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家電分野の技術革新サイクルと半導体関連企業

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(写真=PIXTA)

 家電の技術革新と関連企業の株価には約15年のサイクルがみてとれます。現在のサイクルをけん引するスマートフォン等の普及がピークに近づくなか、次世代のデジタル家電の普及にはより高速かつ大容量のデータ通信が求められています。それにともない、半導体や通信システムの高性能化が必要となります。足元の半導体メモリ分野で「3D‐NANDフラッシュメモリ」と呼ばれる新技術導入もその一環とみられ、関連企業の業績拡大が注目されています。

家電の技術革新にみる15年サイクル

 1970年以降に起こった家電の技術革新と関連企業の株価をみると、約15年のサイクル(成長期9~10年、調整期6年)がみてとれます。日本では1973年にカラーテレビの普及率が78%に達しテレビの台数成長が飽和に近づくなか、70年代に家庭用ビデオ(VHS)が登場、80年代前半は関連製品の市場が拡大しました。90年代はインターネットが登場、パソコンと携帯電話市場拡大を背景に電気機器セクターの株価が上昇しました。現在の局面は薄型テレビやデジタルカメラ、さらに米アップルの株価(下図)が示すようにスマートフォン等のデジタル家電がけん引していますが、足元では普及が一巡するなか、次世代の家電新製品に注目が集まっています。

家電分野の技術革新サイクルと半導体関連企業_図1

新製品投入で半導体市場も拡大へ

 新たなデジタル家電の登場は、その重要部材である半導体製品の機能向上や需要拡大をもたらします。1980年代以降の世界の半導体市場をみると、景気変動による需要の一時的な落ち込みや2001年のITバブル崩壊、08年のリーマンショック後の不況を経ながらも成長は継続し、15年の半導体出荷額は3,352億ドル(約35兆円、世界半導体市場統計)と05年の1.5倍程度に拡大しました。うち、スマートフォン等で使われるDRAMやNANDフラッシュメモリ等の半導体メモリの出荷額は2005年の485億ドルから2015年に772億ドルへと1.6倍程度に増加しています。

家電分野の技術革新サイクルと半導体関連企業_図2

半導体チップやメモリの性能、通信速度の向上が求められる

 次のサイクルのけん引役として4K・8Kの動画配信や「ポケモンGO」にみられる拡張現実(Augmented Reality、AR)やバーチャルリアリティ(VR)を使ったデジタル家電等が挙げられますが、最新の「iPhone 6s」のプロセッサのデータ処理能力が2009年の「3G S」比で約3倍にまで高まったように、次世代のデジタル家電を実現するにはさらなる半導体の高速処理が必要となります。また、20年にはインターネット上を流れるデータ量が07年の31倍になると予想されていますが、それにはデータ通信の高速化や大量データを蓄積することも必要となり、データセンタ等で使われる記憶媒体である半導体メモリの機能向上ニーズが高まっています。

家電分野の技術革新サイクルと半導体関連企業_図3

3D-NAND、技術革新でビジネスチャンス

 半導体メモリであるNANDフラッシュメモリの構造が3次元(3D)化する技術革新もこれらの流れに沿ったものです。これまで半導体メモリは微細化と呼ばれる技術を加速させることで、より小さく作り、単位面積当たりのデータ容量を増やしてきました。しかし、微細化が限界に近づきつつあることから、新たな技術では平面上での微細化ではなく、垂直方向に積層することで単位面積当たりのデータ容量を増やそうとする3D‐NANDフラッシュメモリが主流となりつつあります。この3D‐NANDフラッシュメモリは、同じデータ記憶媒体であるハードディスクに比べ高価格ですが、高速で読み書きできる等の長所があり、大量のデータを高速で処理するデータセンタ等で採用が進んでいます。半導体メモリの3D化とは、例えるならば、半導体メモリの構造が平屋建ての建物から、高層ビルディングに変わるようなものであり、高度な技術を持つ半導体製造装置メーカーにとってはシェア拡大のチャンスとなっています。

3D-NANDで半導体製造装置の受注拡大

 データセンタ向けの需要活発化等から、半導体メモリメーカーの3D‐NANDフラッシュメモリ投資が拡大する見通しです。韓国サムスン電子は現在48層に積み上げた構造を持つ3D‐NANDフラッシュメモリを量産していますが、年内にはより記憶容量の大きな64層メモリの量産を開始するとしています。また、東芝はやや出遅れているものの2017年前半に64層の量産を開始する予定と発表しており、3D‐NAND関連の設備投資は活発化しています。

 半導体製造装置メーカーの2017/3期Q1(2016年4-6月)受注は、中国スマホ向け半導体需要が好調で台湾TSMC等からの受注が増加しました。また、2016年7-9月以降についてメーカーは、3D‐NANDフラッシュメモリ向け投資拡大を見込んでおり、高水準の受注が期待できるとしています。このような環境下で、3D‐NANDメモリへのシフトにより恩恵を受ける半導体製造装置メーカーに注目が集まっています。

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