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世界に広がる高齢化と医療費の拡大

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(写真=PIXTA)

 先進国を中心に進む高齢化や、新興国における人口増加を背景に、医療支出は拡大傾向にあります。また、所得水準の上昇や高齢化にともない、生活の質の向上が求められる中で、疾病予防や個別化医療、患者に負担の少ない治療へのニーズは高まっています。こうしたことから疾病の予防や診断、治療に使用される遺伝子解析装置や医療機器に対する需要は一段の拡大が期待されています。

進展する健康寿命の延伸への取り組み

 先進国を中心に進む高齢化や、新興国における人口増加を背景に、医療支出は拡大傾向にあります。世界の医療支出は1995年から年平均5.9%のペースで拡大が続き、2014年には7.6兆ドルに達しました。現在、先進国を中心に高齢化が急速に進んでおり、GDPに占める医療費の比率も上昇傾向にあります。なかでも、米国のGDPに占める医療費の比率は2014年で17%と世界全体の10%と比較しても突出して高い状況です。高騰する医薬品価格を抑制しようとの動きがみられます。

 一方、2013年より導入された医療機器物品税は、課税猶予制度や廃止に向けた動きがあり、医療機器業界にとっては税制面で改善の兆しもみられます。世界一高齢化が進む日本でも、概算医療費は拡大が続き、医療機器市場は中長期的な成長の持続が予想されます。

 また、新興国の1人当たり医療費は先進国と比べ低く、米国と比較してロシア、ブラジルは10倍前後の格差があります。新興国においても、高齢化は進んでおり、2040年には人口に占める65歳以上の割合を示す高齢化率が、中国やロシアでも超高齢化社会といわれ21%を超えるとみられます。特に中国では、所得の向上や人口増加、高齢化の進行から、2014年の医療支出は13年比12.5%増と2ケタの伸びが続いています。新興国においても、医療機器需要の拡大に拍車がかかると考えられます。

世界に広がる高齢化_図1(出所:世界銀行のデータより)

進展する健康寿命の延伸への取り組み

 医療支出の増加の背景には、人口増加や所得水準の上昇、高齢化等さまざまな要因が挙げられます。日本は長寿大国ですが、平均寿命と健康寿命の差は2013年で9年あり、世界全体の平均でみてもほぼ同様の水準にあります。平均寿命が伸びても寝たきりの状態が続けば、医療費や介護費がかさむこととなります。こうした医療費を抑制する目的から、予防医療による健康寿命の延伸への取り組みが進んでいます。具体的には、遺伝子解析により患者への効果的な治療を行う個別化医療や、疾病の早期発見による最小限の治療を行う先制医療が挙げられます。

 また、生活の質の向上を図るうえで患者に負担の少ない治療へのニーズも高まっています。こうしたことから疾病の予防や診断、治療に使用される遺伝子解析装置や医療機器の需要も拡大することが考えられます。

個別化医療と次世代バイオ医薬品の開発で高い治療効果に期待

 個別化医療は従来のような特定の疾病に合わせた治療法ではなく、各患者の分子・遺伝子情報に応じた治療法です。患者にとって最適な治療を提供することが可能となり、高い効果と副作用の軽減に加え、効果が見込めない治療を回避できるため、医療費の抑制も期待されています。

 次世代シーケンサー(遺伝子解析装置)の開発により、時間やコストの大幅な圧縮が実現しており、2013年には次世代ゲノム編集技術が登場する等、バイオテクノロジーが飛躍的な発展を遂げています。バイオテクノロジーの進歩で、がん等疾患の原因となる分子の解明が進み、当該分子にのみ作用する分子標的薬の開発が進展しています。さらに、分子標的薬とバイオマーカーを組み合わせる個別化医療、次世代バイオ医薬品の開発が進むでしょう。

高齢化が進む先進国で脊椎(せきつい)疾患が増加傾向

 厚生労働省の患者調査によれば、日本の65歳以上の外来疾患の患者数は、脊柱障害が高血圧疾患に次ぐ規模となっています。特に整形外科業界の中で最大となっている脊椎疾患治療市場は、安定した成長が見込まれています。これは先進国において、高齢化に伴う脊椎や腰椎疾患が増加傾向にあることが背景にあり、脊椎手術機器メーカーにとって、追い風になるとみられています。

 また、患者への身体的負担を抑制する低侵襲手術に焦点を当て技術革新が進み、低侵襲手術製品は高成長を遂げています。低侵襲とは内視鏡等を用い創傷を軽減し手術にともなう出血や痛み等、患者の身体への負担を抑制した手法です。これにより安全性の高い手術を実現しており、従来の固定術と比較して臨床的に出血の軽減、手術時間の短縮、入院期間の短縮等が確認されています。

 また神経モニタリングシステムは、施術中に何らかの神経的損傷があれば即座に外科医に通知して脊椎の神経要素の損傷する事故を防止し、神経と脊髄の安全を確保することができます。

生活の質の向上に配慮した医療ニーズはさらに拡大

 高齢化や所得水準の向上にともない、生活の質の向上に配慮した医療へのニーズはさらに拡大するとみられています。こうしたことから、疾病の予防や診断等、個別化医療に使われるライフサイエンス関連機器や低侵襲手術製品等の関連機器メーカーは恩恵を受けると考えられます。

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