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岩下直行教授に聞く「FinTech-金融×ITがもたらすイノベーションとは-」後編

前回のインタビューでは、日本の金融機関とFinTech企業の関係について、大変興味深いお話をうかがいました。第2回目となる今回は“金融ITの改革”をテーマに、引き続き、京都大学・公共政策大学院の岩下直行教授にご教示いただきます(このインタビューは2017年8月29日に行われました)。

>>岩下直行教授に聞く「FinTech~金融×ITがもたらすイノベーションとは~」前編はこちら

金融IT改革が必要となるワケとは

――どうして金融IT改革が必要だといわれているのですか。

岩下氏:「金融IT」とは、金融機関の全体のことを指す「金融システム」という用語と混同しないように使用している言葉です。金融機関が使っている情報コンピューターシステムを指しますが、日本の銀行は大変昔から、この情報システムを一生懸命に構築してきました。

1990年代のドキュメントをみると、当時、最も進んでいたコンピューターシステムは銀行のオンラインシステムであることが読みとれます。ところが最近では、どちらかというと銀行は「IT音痴なのではないか」と思われていることもあり、いつのまにか逆転してしまったのです。

ユーザーに近い法人営業や企画部門の人たちから、「どうして銀行のITはこんなに不自由なんだろうか」という声を多く聞きます。

これにはさまざまな歴史的経緯があります。日本の金融ITは非常に堅牢で可用性が高い。要するにセキュリティと、絶対にダウンしてはいけないという考えのもとで設計されています。その結果、非常に柔軟性に乏しいシステムができてしまった。

そのため維持管理にものすごくコストがかかってしまっているのです。本来はイノベーションのためにITを活用するものですが、銀行のシステムの場合は、むしろ逆です。銀行のシステムを触るプロジェクトは少なくとも5年かかるといわれており、明らかに銀行の ITはイノベーションを阻害する要因になってしまっています。

もう1つ、何のためにイノベーションするかという議論があります。

多くの場合、“変革”を目的としており、本来はお客さまのために実行するものです。ところが銀行のシステムは、ユーザーファーストとは言い切れない部分があります。なぜなら、銀行のシステムは省人化のためにあるという発想が根強く存在しているからです。

人手がかかっていた紙でやる作業を、コンピューターを導入することで合理化したり、為替取引を電子化して飛躍的に効率をアップしたりと、省人化という過去の成功体験があるのです。それはシステム開発の1つの方法論としてまったく否定するわけではないのですが、どうみてもユーザーの方を向いてない。それはこれまでの銀行のシステム開発の中でのこれまでの見誤り方だと思うのです。

さらにもう1つ、日本の銀行のシステムは、いわゆるレガシーを引きずっているという問題もあげられると思っています。もちろんそれは、日本だけの問題ではありません。先進国と言われる国はどこもかしこもレガシーを持っています。

ところが、日本の場合は特殊な事情があって、ヨーロッパやアメリカよりもさらに遅れがでてしまっているんです。それはシステムの構造の違いによるものです。日本はオンラインのリアルタイムのシステムを中央集権ですべて集めていると特徴を持っています。これに対してアメリカの銀行はシステムが分散的に作られています。

日本とアメリカの雇用慣行の違いがシステムにもたらしているもの

――そのような違いはどうして生まれたのでしょうか。

岩下氏:これはおそらく、日本とアメリカの雇用慣行の違いによるものだと思います。日本では、システム部門で人を抱えて終身雇用で世話をしていく。彼らが銀行内のシステムのインテグレートをつくるわけです。

ところがアメリカやヨーロッパの場合、雇用の流動性が高いのでそれぞれの部門でIT化が必要になったら、勝手に人を雇ってシステムを作るわけですよ。

銀行全体をハーモナイズしてきちんとやるという考えはなく、バラバラなものを無理やりバッチでつなげるというシステムができてしまった。つまりシステム間が疎結合な状態ですね。

日本の密結合においてオンラインかつリアルタイムで中央集権のシステムのほうが優れているとずっと思われてきたのですが、それが今となって、応用力の乏しいシステムとなってしまったのです。

どこか1ヵ所でもいじると全部に波及するので変化に対応できません。理想的な密結合のシステムを作ってしまったがゆえに、かえってイノベーションに対応しにくくなってしまったのです。

銀行の人たちの実感にもあるわけですよ。そんな新しいイノベーティブなことはなかなかできないよと。今のシステムをお守りするだけで大変だというのが、銀行の人の偽らざる感情なのだと思います。

日本の金融機関は、ほかの業界に先んじてIT化に取り組んでしまい、それをカチッと完成させてしまった。その後、世の中にはインターネットが普及し、スマートフォンなど新しい機器が登場。便利になっているにも関わらず、銀行のシステムだけが追いついていないという、その呪縛から解き放たなければならないという議論が生じているのです。

――打開策はあるのでしょうか。

岩下氏:そこで“オープンイノベーション”という言葉が出てくるわけです。ここでいう“オープン”とは、オープンネットワークを使いましょうという意味と、ベンダーオープンにして自前主義をやめましょうという2つの意味を込めた言葉なのです。

同じようなシステムであるにも関わらず、それぞれの銀行で別々にシステムを作っていたわけですから、社会全体として、ものすごく無駄なことをやっていたわけだし大きな費用もかかっていたのです。

オープンイノベーションを進める上で重要なAPI

岩下氏:“オープンイノベーション”を進めるうえで、もっとも重要なキーワードは“オープンAPI”というものです。これによって、エンドユーザーの視点でユーザーエクスペリエンスを改善するとともに、銀行も新しいビジネスチャンスを見つけていくことができるのです。

先ほどFinTech企業と銀行が連携をしはじめたという話をしましたが、それを実行するためには2つのハードルがあります。

1つはインターネットバンキングの利用率の問題です。統計によると6割5分~7割ほど利用しているというデータがありますが、実はこれ、インターネットによる調査で、日常的にコンピューターやインターネットを活用している人たちを対象にしています。

我々が、2016年11月に実施した4,000人を対象とした調査結果によると実は2割しか使われていない。しかも一度でも使ったことがある人が2割ですから、アクティブに使っている人はもっと少ない。しかもまだ、都市銀行では3割という数字ですが、地銀で1割、第二地銀や信金になるともっと低い。

FinTechといっても、結局、店頭や銀行内部のFinTechなどあまり意味がなく、ユーザーとのインターフェースの部分が重要であるにも関わらず、ユーザーがインターネットバンキングを使わなければ、FinTechを使ったことになりませんよね。

特に高齢者の間で顕著に見られる傾向なのですが、現在インターネットを使っている世代が高齢化することで、徐々に浸透していくだろうと考えられています。

もう1つの課題は、さきほど“オープンAPI”という言葉について説明しましたが、実は今、FinTechのサービスと銀行のサービスを一緒に利用とするには、非常に高いハードルが存在しているという課題があげられます。

それは、連携している銀行のサービスをFinTech企業経由で利用するためには、FinTech企業に対して、銀行にログインするためのIDとパスワードを教えなくてはなりません。そもそも他人にインターネットバンキングにログインするためのIDやパスワードを教えてはいけないといわれているため、かなり心理的な抵抗があります。

ところが、最近は、例えばFacebookの認証を利用して、ウォールストリートジャーナルにログインするといったことができるようになっています。これはOAuth(オー・オース)認証とよばれるものなのですが、APIという技術によってオープンになったわけです。

今回、銀行法の改正によってAPI接続が努力義務化されました。銀行をはじめとするすべての預金取扱機関に努力義務化されたということは、少なくとも大手都市銀行や大手地銀は、それをやらざるを得ないということなのです。

その場合、多くの金融機関においてOAuth認証が可能となってくるでしょう。要するに、インターネット上にFinTech企業から入る道を開けて、そこを使ってくださいという話なのです。

無料でオープンにするべきかどうかについてはさまざまな議論が生じていますが、世界的にみると、どんどんこのようなものをオープンにしていくことで、それによって多くのイノベーションが促進できるということが必須です。その場合さまざまなFinTech企業と銀行そのものが、APIという共通の基盤技術によってつながるということになります。

これはネット銀行の話だけではなく、銀行内にAPIと連携する基盤を作って、そこに社内システムを繋いでいけば、先ほどお話しした密結合・疎結合の問題がこれによって解決するわけですよね。

このようなことが可能になのは、ある程度アドバンスの技術をベースにしたネット銀行です。しかし、メガバンクや地銀も、同じようなカタチでデジタルバンクを作ります。

本体でやるにはシステムが重いので、いわゆる“出島”となるデジタルバンクを作って、そこを活性化させることによって、次の世代に引き継いでいくという戦略をとりはじめています。

デジタルバンクが上手くいくかどうかは、これからの彼らのビジネスの展開次第なのでわかりませんが、まだまだ銀行も十分なアドバンテージを持っているわけですから、オープンなイノベーションによって上手に工夫しながら、未来を切り開いていってほしいものです。

岩下直行(いわした・なおゆき)
京都大学・公共政策大学院教授 PwCあらた有限責任監査法人 スペシャルアドバイザー
1984年慶應義塾大学経済学部卒業後、日本銀行入行。1994年7月、日本銀行金融研究所に異動し、以後約15年間、金融分野における情報セキュリティ技術の研究に従事。同研究所・情報技術研究センター長、下関市店長を経て、2011年7月、日立製作所へ出向。その後、2013年7月、日本銀行決済機構局参事役。2014年5月、同金融機構局審議役・金融高度化センター長。2016年4月、新設されたFinTechセンターの初代所長に就任。2017年3月、日本銀行退職。同年、4月より現職。

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