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オーストラリアの中央銀行が低インフレを警戒して利下げ

Australia
(写真=PIXTA)

・ 中央銀行である豪州準備銀行(RBA)が、インフレ率が予想外に低水準で推移していることを警戒して2015年5月以来1年ぶりとなる利下げを発表、政策金利は史上最低水準となる1.75%となりました。

・ 利下げの理由は、2016年1-3月期の消費者物価指数が前年比+1.3%になるなど、インフレ圧力が弱まっていることです。動向次第で追加利下げの可能性があります。

・ 一方、RBAの豪州景気に対する前向きの姿勢に大きな変化はなく、成長率見通しはほぼ据え置かれました。住宅市場過熱の抑制が利下げを正当化した側面もあります。

・ 豪ドル相場はCPI(消費者物価指数)の弱さや利下げを受けて下落しましたが、売りトレンドに転じたとみるのは時期尚早かもしれません。RBAは当面様子見姿勢を維持するとみられ、豪ドル相場も次第に下げにくくなるでしょう。

RBAは1年ぶりの利下げ、政策金利は過去最低を更新

 豪州準備銀行(RBA)は5月3日の金融政策理事会で、政策金利(オフィシャル・キャッシュレート)を0.25ポイント引き下げ、1.75%にすると発表しました。これは史上最低水準で、利下げは2015年5月に実施されて以来1年ぶりです。

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 RBAは今回の利下げの理由を、「インフレ圧力が予想外に弱いとの指標を受けた措置」としています。4月27日に発表された2016年1-3月期の消費者物価指数(CPI)が予想を大幅に下回る伸びとなったことがその理由です。

1-3月期CPIは目標レンジを大幅に下回る伸びに

 1-3月期の消費者物価指数は前期比▲0.2%と予想(同+0.2%)外のマイナスとなり、前年比でも+1.3%と予想(同+1.7%)を下回っています。RBAが重視する基調インフレ率は同+1.55%となり、RBAのインフレ目標レンジ(前年比+2%〜+3%)を大幅に下回るとともに史上最低の伸び率となりました。

 前回2月の金融政策報告(SMP)で示されたRBAによる基調インフレ率の見通し(6月末時点で前年比+2.0%)をも大きく下回っています。

 指標の内訳をみると、原油安を受けてガソリン価格が前期比▲10.0%と大幅に下落したことが、最大の物価押し下げ要因のようです。豪州統計局(ABS)によると、ガソリン価格は1月に前月比▲5.5%、2月に同▲5.4%と大きく下落した後、3月には原油価格の急反発を受けて同+1.8%となっています。その後も原油価格の持ち直しが続いていることからすれば、4-6月期には持ち直す可能性が高いでしょう。

 また通年物や夏物の豊富な供給から、果実の価格が前期比▲11.1%と大きく下げたことや、夏休みシーズンなどの季節的な要因から海外観光旅行・宿泊施設の価格が同▲2.0%となったことも、押し下げ要因となっています。ただ一時的な要因である可能性があり、実際にRBAは声明の中でも「四半期データには一部一時的な要因を含む」と述べています。

 一方、中等教育などの教育費(前期比+3.1%)や医療・病院サービス、医薬品などの健康費(同+1.9%)などは、逆に物価押し上げに寄与しており、良好な内需を反映している側面もうかがえます。

 もっとも、全体の約6割を占める非貿易財価格は前年比+1.7%と1999年4-6月期以来の水準まで伸びが鈍化しています。このためRBAの低インフレへの警戒感は強まっている可能性があります。

 5月のSMPでは、非貿易財価格の抑制要因として(1)予想外に低い労働コストの伸び、(2)小売業の価格競争の激化、(3)不動産賃貸・建設市場の鈍化、(4)燃料代等の企業の投入コスト低下などを挙げており、豪ドル安による輸入価格上昇を相殺したと述べています。

 RBAは5月のSMPで基調インフレ率の見通しについて、2016年6月を前年比+2.0%から同+1.5%へ、同12月を同+2%~+3%から同+1%~+2%へ、その後18年6月までを同+2%~+3%から同+1.5%~+2.5%へと下方修正しています。

 こうしたインフレ見通しの変化を相殺する形で今回利下げに踏み切ったとすれば、今後の動向次第ではさらに1.50%までの追加利下げの可能性も否定できません。

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経済に対する前向きな姿勢は変わらず

 一方で、RBAは豪州経済の先行きに対する前向きな姿勢はおおむね維持しています。声明でも「鉱業ブームからのリバランスが続いている」「2015年のGDP成長率は特に下半期を中心に上向いた」「労働市場は改善した」などと述べています。

  「2016年も成長が続くが、より緩やかなペースになる可能性が高い」「労働市場の最新指標はまちまちになっている」として一部に不透明要素もあることを示唆しています。しかし今後も足元の成長ペースが続く可能性があり、低金利や2013年初め以降の豪ドル安の効果などから、成長率はトレンドを上回るペースへと徐々に加速していくとの見方は変わっていません。このため、SMPでもGDP成長率の見通しは、前回2月からほぼ据え置かれています。

 個別の需要項目で見ても、家計消費は低金利から2015年後半以降に上向いたペースが続き、住宅投資も監視措置の強化により伸びは鈍化しましたが、受注残高の多さから今後も強い伸びが続くとしています。設備投資については、非鉱業投資は依然として抑制されているものの、予測期間後半にかけて徐々に上向くとしています。その一方、鉱業投資が減少する中で、その減少ペースは徐々に弱まるとの指摘もしています。輸出については、LNGの生産設備稼働などにともなう資源輸出の増加が、鉱業投資の減少を一部相殺、サービス純輸出も成長に大きく寄与するといった見方を変えていません。

 為替相場については、「豪ドル高が必要な経済的な調整を複雑にしてしまうおそれがある」として、前月に続いてマイルドなけん制を行いましたが、かつてのような強いけん制は控えられているようです。

 声明には今回の利下げに際して「住宅市場の動向を注視している」とのコメントが入っています。監視措置による融資基準の厳格化から住宅価格の上昇圧力が弱まったことで、「現時点では住宅市場にもたらす利下げのリスクは1年前に比べて小さくなった」との指摘がされています。

 前述の通り経済見通しに大きな変化がない中で、インフレ見通しの引き下げのみによる利下げを正当化するうえで、利下げによる住宅市場過熱への懸念が薄れたことがそれを後押しした点を強調した面もあると思われます。

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豪ドルは1月以降の持ち直しが一巡、今後は上値の重い推移に

 豪ドルの対米ドル相場は、鉄鉱石や原油価格などの商品市況の反発、米利上げ観測の後退による米ドル安、RBAによる豪州景気に対する前向きな姿勢と利下げ打ち止め感などを背景に、1月に付けた0.68ドル台を底に持ち直しの動きが続き、4月下旬にかけては一時2015年6月以来となる0.7835ドルの高値を付ける場面がありました。

 しかし、4月27日に発表された2016年1-3月期の消費者物価指数が予想外の低い伸びとなったことをきっかけに反落。5月3日のRBA金融政策理事会では、0.25%の利下げ予想と金利据え置き予想が拮抗していた(ブルームバーグの調査ではエコノミスト27人中15人が据え置き、12人が利下げを予想)こともあり、利下げ発表後に豪ドルは一段安となりました。さらに5月6日に発表されたSMPでインフレ見通しが大幅に下方修正されたことから、追加利下げ観測の強まりを背景に豪ドルは一時3月上旬以来となる0.73ドル台前半まで値を下げています。

 IMM通貨先物市場(シカゴ・マーカンタイル取引所の国際通貨先物市場)の投機筋のポジション動向をみると、2015年末以降にショートポジション(売り持ち)の巻き戻しが続いた後、年明け後2016年2月以降はロングポジション(買い持ち)の積み上がりから買い越しに転じていました。

 こうした中で、RBAによるインフレ見通しの引き下げから追加利下げの可能性が浮上したことで、目先はロングポジションの解消による売りが豪ドル相場の下振れ要因になる可能性が高いとみられます。

 ただ市場が売りトレンドに転換したとみるのは時期尚早でしょう。前述した通り、今回の金融政策理事会の声明やSMPのコメントを見る限り、RBAは豪州景気の先行きに対して前向きな姿勢を崩していません。利下げを急いでいるような様子はうかがえないのです。2015年前半にかけて強い警戒を示してきた為替相場の動向についても、今のところ強いけん制はみられません。

 あえて住宅市場の動向を注視すると言及している点から見ても、今回の利下げはインフレ見通しの下方修正にともなう調整的なものととらえることもできるでしょう。

 もちろん、インフレ動向次第で追加利下げの可能性は否定できず、7月27日に発表予定の4-6月期CPIの結果を見たうえで、今後の追加利下げの有無を判断することが予想されます。

 このため、RBAは当面の間は様子見姿勢を続ける公算が大きいでしょう。

 対円では、日銀による追加緩和見送りを受けた投機的な円買いもあり、節目である80円を割り込み、一時2月に付けた安値に迫る78円台前半まで値を下げています。これを割り込むかどうかが目先の重要なポイントとなります。

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