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リスク回避は円高を引き起こす!? 北朝鮮の有事でも??

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(写真=Anton Watman/Shutterstock.com)

リスク回避(オフ)=円高の反応はなぜ

経済危機や国際紛争など、さまざまな種類のリスクがありますが、為替市場ではリスクが高まると円高反応が起こりやすいとされています。実際、直近では2017年4月7日(日本時間)にアメリカがシリアにミサイル攻撃を行った際にも、その一報が流れた直後、ドル円相場は円高に振れました。なぜこのような反応が起きるのでしょう。

いくつか理由があるとされていますが整理すると、1.日本に対する安心感、2.円売りの巻き戻しや日本への回帰、3.過去の経験則、などに分けられます。

日本に対する安心感とは

日本に対する安心感とは、対外純資産残高や経常収支でみることができます。対外純資産残高とは、その国の国民や企業などが国外に持っている資産がどの程度あるのかを示したものですが、日本の対外純資産残高は2015年時点で339兆円を上回り、25年連続で世界一です。また、経常収支とは貿易や投資などによって生じるお金の受け払いですが、日本は恒常的に黒字(資金流入)となっています。つまり、世界一お金持ちで、恒常的にお金が流入している日本の円にはいざという時に安心感がある、との見方がリスク回避の円高につながっているとみられます。

円売りの巻き戻しや日本への回帰とは

中央銀行である日本銀行(日銀)がマイナス金利政策を導入している日本は、世界有数の低金利国です。世界の投資家の中には、低金利の国で資金を借りて高金利の国や高成長の国で運用する取引をする人がいます。この時、円で借りて他の国の通貨で運用するということが起きるのです。このような取引を(円)キャリートレードと言います。世界のどこかで何かリスクが起きると、このような取引を解消しようとする動きが強まり、結果として円に資金が還流して円高が起きる可能性があります。円キャリートレードの巻き戻しが円高を引き起こすということです。

また、先に述べたように日本の対外純資産は世界最大です。何か不透明な事態が起きた時には、資産を手元に引き戻しておこうという動きが強まることで日本の資金が円に向かうことが考えられます。本国に回帰する動きをレパトリエーションということから、このような動きをレパトリの円買いなどと呼びます。

過去の経験則とは

2007年、ドル円は1ドル=124円台でしたが2011年には75円台までドル安円高が進みました。この時、何があったのでしょうか。実は2007年にアメリカでサププライム危機が起きました。これは一種の土地バブルの崩壊です。これによって急激に景気が冷え込むなか翌2008年には大手金融機関リーマンブラザーズが破綻するいわゆるリーマンショックが起きました。

名だたるアメリカの大手企業が次々と政府の金融支援を仰いで何とか生き延びるという状況になったのです。さらにその翌年、2009年頃からは欧州債務危機が発生しました。アイルランドやポルトガル、ギリシャなどが金融支援を受け、ユーロは崩壊するのではないかとの見方も台頭、欧州の景気も激しく落ち込みました。

ドル、ユーロ、円、ポンドはいつでも売買できて信用度も高いことから主要4通貨などと呼ばれますが、アメリカや欧州の景気が激しく落ち込むなか、マネーが安全を求めてドルやユーロ、ポンドではなく円に流入したことが、前述の1ドル=75円といった円高をもたらしたと考えられます。この時の経験則から、「リスクの高まり=円への逃避」といった動きが為替市場に染みついた面が指摘でき、特に投機筋などはリスクと聞くと反射的に円買いを行う傾向があるようです。

北朝鮮で有事があった場合にも円買いなの??

北朝鮮で紛争が起きれば、日本に向けてミサイルが飛んでくる可能性もあるのにリスク回避だから円高?やっぱり違和感もありますよね。でも初期反応は円買いの可能性が高いとみられます。「有事」の度合い次第なのですが、「北朝鮮で何らかの紛争や衝突が発生した」との一報が出た直後には、外国人投資家などによる「円キャリーの巻き戻し」や日本人による「レパトリの円買い」、また、投機筋による「リスク=円買いの反射的な円買い」が円高を引き起こすのではないでしょうか。

実際、東日本大震災の直後にも(震災は日本経済にとってマイナスであるにも関わらず)、このような動きが要因と思われる円買いの動きがみられています。ただ、もし北朝鮮での紛争が激しさを増し、日本の領土にミサイルが着弾するような事態となれば、自衛権が発動されて日本が紛争の当事者として行動し始めることが想定され、そこからは逆に円からの逃避が始まって円は急落するのではないかとみています。

地政学的リスクの円高は一時的?

実は過去にも地政学的リスクの高まりがドル円相場の下押し(ドル安円高)圧力をもたらしたことはあります。しかし、実際にはそのほとんどが短命で、すぐに元の位置に押し戻される傾向がみられています。

2003年3月20日の英米のイラク進攻時、120円台だったドル円は4月1日にかけて117円台まで円高になりましたが、4月11日には120円台を回復。この間、17営業日でした。2001年9月11日の米同時多発テロの際には121円台から9月20日にかけて116円台へ円高が進んだものの、協調介入もあって23営業日後の10月11日には121円台を回復しています。さらにさかのぼって1993年5月29日の北朝鮮によるミサイル発射のときには107円近辺から6月14日にかけて105円程度まで円高となったものの、6月17日には107円台に反発。この間、14営業日にすぎません。

このように、過去の例からは地政学的リスクを原因とした円高は一時的にとどまっているのです。

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