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榊原正幸教授に聞く「インフレ時代における資産運用の考え方とは」後編

前回のインタビューでは、政府が推進するインフレ政策の内容と、私たちの生活への影響についてお話をうかがいました。第2回目となる今回は、そんなインフレ時代をどう生き抜くかをテーマに、引き続き、青山学院大学大学院の榊原正幸教授にご教示いただきます(このインタビューは2017年9月20日に行われました)。
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万が一に備えてとる行動とは

――前回は、インフレ政策がこのまま進んでいってしまうと、私たちの生活が破たんする可能性もゼロではないという、最悪のシナリオについてお聞かせいただきました。万が一に備えて、私たちはどのような自己防衛策を講じるのが望ましいのでしょうか。

榊原氏:あくまでも個人的な見解になりますが、やはり土地と株と金への投資はポイントの1つとなるのではないでしょうか。結局、インフレが進行すると、預金の実質的な価値が圧縮されるわけですから、たとえ1,000万円~2,000万円を預金で持っていたとしても大丈夫だといっていられる時代ではなくなってしまう。“貯蓄から投資へ”という国策に乗っていっているわけではありませんが、やはり、なんらかの投資を考えざるを得ない状況といえます。

時々、“貯金も投資だ”という人がいるのですが、その昔、預金の金利が6%~7%ついていた頃であればまだしも、今は違っています。このままインフレが続き、その状況を抑制するために国債の利率が上がれば、預金金利も上がってくるでしょうから、確かに貯金も投資だよねという話になりますが、少なくともこの15年間は低金利時代が続いています。低金利の時代においては貯金というものは、お金がそのまま置いてあることに近い状況なのですよね。確かに蓄えることも大事だとは思いますが、今、銀行に預けたとしても、ほとんど増えないというのはいえますね。

そうなると、やはり土地、株、金がいいという話になります。特に土地の場合、もう良い物件はほとんどが値上がりしているので、今は投資するには手を出しづらいかもしれません。ねらい目は2021年から2022年に迎えるであろう、オリンピック後のバブル崩壊ですよ。一気に地価が下がる可能性があります。もし、そうなると考えるのであれば、今から5年間、貯金をして頭金を作っておいて、5年後に不動産を購入するための準備を進めればいいのではないでしょうか。

金については、まだ株や土地ほど値上がりはしていません。2014年以降は4,000円から5,000円/gの間で推移しているため、4,000円台前半になったら買いを検討してもいいのではないかと思います。勘違いしてほしくないのは、安いときに買って、高いときに売るというのは、株と土地の話であって、金はとにかく長く持っておいたほうがいい資産で、ハイパーインフレに対するお守りみたいなものです。株と土地には当たり外れがありますが、金には当たり外れはない。しかも物価上昇率に確実についていくので、インフレになっても食いっぱぐれずにすみますね。

金は貯金とは大きく性質が違っています。金には利子はつかないのですが、その代わりキャピタルゲインが期待できますから、それが利息の代わりになります。

そもそも預金利息も現状ではほとんど期待できないわけですから。しかもインフレについていくのであれば、たとえこの先、物価が1,000倍になっていたとしても、金の価格も1,000倍となり、老後の保障になる。10年、20年、30年というスパンでみたら、金の資産価値は十分だと思います。そもそも金を買って貯めておく行為そのものが貯金なんですよね。だいたいみなさんは、1万円札をお金だと思っていますけれども、お金の元は金ですからね。金では、やり取りがしづらいから、お金に変えたんですから、やはり金は投資ではなく貯金なんですよ。

投資は長期的に学び、育てるもの

――こんな時代にあっては、やはり投資に関する勉強は必須なような気がします。

榊原氏:すごく難しい理屈や理論を一生懸命体得しようとはいっていません。“あれ?ずっと貯金しているだけでいいの?”とか“インフレになったらどうなるの?”と少し考え、少し勉強するだけでいいのです。その少しの勉強は「どんなに忙しくても、やりましょうよ」ということです。

特別な勉強をするというより「ワールドビジネスサテライト(テレビ東京)」を見るだけでもいいと思っています。それだけでも相当な勉強になるはずです。社会や政治経済のトレンドはどうなっているかがわかるようになりますよ。ただしそれを継続してほしいと思います。10年、20年は続ける。株式投資もうまく運用できるようになるには10年かかりますから。気長に考えてもらわないといけない。でも、株式投資も不動産投資も、10年かけてでも体得する価値があるものだと思います。

勉強をせずに、拙速に行動をしてしまうと失敗するかもしれませんが、最初に勉強して投資をすれば失敗は減ります。まず行動をしてしまうと失敗するかもしれません。失敗から学んでいただいてもいいんですが、壊滅的な失敗は避けたいですよね。まずいろいろな情報を頭に入れて、最初は数十万のレベルから始める。3年ぐらい経って投資に慣れてきて自分のスタンスがわかるようになってきたら、徐々に投資額を増やしていくのでもいいと思います。投資というのは長いスパンで考えるべきであって、短期間で成果を上げようとすると、失敗がつきものです。

だから、若いときから始めたほうがいい。もちろん、50歳~60歳台になったらもう手遅れということではなく、年齢に比例して、老後の生活を検討するうえで投資額が大きくなっていくという話です。例えば20代の人は50万円の投資でいいけれども60代の人は、もう3,000万円は持っている必要がある。若いほど有利なんですよ。年功序列の逆セオリー。これが新しい日本の価値観ではないかと思います。若いほうが必要な資金は小さくてすむ。長い期間があるから、莫大に増えていくし、若いほうが有利だという理論は素敵です。いかにも21世紀的ですよね。

自分がわからないものには手を出さないという基本

――日本の場合にはまだ、どうしても投資に対してギャンブル的なイメージを抱く人も少なくはないですが、先生がおっしゃる“アカデミックな投資”のお話を聞くと、ぐっとイメージが変わりますね。

榊原氏:日本人の個人投資家のうち少なからずの人が、“当て勘”頼みでやってきた。噂とかガセネタ拾ってきてね。市場でいいといわれると“買い”だとか、今下がったから、“売り”だとか。客観的にみたら、これはやめたほうがいいのではないかと思うんですね。当てずっぽうではなく、科学的な根拠をもって投資をする。当て勘で儲かったらラッキーという感覚では長続きしないし、だいたいうまくいかないことが多いように思いますよ。株式であれば、少なくともPBR(純資産倍率)、ROE(株主資本利益率)、PER(株価収益率)くらいの基本的指標について理解して、自分なりに分析をしてから投資をすべきですよね。そういった当たり前のことを当たり前のようにきちんとやることが大事ですよね。それを着実に積み重ねていったら、長期的に考えるとだいたい年率で10%ぐらいの利益は出せるようになるのではないでしょうか。

――近年は株式や土地、金以外にも新たな投資商品が登場していますが、先生としてはどのようにとらえていますか。

榊原氏:伝説の投資家といわれるウォーレン・バフェットは、ITのことが全然わからないといわれていますよね。そのため、彼は2000年前後に起こったITバブル時、IT株にまったく投資しなかったんですよね。自分がわからないものには手を出さないというバフェット氏の考え方を真似するつもりではないですが、基本はそこにあると思います。つまり、“わけのわからないものはやめておいたら”と。

ビットコインやHYIP(High Yield Investment Program (ハイ・イールド・インベストメント・プログラム))をちゃんと理解している人はどれくらいいるのでしょうか。外国株もそうですよね。“これからロシアが伸びるんじゃないかな”とかいう話みたいに自分の頭からフワッと離れてしまうような話はやめておいたほうがいいと私は思っています。“日本株は、もう伸びない”などという人もいますが、本当に日本を代表する世界企業の将来はないのか?本当にダメなのか?という話です。安いうちに買っておけば益を生むチャンスは十分あると思います。わけのわからないものは、自分でちゃんと理解できていないから、結局、当てずっぽうになってしまう。“儲かる”という噂を聞いて、よくわからないけれども投資するというのは、危険な発想です。しっかり理解して、アカデミックにアプローチができないのであれば、手を出すべきではないと思います。

榊原正幸(さかきばら・まさゆき)
青山学院大学国際マネジメント研究科教授。
1990年名古屋大学大学院経済学研究科博士課程修了。1997年より東北大学助教授。2001年レディング大学よりPhDを授与される。2003年東北大学大学院教授を経て、2004年から現職。
主な著書に「現役大学教授がこっそり教える 株式投資『必勝ゼミ』」シリーズ、「現役大学教授が本音で教える いちばん安心できる『お金の授業』」など。

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