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過去の教訓・・・・。― 兜町カタリスト櫻井英明のここだけの株話

「教訓」

2018年6月15日(金)に放送収録の特番「ストックボイス東京MX放送10周年記念」。
ストックボイスの岩本デスクから深刻な表情で与えられたテーマは「2011年3月の東日本大震災の時の相場の述懐とその教訓」。
いくら考えても、難解なテーマです。
「リーマンショックとその教訓」ならばまだしも「東日本大震災とその教訓」。
当時を思い返してみると、東京にいてさえも、とにもかくにも「フツ-に戻って欲しい」。
そして、当時のモノ不足を鑑みれば「仮需は実需を凌駕する」。
結論は「日常性と非日常性の転換」。
非日常性の中にこそ実は機会があったということに他ならないでしょう。

当時書いていたことを改めて読み返してみると・・・。

★海外を含めた市場関係者のコメントは比較的ポジ。
例えば、「倒れても、また起き上がる」。
「短期的には慎重、中期的には株価に上昇余地」との分析。
背景は「米国経済の成長回復、国内デフレからの脱却、緩和的な政策環境、円安予想、企業収益の回復、割安なバリュエーション、外国人投資家の軽めの日本株ポジション」とされている。
興味深いのは「日本株のPERプレミアムはついに消滅か」。
あるいは「反射行動を取る必要なし」のレポート。
「共感は、愛の次に人間の心の最も崇高な情熱である」。
結論は「これから何年も後になって振り返るとき、今回の悲劇に対する日本の対応が、市場に新しくポジティブな物語構造を開くものとなることを心から願い、期待してやまない」。

★通常はガラガラの朝5時台のある私鉄はほぼ満員。
勤務先へたどり着こうという思いを皆秘めての行動なのでしょう。
何があっても自分の使命と全うするというモードが感じられました。
それぞれが、当面のことから逃げずにそれぞれの業務にひたすら対応するというのが、今日本全国で求められました。
ほぼ2年ぶりくらいに脳裏に浮かんだのは「踊らない、慌てない、騒がない、諦めない」。
いつか必ず復興できる。その復興のために粛々と整然と対応する。
皆がそう考えておられるような気がします。

★2011年3月15日の日経平均株価は1,015円安、下落率はマイナス10.55%で歴代3位の下落率。
ブラックマンデー時(87年10月20日マイナス14.90%)。
リーマンショック後の暴落(2008年10月16日マイナス11.41%)。
東証1部の売買高57億株は過去最高更新。
日経平均先物6月限の売買高は33万枚。
TOPIXは80ポイント安の766ポイント。
単純平均は200.51円まで低下。
2008年10月のリーマンショック時の203.05円を下回った。
単純平均の上では、リーマンショック時以上の凄まじさという印象。
東証1部の時価総額は264兆円。
日経平均採用銘柄の予想PERは13.04倍、東証1部全銘柄は13.52倍。
日経平均採用銘柄のPBRは1.02倍、東証1部全銘柄のPBRは0.96倍と1倍割れ。
そして東証1部全銘柄の配当利回りは2.3%。
日経平均株価のHVは48ポイント、日経ボラティリティ指数は29ポイント上昇し69ポイント。
株価の予想変動率は急激に上昇した。
日経平均株価の騰落レシオは72.82ポイントまで低下。
200日移動平均線は9833.45円で再度下向き。
マイナス12%と下方乖離。
「先例なき時代に立つ」になるのかどうかの分水嶺ではある。

★朝が訪れるたびに事態は変化する。
世界的株安。
そして為替の円高。
福島原発の情勢は好転しない。
それでもモノは少しずつ巡り始めた。
計画停電は相変わらず実施されているものの、鉄道の混乱は一部で収拾した。
株式市場は変わることなく開く。
未曾有の出来事なかりではあるが、「非日常」から「日常」へ向けての回復への努力は全国で続けられている。
ある税理士さんの指摘。
「地震当日のコンビニ各店の弁当・おにぎり・せんべい等はすぐになくなりました。
帰宅できなくなった人たちの実需でした。
2日目にはスーパーで米・水・カップ麺などが棚からなくなりました。
この多くはたぶん仮需なのでしょう」。
こんな最中に不適切かも知れないが、これが仮需のすごさ。
実需と仮儒の違いを改めて覚えておきたいところ。
これは市場でも同様であろう。

★非日常的周囲環境の中での日常行動の継続。
奇妙な感じだが、現実。
ただ、考えてみれば、団塊世代以下の未体験ゾーンではあるが、それ以上の世代では誰もが経験してきたのかも知れない。
被災地の方々は別にして「あの灯火管制に比べれば・・・」とか「まだ食べるものがあるじゃない」。
そういう最中に黙々と日常生活を送ってきた先達がおられるということ。
歴史の中でしか知らなかった停電・鉄道停止・その他もろもろ。
ここは大したことではないと考えての我慢というところだろうか。
原発にしても、所詮人間が生み出したものである以上、人間が解決できないはずはないと考えたいところ。
そう考えると、市場的には、市場をかく乱するアルゴリズム売買だって所詮人間が開発したもの。
その勝手な暴走を人間が止められない筈はない。
止められないのは、アルゴの動きで利益を得ている人間がいるからなのだろうと考えてしまう。
いずれにしても、事が解決し、復興したあとの明るい市場を信じている。
だからこそ、兜町で生息しているのだし、兜町と行動をともにする気持ちでいるのだが・・・。
天変地異は制御できない。
しかし、その他のことは制御できると考えたいところ。
何度も繰り返しになるが・・・。
「踊らない、慌てない、騒がない、そして諦めない」。
心理は弱いもので諦めたくなりがちなもの。
でも諦めの向こうから得られるものは少ない。
気休めの言葉にしか聞こえないかも知れないが、やはり大切なのは「のぞみ」。
のぞみを忘れず、つい先日までの明るい日々の再来を忘れずにいたいもの。

★英国フィナンシャルタイムズに掲載されたコラムの題名は「日本の奇跡は終わっていない」。
「日本の奇跡を生み出したのは彼ら日本人」というのが結論。
そして評価は「世界がこの国の経済停滞にうんざりし、幻滅した時でさえ、別の種類の日本の奇跡を守り通してきた人々」。
先週は、市場閉鎖論も聞かれましたが、株式市場の使命の一つは「換金性の維持」にもある筈。
東京市場も耐えてきました。
それ以上に日本も耐えてきています。
でも「仕方がなくはない」筈。
「リスクがまた眠る日まで」というその日まで頑張りたい日々です。
そして「奇跡なんかじゃない。当たり前でしょ」と言い返したい気もしますが・・・

そしてPER無限大から出発したところに今の相場(現在の相場)があります。ココは忘れてはいけないところでしょう。

 

櫻井 英明(さくらい えいめい)
ストックウェザー「兜町カタリスト」編集長

日興証券での機関投資家の運用トレーダー、「株式新聞Weekly編集長」などを経て、2008年7月からストックウェザー「兜町カタリスト」編集長。
幅広い情報チャネルとマーケット分析、最新経済動向を株式市場の観点から分析した独特の未来予測に定評があり、個人投資家からの人気も高い。

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