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定年まで働く必要はない!? アーリーリタイアのススメ(後編)

(写真=Thinkstock)

2年前に、定年前の早期退職をした科学技術ライター・コンサルトの石田克太さん。前編では、早期退職を決断した際の周囲の反応や、なぜ早期退職を考えるに至ったかについて振り返っていただきました。

後編では、実際に早期退職を決断するのに用いた「期待値」の“算定”方法についてや、早期退職を見据えることで、気づいた社会の変化、ご自身の変化についてお話しいただきます。

親の老後は、自分の「期待値」を考える物差しとして使える

余生の「期待値」の最大化を考えはじめて、まず行ったのは自分の「生きがい」、つまり定年後に楽しもうとしていた趣味の数々を棚卸しすることでした。ゴルフ、船釣り、読書、DVD鑑賞、美術館巡り、車での国内旅行、絵画制作…。それら1つ1つに関して、55~60歳、60~65歳、65~70歳…と5年刻みで「その年代で想定される体力・気力で、その趣味を満喫できる確率」「そのときの喜び(ゲイン)の大きさ」を数値化して期待値を推定しました。衰えゆく体力、高まる病気発症リスク等を前提に“算定”することで、どの時期にどの楽しみを満喫する組み合わせが、自分にとっての余生の期待値を最大化できるかを把握しました。

自分に大きな喜びを与えてくれる趣味でも、加齢にともなう体力の衰えで期待値が急速に下がるものもあれば、逆にそこそこの喜びでも60代、70代になっても今とほぼ同様に楽しめるものもあります。早く会社を辞めれば、その分趣味に費やせる時間が増えるだけではなく、睡眠・食事・運動面で節制することで体力の温存を図り、60歳以降の期待値を大きく上げられます(余力が残る50代後半の数年をどう過ごすかは、晩年の期待値に大きな意味を持つはずです)。

「定年まで働く」「早期退職する」の2つのケースで“算定”した結果、「早期退職すべき」という結論に達し、タイミングを模索。数年後、辞表を提出しました。

もちろん余生の生きがいは単純に数値化できるものではありませんが、自分の気持ちからある程度の大小は決められるので、「10点満点で何点」くらいでざっくり評価すればいいでしょう。健康の推移を確実に予測することはできませんが、自分の遺伝子の提供源である両親の老後を見れば、ある程度の予測は可能です。

私の父親はゴルフが大好きでしたが、70歳になる前に辞めてしまいました。気力・体力面で「楽しくなくなった」のだといいます。父親とまったく同様の「禿げ方」で薄毛が進む等、多くの点で遺伝的形質を忠実に受け継いでいる私は、父同様の年代に気力・体力が低下すると仮定して、ゴルフの期待値を推算しました。

表:体力・気力・健康状態、時間的余裕を想定して「期待値」を算定(石田さんの場合)

●定年退職の場合
やりたいこと 55~60歳 60~65歳 65~70歳 70~75歳 75~80歳
ゴルフ × ×
船釣り ×
読書
DVD鑑賞
美術館巡り
車での国内旅行 × × ×
絵画制作 × ×

※退職前は時間的余裕がないので期待値は低い

●早期退職の場合
やりたいこと 55~60歳 60~65歳 65~70歳 70~75歳 75~80歳
ゴルフ ×
船釣り
読書
DVD鑑賞
美術館巡り
車での国内旅行 ×
絵画制作
※早期退職後に睡眠・食事・運動面で節制することで、60歳以降の期待値が上がることを想定
         
   早期退職を決断!  

それぞれの生きがいから得られる「喜び」、そして期待値は、健康状態や気力の変化、興味の喪失等で変わりうるので、時々“再計算”して生き方を軌道修正することも必要となります。一概に「体力を必要としない趣味は後回しにすればいい」という単純なものでもありません。何らかの創作活動をともなう行為は気力の充実も必要ですし、また老成にともなう感受性の変化で、最晩年こそ満喫できる楽しみもあるかもしれません。私は近い将来、より正確な期待値計算の材料を得るために、自らの遺伝子診断を行うつもりです。

お金の呪縛からの解放はそれほど難しいのか?

早期退職の決断は、よほどの資産家でもなければ「退職後のお金」も重要な関心事となります。「期待値」を分子、「金銭面での不安」を分母とすると、それが自分の考える“分岐点”を越えると、退職に踏み切れるのでしょう。

分岐点を考える際、社会保障制度がある程度充実している日本では「生活レベルをそれほど落とさずに暮らせるかどうか」という指標が基準となるはずです。会社退職後、フリーライターとして働くことを決めていた私は、年収が1/5程度になることを覚悟していましたが、それによって生活の豊かさがそれほど損なわれるとは思っていませんでした。その時点までに、自分が「若い頃と比べ、より少ないお金で豊かさを感じられる体質」へと変化していたからです。

期待値同様、人生の残り時間が少なくなれば「豊かさ」の意味も変わり、次第にそれが金銭に依存しないものになっていくケースは珍しくありません。若い頃は「何事も人生への投資」という意識が強く、さまざまなものに興味を持ち、物品所有欲も旺盛で、お金を使うことに積極的でした。当時のお金の使い方を「浪費」とまではいいませんし、もちろんそれなりの投資効果もあったと思います。しかしもう「将来を見据えた自分への投資」をする時期ではありません。「選択と集中」。残量が見えてきた人生の時間を使うにあたって、本当に楽しいと思えること以外にはほとんどお金を使わなくなりました。バブル期を経験し、いっとき体に刷り込まれていた「消費は美徳」という呪縛からも解放されたようです。

さらに、社会が大きく変わったことで、それほどお金がなくても十分に豊かに暮らせる時代になっています。100円ショップ、ディスカウントストア、リサイクルショップ、各種レンタル産業、映画・テレビ番組・雑誌等のネット配信、無料・低価格で楽しめるネット・コンテンツ…。現状を「デフレ」という一過性の現象と分析し、若者の消費意欲の低下と結びつける見方もあります。しかしスマホのように、20年前なら数千万円支払っても手に入らなかった機能を月々数千円で利用できる状況は、社会の本質的な変貌ではないでしょうか。

こうして自分にとっての“分岐点”を越え、早期退職した56歳は、まだ「余生」と呼ぶには早すぎる年齢でしたが、余生を見据えた“終わりの始まり”の年となりました。もちろん人が抱えている事情はさまざまだし、人生における生きがいやその重みづけ、それにまつわるコストやリスク、達成確率等の要素は、その人の人生観によってもまったく異なるはずです。

しかし多くのサラリーマンにとって、長年勤めた会社の退職は、その人の人生の“終わりの始まり”ではないでしょうか。そのタイミングを考えるときに、20代、30代の頃と同じ通念や価値観を引きずったまま判断しようとする人も少なくないはずです。一度、自分の現状とそのベクトルの向きを冷静に見つめ直し、「生きがい」の棚卸しをすることで、退職後に向けたアクションの判断材料にしてはいかがでしょうか。

日経BPコンサルティング 金融コンテンツLab.
科学技術ライター・コンサルト 石田克太

日経BPコンサルティング「金融コンテンツLab.」は、難しくなりがちなお金の話題を、わかりやすいコンテンツに仕上げることをテーマとして取材・情報発信にあたっている制作研究機関。月刊誌『日経マネー』編集部の在籍経験の長いベテランスタッフが中心となり、マネー系コンテンツを提供している。

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