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パウエル議長の新体制に移行するFRBはタカ派にシフトするか?

(写真=Orhan Cam/Shutterstock.com)

イエレンFRB議長が退任し、パウエル理事が新議長に就任

イエレン米連邦準備理事会(FRB)議長は2017年11月下旬にトランプ大統領に書簡を送り、パウエル理事の次期議長就任に合わせて2024年まで任期が残っているFRB理事職も含め、18年2月に退任する意向を表明しました。イエレン議長は2004年から2010年までサンフランシスコ地区連銀の総裁を務めた後、2010年10月からFRB副議長、2014年2月からは初の女性議長を歴任しました。この間、2008年のリーマンショックによる世界的な経済危機に対し米国の金融政策の舵とりを担ってきました。結果、米国経済は再び活力を取り戻し、FRBは2015年12月と2016年12月に利上げを実施、2017年も3、6、12月の米連邦公開市場委員会(FOMC)でそれぞれ0.25%ずつ利上げを行いましたが、金融市場はFRBの利上げを落ち着いて受け止めています。

金融政策の連続性が保たれるとの見方が市場に安心感をもたらす

2018年2月からイエレン議長の跡を継いで新議長に就任するパウエル理事は、これまでイエレン議長とともにFRBの低金利政策を主導してきたこともあり、金融政策の連続性が保たれる公算が大きいとみられている点が市場に安心感を与えています。FRBは2017年12月のFOMCで政策金利であるFFレートの誘導目標水準の上限を大方の予想通り1.25%から1.50%に引き上げました。FRBが示した経済予想では2018年の成長率や失業率が改善方向に修正され、2018年末の政策金利見通しからは利上げ回数にして3回を見込んでいる等、米経済の順調な拡大を背景に2017年と同様のペースで利上げを進めていく方針がうかがえました。

2018年のFRBがタカ派方向にシフトする可能性に注意

ただ、FOMCでの政策判断は、投票権を持ったメンバーの賛成多数により決定されます。原則的にはFRB議長と副議長を含む7名でFRB理事が構成され、全員が投票権を持っています。また、全米に12地区ある連邦準備銀行(連銀)のなかで、ニューヨーク連銀の総裁は常に投票権を有しています。ニューヨーク連銀を除いた11地区連銀は4つのグループに分けられ、1年ごとに各グループから投票権を持った地区連銀総裁が選ばれます。投票メンバーが全員そろえば12名となりますが、現在はFRB理事のうち3名が空席となっており、イエレン議長が退任すれば残るメンバーはパウエル次期議長、クオールズ副議長、ブレイナード理事の3名だけとなります。トランプ政権は2017年11月にカーネギーメロン大学のグッドフレンド教授をFRB理事に指名しましたが、同教授は過去に2008年のリーマンショック後に住宅ローン担保証券(MBS)を大量に買い入れたFRBの対応を批判しており、市場では金融政策に対して保守的とみられています。12月にかけては、副議長候補としてリンゼー元FRB理事や、元米財務次官補のクラリーダ・コロンビア大教授、米債券運用大手PIMCOの最高経営責任者や国際通貨基金(IMF)高官を歴任したエラリアン氏が候補として報じられました。

各種報道によれば、現在のFRB理事のうち、パウエル次期FRB議長は中立派、ブレイナード理事はハト派(金融緩和に前向きあるいは引き締めに後ろ向き)、クオールズ副議長は中立派とみられており、新しくFRB理事に加わるメンバーがどういった政策スタンスを有しているのか、ハト派が増えるのか、それともタカ派(金融引き締めに前向き)が入ってくるのか注目されます。

また、ニューヨーク連銀のダドリー総裁はハト派寄りとみられていますが、彼も2018年半ばまでに退任する意向を示しています。その他の地区連銀総裁のうち、2018年のFOMCで投票権を持つことになる4名のスタンスをみると、クリーブランド連銀のメスター総裁はタカ派、サンフランシスコ連銀のウィリアムズ総裁は中立からややタカ派寄り、リッチモンド連銀のバーキン総裁のスタンスは不明ですが、同連銀は伝統的にタカ派とされており、アトランタ連銀のボスティック総裁は中立派とみられています。

2017年の投票メンバーには、イエレンFRB議長やシカゴ連銀のエバンス総裁、ミネアポリス連銀のカシュカリ総裁といったハト派スタンスを有する人たちがいましたが、2018年の投票メンバーはタカ派寄りの人が増えている印象を受けます(2017年のタカ派メンバーはフィラデルフィア連銀のハーカー総裁のみ)。FRBが2017年12月FOMCで示した2018年の3回の利上げ見通しについてはいまだ市場に織り込まれておらず、FOMCメンバーの政策スタンスがタカ派方向にシフトするとの見方や、利上げペースが加速するとの懸念が強まる可能性には注意しておいた方がよいかもしれません。

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