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注目される新木質建材CLTと林業の成長産業化

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(写真=NAAN/Shutterstock.com)

CLTは中高層ビルも建てられる新たな木質建材。日本は森林資源が豊富な一方、林業従事者が減少しており、これによる森林の荒廃と土砂災害発生リスクの拡大が懸念されています。そのため、政府はCLTの普及促進を図り、国産木材の需要拡大と林業活性化をねらっています。また、林業の成長産業化策として未利用の森林を大規模経営に意欲を持つ林業経営者に貸し出す制度の創設も議論されており注目されます。

中高層ビルも建てられる新たな木質建材

従来の木材では難しかった中高層建築物の構造材にも利用できる新たな木質建材として「直交集成板」(CLT=Cross Laminated Timberの略)が注目されています。CLTは木目の方向が直角に交わるように板を何層も重ねて接着した大判パネル。木材特有の湿度などによる寸法変化が少なく、強度や耐火性、断熱性に優れています。また、鉄筋コンクリートと比べて建物の重量を軽くできるため、中高層建築物での基礎工事のコスト低減化を図れるなどのメリットもあります。

CLT利用促進で国産木材の需要拡大と林業活性化をねらう

欧米で先行するCLTの利用が日本でも期待される背景には、政府が林業の成長産業化を目標に掲げ、その一環として同建材の普及を促進する動きを強めていることがあります。
日本は国土の66%を森林が占め(人工林は同27%)、しかも人工林の約半数が主伐期(本格的に伐採して活用する時期)を迎えつつあるなど、森林資源が豊富です。半面、安価な輸入木材の流入や木造住宅の着工減などから現状の木材生産額は1980年の4分の1以下に落ち込み、林業従事者も大きく減少しています。森林が荒廃すると、土砂災害発生のリスクも高まります。そのため、中高層建築物向け用途も開拓できるCLTを普及させ、国産木材の需要拡大と林業活性化につなげることを政府は見込んでいます。

環境負荷が少ない利点も

また、製造時に多くのエネルギーを使い大量の二酸化炭素(CO2)を排出する鉄やコンクリートに比べ、環境負荷が少ない点もCLTが期待される要因です。木は伐採と植林のサイクルにより資源として無限に供給され、成長過程でCO2を吸収し、建材として使えばCO2を内部にとどめてくれます。

・政府はCLT普及に向けた20年度までの行動計画を策定
日本ではCLTを構造用の建築材料として活用するための環境整備が遅れていましたが、国内での流通拡大を図るべく、2013年に農林水産省がCLTの仕様を定めた日本農林規格(JAS規格)を制定。16年には建築基準法のルールも改定され、特別な届け出をしなくてもCLTを使えるようになりました。
最近でも、政府は普及に向けた17~20年度の行動計画を策定しました。例えば、CLTの標準規格を作って汎用化を進めることで、製品価格を1立方メートル当たり7万~8万円と現状から半減させ、普及のネックとなる割高な施工コストを他工法並みに引き下げるなどの目標を示しています。

政府の規制改革推進会議で林業の成長産業化策を議論

その他の林業の成長産業化策としても、政府の規制改革推進会議において、未利用の森林を大規模経営に意欲を持つ林業経営者へ貸し出す制度の創設などが議論されています。日本の森林所有者の多くは小規模零細で、経営意欲に乏しいことが林業を活性化させるうえでの大きな課題です。農林水産省の調べによると、森林所有者の8割超は経営意欲が低く、そのうち約7割は伐採の意向すらもっていません。

新国立競技場にもCLTが利用される見通し

CLTを構造材や内装用として活用した建築物は、日本でも徐々にではあるが増え始めています。政府の調べでは、2016年度末時点で95件が竣工済み、17年度に117件が設計・施工中です。19年に完成予定の新国立競技場にも木質建材の1つとしてCLTの利用が計画されており、話題性が高まることが期待されます。今後、CLTおよび林業活性化が投資テーマとして注目を集める可能性があるでしょう。

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