背景にはブラジルの変化があります。ペトロブラスを巡る汚職事件は今なお捜査が続いているものの、すでに多くの政治家が逮捕されました。一連の汚職摘発のなか、権力者とされるクーニャ下院議長が失脚し、ルセフ前大統領も罷免されました。また、汚職事件で機能不全に陥っていた議会も本来の機能を取り戻しつつあります。実際、10月10日には財政改革法案が下院の第1回投票で賛成多数となり、12月に向けて法案成立の可能性が高まっています。
物価(インフレ率)にも落ち着きの兆しが見えます。約2年にわたってブラジルを襲った干ばつは、農産物の価格のみならず水力発電が主力だったブラジルの発電事業も直撃し、電気料金が急激に上昇するなど経済に混乱をもたらしました。この天候不順が徐々に一巡したことで、農産物価格や電気料金が落ち着きを取り戻し、インフレ率も10%台から8%台に低下する動きがみられています。
こういった状況を受けて中央銀行も動き出しました。それまで、汚職問題などを背景としたレアルの急激な下落やインフレ率の急上昇に対応するために、景気が悪くても利上げをしなくてはならない状況に追い込まれていました。しかし、汚職事件や物価に一定の落ち着きがみられ始めたことから、ブラジル中央銀行は10月19日、景気対策のために実に4年ぶりに利下げを行うことを決定しました。利下げは本来通貨の売り材料ですが、景気対策のために利下げをできるまでに状況が改善したことなどを好感し、この後レアルは上昇する動きをみせています。
このように、汚職問題、政治問題、高インフレなどの問題解決に加え、中央銀行が景気対策に乗り出すなど、ブラジルを巡る環境はここにきて大きく変化し始めています。この変化を反映しブラジルレアルも対円で徐々に反発する流れを強めている状況です。
今後も、たとえばテメル新政権でも汚職スキャンダルが続く可能性や、米国の利上げ観測などによって新興国からの資金流出懸念が再燃する可能性などいくつかのリスクが存在するのは確かですが、基本的には政治浄化や財政改革にむけた努力が続くなか、国家に対する信用リスクが改善し、中央銀行の金融政策なども相まってレアルは反転していく可能性が高いのではないか、とみています。
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