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巨竜中国で爆発的に普及するモバイル決済

中国ではスマートフォンがお財布代わり

中国では、スマートフォンの急速な普及を背景にモバイル端末を利用した決済取引がここ数年で爆発的に増加しています。中国全土でタクシーや飲食店、コンビニエンスストア、公共料金、映画チケット等の支払いに加え、結婚式のご祝儀や飲み会の割り勘、個人間の送金等、スマートフォンを携帯する人にとって、あらゆる支払いニーズに対応する生活インフラとして利用されるのはもはや当たり前の光景となっています。中国人は日常的に現金で支払う頻度が減り、その代わりとしてスマートフォンがお財布の役割を果たしつつあります。

電子版お年玉が普及に一役買う

モバイル決済の普及に一役を買ったのが、中華圏最大のイベントである旧正月(春節)の新たな風物詩となった電子版のお年玉です。中国の春節では、故郷に帰省した家族・親族が一同に集まり、日本でいうお年玉の「紅包(ホンバオ)」を渡すのが伝統行事ですが、2014年からは中国の電子商取引の大手企業であるテンセント・ホールディングスとアリババ・グループ・ホールディングスが紅包の習慣を用いて電子マネー・サービスを一気に普及させました。これは、決まった時間にアプリを開いてスマートフォンを振ると、クジのように金一封(お年玉)が協賛企業からもらえるというもので、多くの中国の人々が春節期間限定のサービスを前にアプリをインストールしてスマートフォンを振るのに興じました。

電子決済口座の残高を運用するMMFが爆発的な伸びに

中国の人々は世界有数の貯蓄好きとして知られていますが、これまでは貯蓄を投資に用いる選択肢が限られていました。そこでアリババは、モバイル端末を用いた同社の電子決済サービスである「支払宝(アリペイ)」の利用者が口座残高を「余額宝(ユアバオ:余ったお金を宝に変えるという意味)」というMMF(マネー・マーケット・ファンド)に相当する口座に移し替えるだけで利息が稼げるサービスを2013年から開始しました。1人民元(約16円)といった少額から投資が可能となることや、銀行預金よりも高い金利が評判を呼び、余額宝はたちまち大人気となりました。

また、即日換金すればアリペイの各種決済機能もそのまま利用できるため、利用者は瞬時に決済性資金と貯蓄性資金を振り替えることができるようになりました。2017年3月末時点での余額宝の運用残高は1.1兆人民元(約18兆円)に達し、利用者は2013年の1.5億人からわずか3年で3.2億人超と倍増し、米国の人口にほぼ匹敵するに規模となりました。最近では余額宝に続けとばかりに中国のIT企業やeコマース大手企業が似たような投資商品を売り出したことを受けて、銀行預金からインターネット事業者が提供するオンライン財テク商品への資金流出が加速しており、伝統的な金融機関にとって大きな脅威となりつつあります。

当局による規制強化の影響に注目

ただ、余額宝の資産規模が急速に拡大した結果、その資金の大半が投資されている国内銀行間市場に及ぼす影響が懸念されるようになりました。米国では2016年の秋にMMFのリスク抑制に向けた規制が実施されましたが、この結果、プライムMMFと呼ばれるMMFから1兆ドル(約113兆円)の資金が流出したため、金融機関や民間企業が発行するコマーシャルペーパー(CP)の金利が上昇しました。そのため、CPを通じた資金の借り手であった金融機関や民間企業は他の資金調達手段を模索せざるを得なくなりました。

中国の場合ですと、余額宝の主な運用先は、銀行の大口定期預金や国債といった安全資産が中心とされてきました。しかし、最近では、銀行間市場で譲渡可能預金証書(NCDs)の保有額が増えており、なかにはリスクの高い中小銀行が発行したものが含まれているとされています。また、比較的長期の資産にも多くの資金が投じられるようになってきており、大手の格付会社はこうした傾向が続けば、流動性リスクが高まると指摘しています。また、中国の金融当局は、余額宝に対して投資上限を現在の100万人民元(約1650万円)から半分以下に引き下げるよう要請しているとも報じられており、今後の中国金融市場への影響が注目されます。

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