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「織り込んで見極める」― 兜町カタリスト櫻井英明のここだけの株話

「織り込んで見極める」

「材料を織り込んだ」という表現はよく目にします。
株価は、もろもろの事象を踏まえて形成されることは間違いないこと。
しかし、マーケットで起こるのは事前に予測可能なことばかりではない筈。
それでも「織り込める」のか、妙に気になるものです。
単なる「解説不能」の免罪符という気もします。
株価がそんなにたやすく「織り込める」のなら、「方向感がない」なんてことはない筈。
もうひとつは「見極めたい」との表現。
誰が見極めたいのか、はっきりしません。
主語がないので理解しにくい言葉です。
もし見極められるのなら損などしない筈。
曖昧な言葉が、さも現実感を伴って流通するから相場観の間違いにつながるのかも知れません。

弱気心理を、一気に仮面ライダーばりの変身で強気転換する市場関係者。
でも、株価が下がって上がると再変身することもできず、「この問題は長引かない」などの解釈。
これが曖昧模糊(あいまいもこ)として起き上がりこぼしのような姿。
この変身具合の検証も自分を含めて必要かも知れません。
マスコミや市場関係者の視点はあくまでも、局地的な「ココが買い場なのか、買い場でないのか」。
いつも「新規に投資をする」スタンスで物事を判断することが多いから、どうもブレが多くなります。
今だに多くの塩漬け銘柄が存在するなかで、実はこの点について見えないフリというのが投資心理の裏側の真実でもありそうです。
いつもいつも「新規買い」ではないでしょう。
「既存」を重要視することが、もっとも見逃されているような気がします。
株式のセミナーなどの現場で肌で感じるのは、いつもこのことです。

「造化(ぞうか)」

最近、初めてお目にかかった言葉は「造化(ぞうか)」。
葛飾北斎が用いた落款(らっかん)は「師造化」ということから紹介されていました。
造化とは「森羅万象のこと」だそうです。
調べてみると「万物生成、創造変化」。
列子の周穆王篇には「造化の始まる所、陰陽の変ずる所、之を生死と謂ふ」とあるそうです。
「造化は自然を支配する道理であり、万物を生成して変化窮まり無きものをいう」と深い言葉でした。
相場も造化の世界。
森羅万象を反映した陰陽の生ずるところ。
しかも、間違いなく「万物を生成して変化窮まり無きもの」。
こういう謙虚さで相場に臨場することが必要なのでしょう。
過去の相場師の言葉を紐解いてみると、結局こういう発想に帰着しているような気がします。

この時期になると経済評論家の先達、故三原淳雄先生の姿が浮かんできます。
初めて青山の事務所に伺ったときの緊張感は今でも昨日のように甦ります。
「『株をやる』なんて言葉を使ってはいけない。
株はそんな刹那的なものじゃないよ」。
鋭い戒めでした。
「若い頃に行ったアメリカのルート69をもう一度完走して本にしたい」。
晩年はそう言っておられました。
わずかな時間でも謦咳(けいがい)に接することが出来たことは貴重な財産です。
「君は市場のプロなんだから・・・」と厳しい御仁でしたが、残念ながら叱られたことはありません。
むしろ、常に投資ということに対して真摯に対峙されていた姿が脳裏に残っています。
「ピーター・リンチみたいに、自分で調べるんだよ」。
そんな言葉も脳裏を掠めます。

マゼランファンドを率いて驚異のパフォーマンスを実現したピーター・リンチ氏も崇拝して止まない先達です。
ちなみに、氏の多くの本は三原先生が訳されています。
「クレヨンで説明できないアイデアには、決して投資するな」。
「ほとんどの人は、株式投資よりも電子レンジを買うことのほうに、より多くの時間をかけるのである」。
「調査なしで投資することは、手札を見ないでポーカーするのと同じである」。
「会社に投資するのであって、株価に投資するのではない」。
多くの言葉の一部に刻み付けられています。

偉大な投資家E・Dギャンの「投資の心構え」というのもあります。
まるで人生の処世訓のようですが、こういう気持ちは投資に役立つと思います。
(11項目、以下抜粋)
 ↓
★何事にも乱されない強靭な心を持つこと。
★友人と付き合っていく中で、自分にない何かを発見するよう努力すること。
★物事をすべて良い方に考えるようにすること。その楽観的な考え方が成功のコツである。
★最善を考え、最善を尽くし、最善を期待すること。
★他人の成功にも自分のことのように目一杯喜ぶこと。
★過去の失敗は忘れ、ここから先の輝かしい将来のことを考えること。
★常に元気で、笑顔を忘れないこと。
★他人を非難する暇があったら、自分の仕事に没頭すること。
★心配し過ぎず、怒ることに躊躇せず、怖いものは怖いと言うこと。過剰に幸福過ぎないこと。
★自分を信じ、不言実行を実践すること。
★自分が正しいと信じてやっている限り、必ず良い結果が生まれると信じること。

 

櫻井 英明(さくらい えいめい)
ストックウェザー「兜町カタリスト」編集長

日興証券での機関投資家の運用トレーダー、「株式新聞Weekly編集長」などを経て、2008年7月からストックウェザー「兜町カタリスト」編集長。
幅広い情報チャネルとマーケット分析、最新経済動向を株式市場の観点から分析した独特の未来予測に定評があり、個人投資家からの人気も高い。

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