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米国経済は堅調も、利上げは当面見送りへ

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(写真=PIXTA)

 6月の米雇用統計では雇用者数が大幅な増加となり、5月の下振れが一時的な動きであったことが確認されました。英国の欧州連合(EU)離脱問題が直接的に及ぼす影響は限定的であり、米国経済は今後も堅調な推移が見込まれます。一方、先行きに対する不透明感が残るなかで、米連邦準備理事会(FRB)は当面利上げを見送り、慎重に状況を見極めていくとみられます。堅調な米国経済と緩和的な金融環境が株式等のリスク資産価格を支える環境は今後も維持されるでしょう。

雇用の増加ペースは5月の下振れから大幅に持ち直し

 7月8日に発表された6月の雇用統計では、非農業部門雇用者数が前月比+28.7万人となり、市場予想(ブルームバーグの集計では同+18.0万人)を大幅に上回りました。5月の雇用統計では同+3.8万人(その後、同+1.1万人に下方修正)と増加ペースが下振れたことが懸念されましたが、こうした動きは一時的なものであったことが確認されました。

 また、6月の失業率は4.9%となり、5月の4.7%からは上昇しましたが、これまで求職活動を断念していた人が職探しを再開したことを反映した面があるため、内容としては前向きな動きといえます。米国の労働市場は完全雇用の状態に近づいており、こうした労働市場の引き締まりを受けて、6月の平均時給は前年同月比+2.6%と緩やかに伸び率を高めています。

英国のEU離脱の影響は限定的なものに

 今後について考えると、労働市場が完全雇用の状態に近づいているため、雇用の増加ペースは低下していく一方、賃金の上昇率は高まっていくとみられます。実際、4月~6月平均の雇用者の増加ペースは14.7万人と1月~3月平均の19.6万人や2015年の月平均増加ペースである22.9万人を下回りますが、賃金上昇率は緩やかに高まっています。

 このように、雇用の増加ペースが低下していくとしても、賃金の伸びが補う形で所得の増加が続くとみられます。こうした所得の増加が個人消費を中心とする米国経済の緩やかな成長を支え、それがさらなる労働市場の改善につながっていくという米国経済の好循環は今後も維持されるでしょう。

 なお、英国の欧州連合(EU)離脱問題の影響が懸念はされますが、米国の輸出に占める英国向けの割合(財・サービスの合計、2015年)は5.5%であり、GDP比では0.7%にとどまります。先行き不透明感の高まりによる企業の投資手控えや貿易を通じて他の国・地域の経済が下押しされる等、間接的な影響が及ぶ可能性には留意が必要ですが、直接的な影響は限定的といえるでしょう。

 実際、米供給管理協会(ISM)が行った英国のEU離脱問題の影響についての調査によると、回答企業のうち61%が影響はほとんど無視できる程度であり、大半の企業が雇用や設備投資には影響が及ばないとしています。

FRBは当面、利上げを見送る可能性

 このように、米国経済は今後も堅調な推移が見込まれる一方で、米連邦準備理事会(FRB)による利上げは当面、見送られるとみています。英国のEU離脱問題により、世界経済の先行きに対する不透明感が高まったほか、米国でも設備投資や労働生産性上昇率の低迷等、懸念される動きもあります。このため、FRBは当面、慎重に今後の展開を見極めていく可能性が高いと思われます。

 一部では、労働市場が完全雇用に近づき、インフレ率が上向いているという米国のファンダメンタルズを考えれば、利上げの方向性に変化はないと考えられていますが、次回の利上げは早くても12月までは見送られると予想されています。 

 金融市場でも米利上げが当面は見送られるという見方は強く、堅調な雇用統計を受けた後でも、市場が織り込む年内の利上げの確率は30%程度にとどまっています。こうした見方や英国をはじめとする各国・地域の中央銀行による金融緩和期待等から、米10年国債利回り(長期金利)は過去最低水準まで低下しました。米利上げ観測が再び高まるにつれて、長期金利も上昇していくとみられますが、利上げのペースは緩やかであると見込まれるため、上昇余地は限定的なものにとどまるでしょう。このため、堅調な米国経済と緩和的な金融環境が、株式等のリスク資産価格を支える環境は今後も維持されると考えられます。

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