トランプ次期大統領の政策に対する期待が金融市場を大きく動かしていますが。次期大統領の政策の影響については注意すべき点もあります。
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米国労働市場は「完全雇用」の状態が近づいている
まず、現状の認識として、米国の労働市場が“完全雇用”の状態に近づいているという点が重要です。完全雇用とは働く意欲と能力をもち、現在の賃金水準で働くことを希望するすべての人が雇用されている状態のことです。
実際、2016年11月の失業率は4.6%と2007年8月以来の水準まで低下し、米連邦公開市場委員会(FOMC)の参加者が完全雇用とみなす水準である4.8%を下回っています。
「完全雇用」になると、経済はどうなる?
このような完全雇用の状態で大規模な財政刺激策が実現した場合、経済の過熱やインフレ率の想定以上の過熱を招く可能性があります。イエレン米連邦準備理事会(FRB)議長も、完全雇用の達成のための財政刺激策は必要ないと指摘しています。
このため、大規模な財政出動が実現した場合、インフレ率を抑制するため、FRBも利上げのペースを加速していかざるを得なくなるでしょう。実際、12月のFOMCでは参加者による2017年の利上げペースの見通しが従来の年2回から年3回に上方修正されました。一部の参加者が財政政策の変更の影響を加味したためです。
トランプ氏の保護主義的な政策の影響は
また、関税引き上げや自由貿易協定の見直しといった保護主義的な政策が実現すれば、世界の貿易活動やサプライチェーンの拡大ペースが鈍ることによって、生産性や企業の競争力低下を招くとともに、コストの増加によってインフレ率が加速する可能性もあります。
これらの結果として、米国の長期金利やドルが大幅に上昇する場合には、住宅や自動車市場を中心に米国経済や企業収益のブレーキとなる可能性があります。
新興国経済への下押し圧力が強まる?
資本流出やドル建ての債務返済負担が増加することで、新興国経済への下押し圧力が強まる可能性があります。とくに経済活動が貿易や海外からの資本流入に依存する度合いが大きい国への打撃は大きくなるでしょう。これらの動きを通じて、世界的な景気減速への懸念が高まれば、金融市場でリスク回避の動きが強まる可能性もあります。
2017年の金融市場はトランプ氏の政策次第で大きく左右される展開に?
以上のように、世界の金融市場に大きな影響を及ぼす米国の経済や金融政策は、次期大統領の政策によって大きく左右する展開が予想されます。
次期大統領の政策が実現することによって成長やインフレが加速し、株高・金利上昇・ドル高の流れが続く可能性がある一方で、行き過ぎれば金利やドルの上昇、新興国経済の下振れがブレーキになるリスクもあるということです。こうした微妙なバランスのもとで、次期大統領がどのような政策のかじ取りを行っていくかが、2017年の金融市場を左右する最大の注目点といっても過言ではないでしょう。
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