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岩下直行教授に聞く「Fintech-仮想通貨を巡る現状と今後 ビットコイン分裂とICO動向を中心に」前編

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京都大学・公共政策大学院の岩下直行教授に、全4回にわたってフィンテックの最前線ついてお聞きしている連載インタビュー企画も、今回が3回目となりました。ここからは話題を変えて、最近、何かとホットな話題となっている仮想通貨について話をうかがいました(このインタビューは2017年8月29日に行われました)。

仮想通貨は安全なのか

――ビットコインなどの新しい仮想通貨が登場していますが、これらは安全に利用できるのでしょうか。

岩下氏:仮想通貨が安全に利用できるのかという質問にお答えします。

まずは安全性についていえば、基本的にインターネットやスマートフォン上で動きますから、ウィルスソフトを踏んでしまうと、自分の持っているウォレットの中からお金を盗まれてしまう可能性は否定できません。

銀行であれば、不正送金があったときに保証してくれますが、仮想通貨の場合は取引所もベンチャー企業ですから、それはあまり期待できません。そのような意味では、総体的に見ると普通に預金をインターネット上で取引していた方がはるかに安全でしょう。

十分な知識があって、慎重に扱えばトラブルは防ぐことができるだろうというレベルなので、やはり誰も彼もが仮想通貨に手を出すというのは、少し心配な部分はあります。

それから、利用できるか?という質問についてお答えします。

その“利用”が物を買うという意味であれば、仮想通貨で物を買っている人はほとんどいません。通貨と名乗ってはいますが、明らかに投資資産です。しかも価格変動が激しい。これを資金決済に使うと、商品選びで悩むと同時に、仮想通貨の相場をみながら買い時まで悩まなくてはならなくなります。

それはとんでもないストレスになるので、できれば自分が納得いくところで円にしてから物を買ったほうからはるかに楽だということになります。もちろん、売る側にとっても同様です。

円で作った物、円で仕入れた物の価値を確定することができません。売る側にとっても買う側にとっても、BTCを通貨として使うのは面倒な話になります。

――同時に仮想通貨は匿名性が高いということですが、現金以上にマネーロンダリングなどに悪用されることはないのでしょうか。

岩下氏:勘違いしている人も多いのですが、実はビットコインに匿名性はありません。すべての取引内容が白日のもとにさらされる、そういうものなのです。

すべての利用者の取引履歴の情報を持ったブロックを、P2Pでシェアするというのがブロックチェーンなんですよね。ビットコインを生み出したサトシナカモトはアドレスさえ秘密にしておけば匿名性は保たれるのだと述べていますが、当時とは事情が違うのです。

改正資金決済法によって、取引所はすべてのユーザーの“Know Your Customer”、すなわち本人確認をすることが義務づけられました。すなわち、すべての取引について、少なくとも取引所の人間は全部把握していて、しかも記録に残っているのです。

もしもテロリストに送金したりマネーロンダリングに使われたりすると、当局がすぐ把握できるというのが現在の制度です。したがって仮想通貨を悪事に利用するというのは、それほど簡単なことではありません。

キャッシュレス化は進むのか

――それを聞いて安心しました。ところで今後、現金以外の決済手段が増加し、現金決済が減少していくという意味でキャッシュレス化が進んでいくのかどうか。岩下先生の見解を教えてください。

岩下氏:現金以外の決済手段は、日本でもすでに普及していますよね。日本人が現金ではなくて、カードを使いたがるかどうかというマインドの問題だと思います。ご祝儀やお年玉、香典はさすがにカードというわけにはいきませんし、日本の中で100兆円もの現金が匿名で取引されているのも現状です。

マネーロンダリングなどのリスクがあるから、現金を少なくするべきだという議論は常にあって、今年の政府の未来投資会議のKPIにも定められています。

カードだけではなく、もっとイノベーティブな決済手段ができてきてもいいのではないかと思うのですが、それがビットコインになるかというと、安定性という面から考えても、それは難しいかなと思います。

そのような意味では、キャッシュレス化が進んだ社会になってきたときに、仮想通貨がどのような状況になるかというと、今のままの仮想通貨だったら、引き続き単なる投資対象にとどまるでしょう。

ただし、本当に現金のない社会になって、給料も「ビットコイン建て」でもらい、生活費もすべてビットコインで支払うとなったら、もうビットコインと円との交換比率がどうであるかということはあまり関係なくなって、すべてビットコインで生活するという人も現れるかもしれません。

しかし、今のところは日本の家計資産は1,000兆円以上あって、ビットコインは全世界合わせても7兆円ぐらいしかないので、そう簡単にすべての通貨が仮想通貨に変わるという状況にはならないだろうとは思います。

非現金決済の主役は何になるかというと仮想通貨ではなく、クレジットカードやデビットカードが有力です。でも、今後はもう少し違うものに変わるかもしれませんね。

キャッシュレスになると社会はどう変わっていくのか

――完全にキャッシュレスの時代になると社会はどう変わっていくのでしょう。例えば、犯罪が減っていくとか?

岩下氏:キャッシュレスになったら犯罪が減るかといえば、決してそうとはいいきれません。今年、大きな被害が生じたランサムウェアはビットコインを使っていましたよね。現金がなくなれば犯罪が減るというのは、少々ナイーブと申しますか、短絡的な考えではないかと思うんですよ。

経済の効率性という面から考えると、キャッシュレスの方が絶対にいいですよね。レジで現金のやりとりが発生するよりもカードで支払ったほうがはるかに効率がいいのです。

さらに銀行のネットワークにも非常に大きな影響を与えます。現在の銀行のネットワークは、お金を効率的に配送するための物流ネットワークです。現金という価値のあるものを東京、大阪、名古屋に輸送し、そこから先、支店に配送されATMに納められる。すなわち、現金があるからそういう物流網ができあがったのです。

もしキャッシュレス化されたら、このネットワークは不要になってしまいます。銀行のビジネスという価値にものすごく影響を与える話なのです。では、極端な話、キャッシュレス化されるのだったら、銀行の株を全部売却してクレジットカード会社の株を買えばいいのかというと、それもなかなかうまくいかないでしょう。

なぜかというとカード会社のネットワークもレガシーなので、これも本当にうまくいくかはわからない。ビットコインが使われるとは思わないし、必ずしも二次元バーコードを使った決済がいいとも思わないけれども、インターネットを活用したフィンテック決済が次々に登場していますから、その中から最終的な勝者が出てくる可能性が高いと思います。

>>FinTech~仮想通貨を巡る現状と今後 ビットコイン分裂とICOの動向を中心に」後編に続く

岩下直行(いわした・なおゆき)
京都大学・公共政策大学院教授 PwCあらた有限責任監査法人 スペシャルアドバイザー
1984年慶應義塾大学経済学部卒業後、日本銀行入行。1994年7月、日本銀行金融研究所に異動し、以後約15年間、金融分野における情報セキュリティ技術の研究に従事。同研究所・情報技術研究センター長、下関市店長を経て、2011年7月、日立製作所へ出向。その後、2013年7月、日本銀行決済機構局参事役。2014年5月、同金融機構局審議役・金融高度化センター長。2016年4月、新設されたFinTechセンターの初代所長に就任。2017年3月、日本銀行退職。同年、4月より現職。

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