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中村仁先生に聞く「日本のポップカルチャーを産み出す産業とは」前編

アニメやゲーム・ファッションなど日本発の文化が世界中の若者たちに受け入れられているという報道を見聞きしますが、果たしてその実体はどうなのでしょう。世界にインパクトを与える産業になっていくのでしょうか。今回は日本のポップカルチャー研究の第一人者として知られる日本経済大学大学院准教授/大学院クリエイティブ産業研究所長の中村仁先生に、日本のポップカルチャーの現状についてうかがいました(このインタビューは2017年11月9日に行われました)。 

ポップカルチャーはハイカルチャーと「共感」構造が違う

――まずは、先生が研究をされているポップカルチャーとはどういうものか?その定義からお聞かせください。

中村氏:ハイカルチャーが産み出す芸術作品と違い、ポップカルチャーの作品は複製され世の中に広まってゆきます。例えば、一品物である絵画と複製されて大衆化するポスターと対比して考えるとわかりやすいと思います。

――なるほど。ポップカルチャーと聞くと、かなり新しい概念のような気がしますが、どのようにして生まれてきたのでしょうか。

中村氏:ハイカルチャーはこのように社会の上層が価値を見出したものがより下層に広まってゆきます。それに対し、ポップカルチャーは階層を無視して広がっていく文化なんです。そこが大きく違う点です。

愛好家が持つ「一般人はアート性を見出していないけれど、オレたちはわかっているのだ」という特権階級意識は、芸術を資金的な面でも支えています。ここで見出された作品が「あの人達が認めているなら良いのだろう」と大衆が受け止め、価値を認めることで広まります。

ところが、ポップカルチャーの場合、ファッションであれば、街中で歩いているかわいい子が着ているなど、大衆の中に存在するインフルエンサーの存在が媒介となっています。ハイカルチャーに見られるような社会的階層やお金持ちなどの要素は、ほとんど関係ないわけです。

――そうなりますとハイカルチャーとポップカルチャーでは“共感”の構造がまったく違っているように思えますね。

中村氏:ハイカルチャーは、尊敬や向上心などの上層に向いていますが、ポップカルチャーは限りなく共感に近いのです。だからこそ自分が好きなもの、より共感できるものを徹底的に探そうとする意識が強く働きます。

――なるほど。そもそも、先生はそういったポップカルチャーを軸に、どのような研究を行っているのですか。

中村氏:私は「日本のこれからを支える産業を振興するにはどうするか」という視点が軸になっています。今後、日本が世界を相手にどうやって稼いでいくべきかと考えると、アニメーション・ゲーム・ファッションなどのポップカルチャーが持つ高い創造性を付加価値とする品々が注目されます。しかし、成功体験のあるこれまでの産業と違い、まだ政府にはその産業振興のためのノウハウが蓄積されていません。

ご存じの通り、日本のポップカルチャーはマニアックな見られ方も多いものの世界的に注目されています。この産業をどうやって振興していくのか?どのような点がキーポイントになるか?を探るのが、僕の研究です。

日本のポップカルチャーを取り巻く産業構造

――日本のポップカルチャーを取り巻く産業構造というのは、現在、どのようになっていますか。

中村氏:大まかには2つあります。ひとつは作品を産み出す製作者とそれを支える企業群です。例えば、音楽やアニメーションやゲームを製作する企業や出版社などが挙げられます。

さらに、作品を二次利用している多くの企業です。簡単な例であればお菓子にキャラクターを付けるような昔からのものから、トヨタのテレビCMでドラゴンクエストが題材となった例など、さまざまなケースがあります。

新たな作品を産み出すビジネスは、当たるか当たらないかというリスクがあります。しかし、一度高い知名度を獲得した作品は、さまざまな形で二次利用され安定した収益源となりえます。この2つが手を取り合って、はじめてビジネスとして成立している産業でもあるのです。

――生み出すだけでなく、どう展開していくか、その仕掛けを含めて考えていくことで、パイが一気に広がっていく感覚でしょうか?

中村氏:そうですね。まさにファッションもそうで、単に一枚かわいい服があってもほとんど誰も買ってはくれません。誰かがどこかで発見することが大切なのです。モデルさんが着ている、街の中でたくさんの人が着ている、最近ではインスタグラムに出ている、メディアに出るなどが重要視されています。

そこから広がって、さらにそこに服自体のデザインの良し悪しや、自分が好きな人が着ているなどの付加価値が積み重なって、はじめて全体の価値になって売れていきます。単に良いものを生み出せばいいというわけではありません。

強烈なファンがいるからこそ、企業は生き残れる

――そのような流行モノって、当たり外れがあって、予想も難しそうですよね。

中村氏:ポップカルチャーに関わる企業は、世間では大当たりするとドカンと儲かるという、投機的なイメージがつきまといがちです。しかし、実はマニアックなものほど安定しているので不況に強いともいえます。長期間一定のファンをつかんでいれば、安定した需要となります。

アパレルなどは、そんな傾向が顕著にあらわれる業界だと思います。栄枯盛衰が激しく、例えば、渋谷の109でもどんどん消えていくブランドと残り続けるブランドが両極端に存在しています。

――どういうブランド、あるいは会社が生き残るのですか。

中村氏:残っているブランドの特徴は、ロイヤリティの高い顧客がついているかどうかにかかっています。ヤングレディスアパレルといわれる若い女性向けのアパレルは非常に入れ替わりが早い。しかし、ロリータやゴシック・ロリータのブランドの多くは一般的に顧客のロイヤリティがとても高い。一度、そういったマーケットへの参入が成功すれば、大幅には儲からないけれども、手堅く生き残ることができる市場は重要です。

このようなビジネスは、長く続けられるかどうか、要は最初に成功したあとにどうやって事業として維持していくかにかかっています。その点ではやはり、ポートフォリオの組み方が重要です。例えば、キャラクタービジネスの会社は、今売れているキャラクターだけに絞らず、次々と他のキャラクターを生み出していきます。あれは一種のリスク分散だと考えられます。

売れているキャラクターで稼いだ利益を他のキャラクターに再投資して分散していきます。なぜなら、その方が企業としてのサステナビリティ(持続可能性)が確保できるからです。短期利益を追求するよりは、むしろ長期的にビジネスを組み立てていくべきなのでしょう。

――ビジネスの組みたて方が難しいですね。

中村氏:当たるか当たらないかという確率をふまえ、継続性を考慮しなくてはいけません。本来ならば、こういった高いクリエイティビティに支えられた事業を行う企業を育成するには、韓国のような形の政府の産業支援があると心強いのですが、残念ながらまだ日本にはありません。

>>中村仁先生に聞く「日本のポップカルチャーが生み出す産業とは」後編へ続く

中村仁(なかむら・じん)
日本経済大学大学院経営学研究科准教授・大学院クリエイティブ産業研究所長
2001年宇都宮大学農学部農業経済学科卒業。2004年京都大学大学院法学研究科修士課程修了。2013年東京工業大学より論文により、博士(学術)取得。東京大学大学院情報学環特任講師を経て現職。
著書に『クリエイティブ産業論』(慈学社出版)がある。

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