダメンタルズ(経済の基礎的な条件を決める指標)に改善がみられるかどうかが焦点になりそうです。

2016年1-3月期の資源国・新興国通貨は反発

 2016年1-3月期の新興国・資源国通貨は反発しました。とりわけ2015年に売られて安くなっていた新興国・資源国通貨は大きく値を戻しました。

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新興国・資源国通貨への3つの逆風が和らぐ

 新興国・資源国通貨の反発には、通貨を取り巻く3つの逆風が和らいできたことが挙げられます。3つの逆風とは、(1)中国景気の減速懸念、(2)商品市況の低迷長期化、(3)米利上げサイクル入りによる資金流出懸念――です。

 年明け以降は、中国の人民元安基調の強まりなどを背景に、中国経済への懸念が高まりました。原油相場も30ドルを割り込む水準まで下落したため、リスク回避の動きが一段と強まり、新興国・資源国通貨の下がる勢いが強まる場面が見られました。

 しかし、2月半ば以降は、(1)中国当局の積極財政方針に基づいた景気対策への期待等を背景に、(2)原油をはじめ商品市況が全般的に反発。(3)3月の米連邦公開市場委員会(FOMC)では、世界経済や金融情勢に配慮して米利上げペースが鈍化する――との見方が広がりました。

 3つの下押し圧力が和らいだ結果、新興国・資源国通貨が値を戻したのです。

 4月以降は、再び米国の利上げが金融市場の主要テーマとなるでしょう。

 ただ、米国の利上げはゆるやかなペースになるとみられ、従来のようなドル買いの一方で、新興国・資源国通貨売りが加速する事態は起こりにくくなっていると思われます。

 もっとも、中国が投資から消費主導の成長に構造改革を進める過程で、景気が悪化する懸念が再び高まる可能性がありますし、原油などの供給過剰状態は改善していませんから、商品市況の動向には引き続き留意しておくべきでしょう。

 新興国・資源国通貨は引き続き、(1)経済ファンダメンタルズ、(2)政策への信認度、(3)資源・中国依存度、といった3つのテーマで選別される展開を予想しています。

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豪ドルは豪州経済のリバランス進展で底堅さ NZドルは金利先安観測で弱含みを想定

 豪州では、これまでの豪州準備銀行による金融緩和や豪ドル安の効果が、住宅市場や観光部門などのサービス業に波及しています。経済のリバランス(資源セクターから非資源セクターへの構造転換)の進展が顕在化しつつあるのです。

 鉄鉱石などの商品価格の下落に対する耐久力は以前よりも高まっており、豪ドルは底堅さを増す展開を想定しています。

 ニュージーランド準備銀行(RBNZ)は今年3月に利下げを実施し、政策金利は2.50%から2.25%に引き下げられ、過去最低を更新しました。RBNZは追加緩和する可能性を示しております。金利が下がるという観測が高まっていることから、当分の間、NZドルは弱含み基調(多少なりとも下がる傾向)での推移が見込まれます。

ブラジルレアルは政治や物価動向 トルコリラは地政学リスク インドルピーはモディ改革に注目

 ブラジルでは、不正会計操作と違法献金問題が生じていたルセフ大統領の弾劾への期待が高まっており、これが通貨レアルにとってはポジティブな材料と受け止められています。政権が交代すれば、停滞している政治状況が打破されるのではと見られているからです。

 ただ、弾劾が実現しても、レアルが持続的な上昇基調に戻るためには、インフレ抑制などの経済ファンダメンタルズの改善が必要です。

 トルコでは、政府サイドが利下げを要求しており、中央銀行および金融政策の(政府からの)独立性が維持できるかといった懸念がくすぶっています。ロシアとの関係悪化や、地政学リスクの高まりなどを背景に、トルコへの投資資金の流入が抑えられるとみられ、リラはなかなか値上がりしないでしょう。

 インドルピーは経済ファンダメンタルズの良好さが保たれているなか、モディ政権の政策運営の行方とともに市場の改革期待が維持されるかに注目したいところです。 

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