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実用化段階を迎えたセルロースナノファイバー 期待の次世代素材

CNF
(写真=PIXTA)
いま、「セルロースナノファイバー」(以下、CNF)が注目されています。

どのような特長を持ち、どのような分野での利用が期待されているのでしょうか。

軽くて強い、次世代素材「セルロースナノファイバー」

CNFは、木材等の植物繊維を薬剤による化学処理や物理的な力を加える機械処理によってナノ(ナノは10億分の1)レベルまでほぐした極細の繊維状物質です。繊維1本の直径は数ナノ~数十ナノメートルしかありませんが、鉄の5分の1の軽さで5倍以上の強度を持つといわれ、炭素繊維に迫る性能を備えています。

さらに、高気密性や透明性のほか、熱による変形が少ないこと、化粧品や食品等に混ぜると粘り気を持たせられること、植物由来のために環境負荷が小さいこと等も、CNFの主な特長として挙げられます。

森林資源が豊富(国土面積の約3分の2が森林)な日本では原料調達が容易というメリットもあるでしょう。

一方、現状でCNFの製造コストは1キログラム当たり数千~1万円程度とされ、鉄や樹脂はいうまでもなく、同3,000円程度とされる炭素繊維等と比べても高いのが課題です。ただ、年間数千トン規模の量産化段階に入れば現在の技術でも製造コストは同1,000円を切れるともいわれています。政府は革新的な製造方法の開発により、同500円程度にまで引き下げる目標を置いています。

さまざまな分野での利用に期待、政府は2030年にCNFを1兆円市場に育てる構想

このように、さまざまな特長を備えるCNFは、幅広い分野で利用が見込まれています。すでに実用化されている用途には、ボールペンインクの増粘剤、繊維表面に消臭効果のある銀等の金属イオンが吸着しやすいことを生かした紙おむつシート等があります。

今後の用途分野として、市場規模の観点から特に注目されているのが、自動車や電子機器の部材、建築資材等への活用であり、樹脂やゴムにCNFを混ぜた複合材の開発等が進められています。

例えば、自動車部材にCNFを添加した高強度・軽量の樹脂素材を使えば、車の燃費性能向上に貢献すると期待されています。CNFを使った透明シートをつくり、高温状態でも縮みにくいフレキシブルディスプレー素材等として実用化を目指す動きもあります。

また、化粧品や食品といった安全性が必要な分野への用途拡大も想定されます。酸素を通しにくい性質から食品包装材のほか、ユニークなところではCNFを混ぜて真夏の炎天下でも溶けにくいソフトクリームをつくる等の利用法も考えられています。

政府は、自動車部材向け等のニーズを取り込むことで、CNF関連材料の市場を2030年に1兆円規模に育成する目標を掲げています。

<セルロースナノファイバーの特長と用途>

特長 期待される用途
軽量(鉄の5分の1)でありながら高強度(同5倍以上) 自動車部材、住宅建材、内装材、強化ゴム素材
熱による変形が少ない(ガラスの50分の1程度) 半導体封止材、プリント基板
比表面積が大きい 集じんフィルター、紙おむつ用消臭シート
高気密性 食品包装材
水中で粘性を示す 化粧品、食品、塗料、インク
高い透明性 フレキシブルディスプレー素材

(各種資料より作成)

サンプル供給から量産化段階へ

CNFの製造・実用化に主に取り組んでいるのは製紙会社や、製紙会社と関連のある製品を手掛ける化学メーカー等です。CNFは紙の原料である木材繊維(パルプ)からつくれるため、関連ノウハウのある製紙会社は有利な立場といえます。

現状、製紙各社はCNFの実証設備を導入し、サンプル出荷を行っている段階ですが、一定の需要が見込めるとの判断から、来年春以降に相次いで量産設備を稼働開始させる予定です。

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