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中国IT企業大手がO2Oへの取り組みを強化

O2O
(写真=PIXTA)

 中国では、インターネットインフラの整備、スマートフォン等のモバイル端末の普及を背景に、オンライン(インターネット経由)で消費者に情報発信をすることでオフライン(実店舗)における購買活動に影響を与えるビジネスモデルO2O(Online to Offline)が急速に普及しています。新興企業による熾(し)烈な競争の収束に向けた業界再編においても影響力を持つIT企業大手が、O2Oビジネスへの取り組みを強化しており注目されています。

モバイル・インターネットの普及が進む

 中国ではインフラの整備によるインターネット環境の改善、スマートフォンやタブレット等のモバイル端末の普及を背景に、モバイル経由でのインターネット利用者が継続的に増加しています。2015年末のモバイル・インターネットの利用者数は14年末比6,300万人増の6.2億人、インターネット利用者数に占める比率は90%に達しました。

表1出所:公表資料より作成

O2O(Online to Offline)市場の拡大

 場所、時間を選ばずにインターネットに接続することができるモバイル・インターネットの普及とともに、近年、O2Oが中国で急速に拡大しています。O2Oとは、企業がインターネットを通じて商品やサービスの情報を消費者に提供し、実店舗での消費活動を促すようなビジネスモデルを指します。また、逆にオフラインからオンラインへと消費者を誘導するようなマーケティング手法や、オンラインとオフラインにおけるビジネス活動の融合および連携といったような広い意味合いでも使われています。O2Oの代表例としては、リクルートHDが運営する「ポンパレ」や、日本でもサービスを展開する米グルーポン等の共同購入サイトが挙げられるでしょう。共同購入サイトの場合は、消費者がサイト上で何らかの特典やクーポンを購入し、サイトに加盟する小売店や飲食店等の実店舗へと実際に足を運び、クーポンを利用し消費を行う、といった仕組みです。
 
【OC】中国IT企業大手がO2Oへの取り組みを強化-表2出所:公表資料より作成

新興企業による熾(し)烈な競争

 中国でO2Oビジネスが本格的に拡大し始めたのは2014年頃からで、電子商取引(EC)、共同購入サイトに始まり、タクシー配車サービス、フードデリバリー、旅行予約、映画チケット購入、家事代行、洗車サービスや、教育、婚礼に関わるものまで多種多様なサービスが登場し、急成長する市場での躍進を狙って新興企業が続々と参入しました。未成熟の市場のため、参入障壁が比較的低かったことや、ベンチャーキャピタル等の投資家からの関心が高く、資金も流れ込みやすかったこと等が要因と考えられます。その結果、似通ったサービスが市場に氾濫(らん)し、各社はシェア獲得のために、採算性を度外視したクーポンのばらまきや、サービスの低価格設定により他社との差別化を図ろうとしました。しかし、価格競争だけでは実質的にユーザーの心を掴(つか)み、定着させることができず、営業コストの上昇、収益性の低下により廃業に追い込まれる新興企業は現在でも少なくありません。

O2Oサービス業界の再編

 2015年、このような状況を変える大きな動きがO2Oサービス業界で立て続けに起こり話題になりました。2月に、タクシー配車サービス市場で互いに激しい価格競争を演じていた滴滴打車(ディーディーダーチャ)と快的打車(クアイディダーチャ)が合併し、滴滴出行(ディーディーチューシン)が誕生しました。また、4月には地域情報コミュニティーサイト大手の58同城(58.com)が同業の赶集網(カンジーワン、Ganji.com)株式の43%を取得すると発表しました。10月に共同購入サイト大手の美団(メイチュアン)、大衆点評(ディアンピン)が共同出資し、ジョイントベンチャーを設立、オンライン旅行代理のCトリップ(CTRP)が同業のチューナー株式の45%を取得しました。いずれのケースも、市場でのシェア争奪のための多額のマーケティング費用が負担となっていました。同種のサービスを提供する企業同士の合併や提携により市場が成熟化することで、O2Oサービス市場における競争が収束に向かうことが期待されています。

IT大手3社、BATのO2Oビジネスに注目

 中国のIT企業大手、バイドゥ、アリババ・グループ・ホールディング(以下アリババ)、テンセント・ホールディングス(以下テンセント)はそれぞれ、その頭文字を取って「BAT」と称されています。この3社はオンライン広告、電子商取引(EC)、オンラインゲームといったそれぞれの分野で、中国のIT業界の成長をけん引してきました。これらIT大手3社もO2Oサービス各社に早い時期から出資することにより、O2O業界へと進出しており、前述の業界の再編にも大きく影響を及ぼしました。

 アリババはもともと、ECサイトや共同購入サイトのジュファサンの運営によりO2Oサービスを展開してきたほか、2011年に美団へ、13年に快的打車へ出資しました。それに加えて、16年4月にフードデリバリー大手の餓了麼(アーラマ)へ出資しました。テンセントは13年に滴滴打車に、14年には58同城、大衆点評に出資しました。また、アリババと同様、餓了麼への出資も行っています。バイドゥは昨年10月に、子会社としていたチューナーの持ち分の一部を株式交換によりCトリップへと譲渡することで、Cトリップとも事業提携を結びました。また、共同購入サイトの百度糯米(バイドゥヌオミ)、フードデリバリーの百度外売(バイドゥワイマイ)等を通じてO2O事業への投資を加速させています。これらIT大手3社によるO2Oビジネスへの取り組みの今後の進展に注目が集まります。

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