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【第5回】2017年、知っておきたい経済の話 金融市場を揺るがすリスク~欧州の選挙~

Ruffled EU Flag
(写真=PIXTA)

2016年半ばにかけてはさまざまなリスクが世界の金融市場を揺るがしてきましたが、2016年終盤にはリスクに対する懸念は大きく後退し、トランプ次期米大統領の政策期待が盛り上がるなど、環境は改善しつつあるようです。しかし、2017年に再びリスクが金融市場を揺るがすことはないのでしょうか。

ここでは2017年に注意すべきリスクとして、欧州で予定されている選挙について考えてみます。

過去の「2017年、知っておきたい経済の話 金融市場を揺るがすリスク~英国のEU離脱~」については<こちら>からご覧ください。

EU崩壊懸念が台頭する可能性も

2017年はドイツやフランスといったいわゆるEU中核国で重要な選挙が複数予定されています。場合によっては、欧州連合(EU)やユーロ圏が崩壊に向かうのではないかとの懸念が台頭する可能性があり、要注意です。

キーワードは「ポピュリズム」

選挙を考えるうえでのキーワードは「ポピュリズム」です。「ポピュリズム」とは、「一般大衆、庶民」対「エリート、支配階級、特権階級」といった対立構図を作り、一般大衆のエリートに対する不満をあおりつつ、大衆の権利こそ尊重されるべきだと訴える政治的な手法(運動)のことです。「支配階級のエリートたちには、庶民の苦しみはわからない」、「既存の政治家たちでは、現状を何も変えられない」、「大企業のグローバル化によって、国内の一般大衆が切り捨てられる」といった考え方が、ナショナリズムや反グローバル主義と結びついて大きなうねりとなり、選挙結果を左右する動きが警戒されています。

2016年もサプライズに

このポピュリズムの流れは2016年も大きなサプライズをもたらしました。代表的なものが「英国の欧州連合離脱」と「米大統領選挙でのトランプ候補の勝利」です。

2016年6月23日、英国で欧州連合離脱の賛否を問う国民投票が行われました。英国はEUからの移民問題を抱えていたものの、EUという統一経済圏からの離脱はデメリットも多く、事前には残留が選択されるとの見方が優勢でしたが、実際には英国民は離脱を選択しました。離脱派のスローガンの1つが「コントロール(支配権)を(EUから)取り戻せ」というものです。中央集権的なEUの「支配」により移民問題などが引き起こされて英国の一般庶民が苦しんでいるという反発のもと、EUからの独立を勝ち取ろう、といった流れとなりました。

また、米国では「アメリカを再び強くする」とのスローガンを掲げたトランプ氏が勝利しました。既に政治家として長いキャリアのあるクリントン氏では何も変えられないとし、「世界のため」よりも「アメリカのため」を優先するアメリカ・ファースト(米国第一主義)という言葉も多用されました。

加えて、2016年12月4日にはイタリアでEUや政府が求めていた議会改革の是非を問う国民投票が行われ、イタリア国民はこれを否決しました。レンツィ首相(当時)は辞意を表明しています。マッタレッラ大統領はジェンティローニ外相を次期首相に指名し、すぐには総選挙にならないとみられていますが、レンツィ首相は2017年6月にも解散総選挙になるとの見方を示しています。

続く「ポピュリズム」の流れ

振り返れば、2015年7月、ギリシャで行われた国民投票でEUや欧州中央銀行(ECB)などから示された緊縮財政の強化を条件とした金融支援案の受け入れを否決した頃から、このような流れが始まっていたのかもしれません。

ポピュリズムの流れは、ナショナリズムや反グローバル主義といった内向きの思考と結びつき、反EUへとつながる動きをみせています。英国のEU離脱選択もこの流れのなかにあるといえるでしょう。

2017年には3月15日にオランダで総選挙、4月23日にフランス大統領選挙(決選投票となった場合には5月7日に2回目の投票が行われる予定)、9月にはドイツ連邦議会選挙が行われることとなっています。

オランダでは極右・反EUとされる自由党の躍進が警戒されているほか、フランスの大統領選でも反移民・反EUを掲げる極右、国民戦線のルペン党首が健闘するとみられています。

ドイツの議会選挙では反移民を唱える極右「ドイツのための選択(AfD)」が初めて国政の舞台に進出する可能性があるほか、現状予定されてはいないものの前述のイタリア総選挙が行われるとすれば、反緊縮・反EUの「五つ星運動」の躍進が警戒されます。

英国のEU離脱に加えて、もし、これらドイツ、フランス、イタリア、オランダといったEUやユーロ圏の中核国で反EUの機運が高まれば、市場ではEU崩壊・ユーロ圏崩壊といったキーワードが意識される展開になりかねません。

基本的にはテールリスク(実現する可能性は低いとみられるものの、実現すると影響が大きなリスク)とみられますが、2017年の金融市場を考えるうえで考慮に入れる必要があるでしょう。

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