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イエレン議長は慎重ながらも、過度に悲観はせず ~米国・イエレンFRB議長の講演

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(写真=PIXTA)

 イエレン米連邦準備理事会(FRB)議長は6/6に講演を行いました。失望的な結果となった5月の雇用統計を受けて、6月の利上げはほぼなくなったと考えられます。一方、イエレン議長は、1ヵ月の指標を過度に重視すべきでないとも言及しました。経済見通しや、緩やかな利上げという政策の方向性を維持しています。今後の経済データや金融市場の動向、FRB当局者の発言等をふまえて、実際の利上げのタイミングを探っていくことになります。

雇用統計の結果は失望的だが、1ヵ月のデータを過度に重視もせず

 イエレン米連邦準備理事会(FRB)議長は6/6に講演を行いました。5月雇用統計の下振れを受けて、どのような認識が示されるかが注目されていましたが、慎重ながら、過度に悲観もしないバランスのとれた内容でした。

 議長は5月の雇用統計について、失望的な結果であり、労働市場の動向を注視していく必要があると述べました。また、6/14~15に開催される米連邦公開市場委員会(FOMC)の翌週、6/23に行われる英国の欧州連合(EU)残留・離脱をめぐる国民投票について、投資家のセンチメントを変化させ、経済に重大な影響を及ぼしうると言及しました。こうした点に加えて、5/27にイエレン議長は「今後数ヵ月以内の利上げが適切」と述べていましたが、今回の講演では、こうしたタイミングを示唆する発言はありませんでした。これらの点から、6月利上げの可能性はほぼなくなったと考えられます。

 一方、米国経済の緩やかな成長や労働市場のさらなる改善が続き、インフレ率が今後1~2年で目標である2%に向かって上昇していくという、従来の見通しを改めて示すとともに、今後のデータがこうした見通しと整合的であれば、さらなる緩やかな利上げが適切であるという姿勢を維持しています。雇用統計についても、新規失業保険申請件数や消費者サーベイ等、労働市場に関する良好な指標も出ていることに言及しました。賃金上昇率が上向いてきたという明るい動きも指摘しつつ、1ヵ月の指標を過度に重要にとらえるべきではないとも述べました。

 そのうえで、基本的には前向きな見方を維持しつつ、①世界経済が不安定ななかでの、国内需要の回復力、②中国の成長見通しへの懸念といった海外の経済状況、③労働生産性の上昇率、④インフレ率の見通しやインフレ期待等、経済見通しに関する不確実性が存在していることにも言及しました。政策決定はデータ次第であって、あらかじめ決まった経路があるわけではなく、経済見通しやそれに関するリスクの変化に応じて、政策金利の経路も変わりうるとの姿勢を改めて示しました。

7月利上げの可能性は残るが、FRBはデータ次第のスタンスを維持へ

 議長は1ヵ月の指標を過度に重視しないとしながらも、雇用統計は経済見通しに新たな疑問を生じさせたとも発言しました。5月雇用統計の弱さが全般的な景気減速の先駆けなのか、年初の堅調な雇用増加ペースに戻るのか、労働市場は完全雇用に達しているのか、なお労働市場の緩みが残っているかどうか等の点について見極めていく姿勢を示しています。このため、今後の雇用統計において雇用者の増加ペースが回復していくのか、賃金上昇率が高まっていく傾向が続いていくと判断できるか等の点が利上げ決定におけるポイントになると考えられます。

 一部では、米国経済の緩やかな成長や労働市場の改善が続き、インフレ率も上向いていくとのみかたもあり、今後も利上げの方向性に変化はないとも考えられます。

 こうしたなか、7/8発表予定の次回6月分の雇用統計において、雇用の増加ペースが回復(5月分が上昇していればさらに望ましい)していれば、7/26~27に開催されるFOMCでの利上げの可能性は残るとみています。今後の経済データや金融市場の動向、FRB当局者の発言等をふまえて、金融市場としても実際の利上げのタイミングを探っていくことになるでしょう。

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