
さまざまな“リスク”に動揺した2016年
リオオリンピックに沸き、世界各地で起こる地震や事件に揺れた2016年。
世界経済にとっても大きな潮流の変化が起こり、さまざまな“リスク”が市場を揺るがした1年だったといえるでしょう。
2016年半ばにかけては、原油価格の大幅な下落や、中国経済に対する不安、米国景気の腰折れ懸念や英国の欧州連合(EU)離脱など、さまざまなリスクが世界の金融市場を揺るがす局面がみられました。
しかし、2016年終盤になり、このようなリスクに対する懸念は大きく後退してきています。トランプ次期米大統領の政策に対する期待や、石油輸出国機構(OPEC)が8年ぶりに原油の減産で合意したことで原油価格が安定するのではないかとの期待、加えて米連邦準備理事会(FRB)が米国の経済に対して強気の姿勢を示したことなどが背景とみられますが、2017年に再びリスクが金融市場を揺るがすことはないのでしょうか。
2017年、世界経済を揺るがすかもしれないリスク ~英国のEU離脱~
第1回目の「2017年、知っておきたい経済の話」では、2017年に金融市場でリスクとして懸念されている「英国のEU離脱」について整理、解説していきます。
EU加盟のメリットとデメリット
EU内では「ヒト・モノ・カネ」の自由な移動が認められています。したがって、EUに加盟していれば英国の製品をEUに輸出するには作って運べばよいだけです。
ところがEUから離脱すれば税関などを通じた煩雑な手続きや、税金を納める必要も生じるかもしれません。英国では輸出も輸入もかなりの部分を対EUが占めていますから、EUから離脱すれば英国の産業は大きなダメージを負う可能性があります。
それにもかかわらず、英国がEUから離脱したいのはなぜなのでしょうか。
なぜ英国はEUから離脱したいのか?
2016年6月24日、英国でEU離脱を問う国民投票が実施され、英国民はEUからの離脱を選択しました。なぜ英国はEUから離脱したいのでしょうか?
離脱派のポイントは「移民(難民)」と「ポピュリズム」です。
EUに加盟していると、EU加盟国間の人の自由な移動が認められるため、他のEU加盟国の国民が英国にきて生活することができます。EUがポーランドなど比較的豊かではないとされる東欧にも拡大したことで、このような国から大量の移民が英国に流入しました。また、シリアなどからEUに渡った難民が比較的豊かな英国を目指す流れも強まりました。
これら移民や難民は比較的貧しい人が多いため安い給与でも働く傾向があり、結果として、肉体労働や単純労働などを中心に英国人の仕事が奪われる構図となりました。
そのため、貧しい人のための社会保障費がかさむこととなり、英国人がこれまで積み上げた社会保障費が食いつぶされるのではないかとの懸念が強まりました。このような状況のなかEUからの離脱論が台頭したのです。
移民・難民問題とポピュリズム化の経済への影響
ポピュリズムとは、「一般大衆、庶民」対「エリート、支配階級、特権階級」といった対立構図を作り、一般大衆のエリートに対する不満をあおりつつ、大衆の権利こそ尊重されるべきだと訴える政治的な手法(運動)のことです。
移民や難民問題で苦しむ英国民に対して、(「ヒト・モノ・カネ」の自由はEUの基本であるから)移民の受け入れ拒否は認めないとしたEUを悪者にし、「EUの支配から抜け出して、歴史ある英国の誇りを取り戻そう」といった愛国主義をあおるポピュリズム的な運動が繰り広げられました。
逆にEU残留派が重視したのは前述した経済への影響です。輸出や輸入などを通じた産業へのダメージに加えて、単一免許制度も話題となりました。英国はシティと呼ばれる金融街がありますが、日本を含めた世界中の金融機関は英国で活動する許可を得れば単一免許制度によってEU内でも活動が認められます。英国がEUから離脱すれば世界中の金融機関はシティを出て行ってしまうかもしれません。残留派はこのような経済的な悪影響を懸念する声が多かったようです。
英国はEU離脱派と残留派に分かれて投票を行いましたが、前述の通り投票では離脱派が勝利しました。この英国のEU離脱を巡る悪影響が2017年前半に再び世界経済を揺るがす可能性がなお残っているのです。【第2回】に続く。
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