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“日本だけ”リスクに気づいていますか? (前編)

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(写真=Thinkstock/Getty Images)

モノ、お金がグローバルに動いているにもかかわらず、金融資産の約96%を日本円で持つ私たち日本人。家計の資産構成も他の先進国と比べるとその特異性がはっきり見えてきます。一見手堅くみえる日本円と預貯金偏重の資産形成ですが、その一方で世界経済発展の果実を得る機会を逃していることに目を向ける必要もありそうです。

ときには自分の資産を俯瞰してみよう

理論好きの上司から「仕事には虫の目と鳥の目の両方が必要だ」なんていわれたことはありませんか? 対象にしっかり近づいて細かいところまで観察する視点と、俯瞰して全体像をとらえる視点の両方を持ってこそ適切な判断ができるという意味ですね。確かに一理あります。個人の資産形成においても、この考え方は当てはまります。

自分の資産について、虫の目は、日々の収支をしっかりと確認することです。一方、鳥の目は、資産全体の構成がどうなっているか、また、これからどのような構成にしていきたいかを考えることです。

日本人の家計資産には、全体として他の先進国とは異なる特徴があるといわれています。あなたの現在の資産構成はどうなっているでしょうか? 統計データを見てみましょう。

下のグラフは、日本、米国、ユーロエリアにおける、家計資産の構成を示したものです。

家計の金融資産構成
家計の金融資産構成

日本には合計で1809兆円の家計の金融資産があります(2017年3月末現在)。そのうち現金・預金の割合は51.5%。13.4%の米国、33.2%のヨーロッパに比べ、日本の割合が高くなっています。一方、株式や投資信託は少なく、2つを合わせた比率は米国、ヨーロッパそれぞれの46.8%、27.4%に対し、日本は15.4%。値動きする株式や投資信託よりも、安定感のある現金・預金が好まれているようです。

この家計の金融資産の中には、実は、外貨預金など日本円以外の資産も含まれています。円以外の外貨建て資産はどれくらいあるのでしょうか? 

個人=家計が外貨建ての資産を持つ方法は、いくつかあります。外貨預金をする、外国の株式や債券を買う、外貨建て資産が含まれる投資信託を購入するなど。家計の金融資産の中の外貨預金は6兆円程度、外国の株式や債券への対外証券投資は23兆円程度と推測されています。投資信託は、1本の商品の中に日本と外国の両方の株式や債券を含む資産分散型と呼ばれる商品があり、円建て資産と外貨建て資産を切り分けることが難しいのですが、個人が普通に買える投資信託のうち日本のみを投資対象とするものを除くと48兆円程度だそうです。合計すると外貨建て資産は70兆円台と類推され、家計資産に占める割合はたった4%程度です。

あなたは外貨建て資産を持っていますか? そもそも外貨建て資産って持っていたほうがいいのでしょうか? 

人、モノ、お金‥世界はつながっている

ここで、鳥の目を持って、日本と海外の関係についてみてみましょう。

まず人の行き来です。日本を訪れる外国人観光客はここ数年うなぎ登りに増えていて2016年は約2400万人。日本人の海外旅行者は約1700万人。たくさんの人が行き交っています。生活に必要なモノも、服、食品の原材料、家電‥。タグなどの表示を見れば日本で生産されたモノの方が少ないことに気がつくでしょう。日本は世界有数の貿易大国で、輸出入なしには日々の生活はなりたちません。日本の年間輸入総額は約66兆円(2016年)。輸出総額は約70兆円(同)。合計では136兆円にものぼり国家予算約97兆円(2016年度一般会計)を大きく上回っています。人やモノが国境を超えて行き交えば、そこには当然、お金が動きます。人、モノ、お金、さらには情報やサービスが世界規模で国境を超えて移動するグローバリゼーションがこれからますます進むと予想されています。日本国内の動向のみならず、海外の政治や経済の影響を日本に住んでいても大きく受けるのです。

そして、こういった動きや、日本経済、ひいては個人の資産運用にも関連してくるのが通貨を交換するときの為替相場です。

外国人観光客は日本で買い物をするために自国通貨を円に交換します。輸出をする企業は、輸出した商品の代金を現地通貨で受け取り、日本の社員に給料を支払うために円に交換します。このときの交換比率=為替相場はさまざまな要因で変動します。複数の要因が重なるため単純にはいい切れませんが、通貨の場合も、モノと同様に、人気がある=ほしい人が多いと上がり、人気がない=手放したい人が多いと下がる傾向があります。具体的に為替レートが上がるケースを紹介します。

○ 需要が多い国の通貨
  買いたい人が多い ⇒ 上がる
○ 金利が高い国の通貨
  高い金利を求めて、買いたい人が増える ⇒ 上がる
○ 経済成長している国の通貨
  経済成長期には金利が上がりやすく、通貨も人気がでる ⇒ 上がる

そして為替変動の影響は、私たちの生活や経済に次のような形で現れます。円とアメリカの米ドルとの関係で見てみましょう。

米ドルに対して円安になるとアメリカからの輸入品の代金が高くなり、国内の物価が上がります。その一方で、日本からの輸出品はアメリカ人にとっては安くなり輸出量が増えます。輸出量が増えた企業は業績が良くなり株価が上がります。結果、日本は輸出企業が多いので日本の平均株価も上がりやすくなります。

一方で、米ドルに対して円高になった場合は、これとは逆のことが起こりやすいです。
これはあくまで理論で、理論通りには行かないこともあるのが現実ですが、大きな流れとしてこのような傾向があります。このように個人の日常生活も、世界の動きと無縁ではいられないのです。後編では、このような状況の中で、外貨建て資産を持つことの意味や効果を考えます。

日経BPコンサルティング 金融コンテンツLab.
フィナンシャルプランナー 坂本綾子

日経BPコンサルティング「金融コンテンツLab.」は、難しくなりがちなお金の話題を、わかりやすいコンテンツに仕上げることをテーマとして取材・情報発信にあたっている制作研究機関。月刊誌『日経マネー』編集部の在籍経験の長いベテランスタッフが中心となり、マネー系コンテンツを提供している。

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