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人工知能の技術革新を後押しする半導体の性能向上

AI
(写真=PIXTA)

 人工知能(AI)の幅広い分野の中でも、深層学習は実用化が進みつつあり、応用分野が急成長しています。このような先進技術の普及が拡大している背景の1つに、半導体の性能が大きく向上したことが挙げられます。深層学習の技術進化を後押しする半導体技術に注目してみましょう。

深層学習の実用化が進展

 深層学習はディープラーニングとも呼ばれ、コンピュータ(機械)が自動的に学習して結果の推測を行う機械学習の手法の1つです。音声認識、自動写真整理、写真検索、自然言語処理、言語翻訳等の処理に優れ、近年、大幅に精度が向上したことで、ロボット、医療、自動運転車等、幅広い分野で実用化が進められています。これには、学習を処理する頭脳である半導体の性能が年々向上し、膨大な量のデータをコンピュータで学習することが可能になったことが、深層学習の精度向上に寄与しています。

 深層学習の工程は大きくトレーニング(学習)と推論に分かれます。トレーニングは画像、音声、テキスト等のデータから、コンピュータが特徴分析を実行して自動的に学習する工程であり、推論はトレーニングを基に新たなデータの推測を行う工程です。トレーニングではコンピュータを学習させるため、膨大な量のデータを処理することから、コンピュータの演算速度の向上が深層学習の実用化に大きく影響します。例えば、囲碁のコンピュータプログラム「AlphaGo」では、3週間、50基の画像処理半導体(GPU)を使って3億4,000万回のトレーニングを行ったそうです。この他、半導体の消費電力当たりの性能向上や、データの記憶媒体であるメモリの記憶容量や処理速度の向上等が求められています。

GPUの性能向上でAI分野の利用が拡大

 深層学習の際の演算において、現在、幅広く採用されているのがGPUです。GPUは英語の読みでGraphics processing unitといい、3Dゲーム等の容量の大きい画像処理を行う半導体としてパソコンに搭載されている他、深層学習等に使われる高性能品はデータセンタのサーバに搭載されています。

 GPUがターゲットとする市場は3次元(3D)化によって高画質化するゲーム向けが大きいですが、近年は性能の向上によって深層学習の用途が伸びています。GPUは数千ものコア(頭脳)で演算を並列計算するため、多くの処理を同時に実行できる能力を備え、大規模なデータの高速処理を得意とします。

 一般的にパソコンやサーバの頭脳として使われているCPUは、英語の読みでCentral processing unitといいます。汎用性の高いCPUでGPUと同等の性能を得るには、多くのCPUをサーバに搭載しなければならず、サーバ取得費用等が大幅に増加します。このため、インターネットやクラウドのサービス会社をはじめ、多くの事業会社がデータセンタでGPUの採用を進めています。また、多くの情報をリアルタイムで処理することが求められる自動運転車で、人工知能(AI)としてGPUの利用も期待されています。一方、消費電力当たりの性能は他の技術よりも効率性が劣るとの指摘があります。

GPUを上回る消費電力当たりの性能で注目されるFPGA

 GPU以外の技術では、FPGA(フィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ)の深層学習への利用も注目されています。FPGAはソフトウエアによって製造・出荷後も論理回路の書き換えが可能で、目的に特化した回路を作り出すことができる半導体デバイスです。近年の技術革新で高集積化、高性能化、省電力化、低コスト化が進み、用途が拡大しています。FPGAの消費電力当たりの性能はGPU等と比較して10~35倍高いとの見方もあります。深層学習向けにも利用が広がっており、推論工程での採用の比重が高い技術です。

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