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宿輪先生に聞く「映画からひも解く経済学」後編

前回のインタビューでは、「スター・ウォーズ」シリーズを題材に、「シネマ経済学」の魅力についてお話をうかがいました。その後編にあたる今回は、金融をテーマとした映画の変遷や魅力、さらに近未来の社会について、引き続き、帝京大学経済学部教授、宿輪純一先生にご教示いただきました(このインタビューは2017年11月29日に行われました)。(写真は、スター・ウォーズの「Xウィング・スターファイター」とスタートレックの「エンタープライズ号」を持ちご満悦の宿輪先生)

>>宿輪教授に聞く「映画から紐解く経済学」前編はこちら

――アメリカでは金融が映画の題材になるケースが非常に多いのですね。

宿輪氏:1964年に公開された名作「007 ゴールドフィンガー」は、犯罪者が大量の金塊を放射能で汚染させることで、金の価格を暴騰させるというもくろみを描いています。単純に悪党が金塊や現金を盗むというシチュエーションが主流だった時代に、市場における需要と供給をクローズアップした最初の作品として経済学的に画期的だったように思えます。

その次に登場したのは、コンピュータ上でお金がビュンビュンと飛び交って、送金されたと同時に、“今はモナコにある”とか、“ニューヨークにある”といったパターンや、一気に数ヵ所にバラまかれるようなパターンなど。本当のことをいうと、現在の国際的な金融インフラでもそこまではできません。あれは単なる映画のなかでのイメージです(笑)

――時代によって映画におけるお金の扱い方が変わってきますね。

宿輪氏:そうですね。実際の金融事件が題材になっている映画もどんどん登場しています。実際に存在したルクセンブルクの銀行が資金洗浄や武器取引等の数々の不正取引、いわゆる“BCCI事件”を基に製作された「ザ・バンク 堕ちた巨像」や、1995年に発生した投資銀行ベアリングス銀行の破綻を題材にしているのが「マネートレーダー 銀行崩壊」。2008年のリーマンショックを題材とした「マージン・コール」「インサイド・ジョブ 世界不況の知られざる真実」もヒットを記録しています。「マネーモンスター」もヒットを得ています。

なかでもレオナルド・ディカプリオ主演で話題となり、その後もブロードウェイでミュージカル化された「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン」は、おすすめの作品です。

1960年代に世界各地で小切手偽造事件を起こした、実在の天才詐欺師を主人公とした作品ですが、結局、彼は犯罪者でもあるにも関わらず、更生したあと、FBIに再雇用されます。詐欺防止のコンサルタントとして社会貢献をしていくのですが、これって要するに最近の、サイバーテロへの対抗策として、ブラックハッカーを雇用してホワイトハッカーとして活躍してもらうという、そんな流れにつながっていると思うのです。

――どうして人はお金を題材とした映画に惹かれるものなのでしょうか。

宿輪氏:私の決め言葉は“2時間の夢”で、どんなスーパースターにもなれます。もちろん、犯罪は良くないですけれどもね、主人公になりきって、大金を手にするという夢は、やはり誰もが見たいですよね。そんな気持ちを満足させてくれるのでしょう。

特にアメリカは国民に娯楽を与える国策として、映画を製作してきました。だからフランス映画に比べて台詞の少ない活劇が主体で、しかも、いつもハッピーエンド!生活が苦しい人でも楽しめるよう考えられて製作されてきました。それがアメリカ映画の良さでもあります。

ちなみに最近の映画は変革されてきています。最近の「スパイダーマン」は、まず配役が各国の人で、インド人や中国人など、人口が多い順に起用されているし、英語の台詞も簡略化されて、非常に聴きとりやすくなっています。まさにアメリカの国際戦略を作品のなかで体現しているといっても過言ではありません。

――経済学に限らず、映画を通じて、さまざまなことが理解できますね。

宿輪氏:映画には政治、経済、国際問題など、さまざまな要素が凝縮されています。リアルな社会とつながっているからこそヒットするのですし、それをしっかり娯楽化している作品ほど優れていると思います。そういった観点で鑑賞すると映画はさらに面白くなりますし、繰り返し見ていくことでどんどん理解が深まります。もう一度見たいと思ってもらえるような、新しい切り口を提供したいという思いがあります。

もう経済学者というより、映画を愛する映画評論家の立場で考えてしまいますね。映画評論家が本業かもしれません(笑)

――映画の世界観がリアルな社会とつながっているというのは確かにおっしゃる通り。AIやFintechなどはまさに、すでに映画のなかで描かれてきた近未来、そのものですものね。

宿輪氏:そうです。まさにSFの世界ですよ。人間というのは目標があると突き進んでいく生き物ですから、過去に映画やドラマで描かれていた世界観が一つの目標となって、それを確実に実現しようとしていきます。例えば「サンダーバード」はスペースシャトルというカタチで実現されました、携帯電話ももう50年以上も前から描かれてきました。最初の段階では中身がともっていなくても良いのです。イメージを頭に描くだけでそこに向かっていく。人生でもそうですが、目標を立てた瞬間にもうその半分は達成されたようなものです。

映画では、未来世界を描いていくときに、製作者は“人は何のために生きているか?”という、ある種、宗教的な方向に向かっていく傾向があります。AIなどに代表されるテクノロジーと人間の違いは?そこに良心が存在するのか?といった命題を視聴者に突きつけてくるのです。

もしかしたらテクノロジーが進化していくと、“機械のほうが人間よりもいいや”って気になる人が増えてくるかもしれません。変な彼氏につかまってお金をむしり取られるより、優しい声をかけてくれて真面目なロボットのほうがいいって女性がでてくるかも。逆もあります(笑)。そうならないよう男性も思いやりを持って女性に接したほうが良いでしょうね。まあ、これは余談ですが。

宿輪 純一(しゅくわ・じゅんいち)
帝京大学経済学部経済学科教授。
1987年慶應義塾大学経済学部卒業後、富士銀行入行。2015年に三菱東京UFJ銀行を退職後、同年より現職。
2012年より慶應義塾大学 経済学部 非常勤講師(国際金融論)(現任)。2015年4月より現職。
プロの映画評論家としての顔を持ち、2017年には「シネマ経済学」の商標登録特許を特許庁から取得。
ボランティア公開講義「宿輪ゼミ」では、1万人以上の経済・映画ファンが集う。主な著書には、日本経済新聞社から『通貨経済学入門(第2版)』、東洋経済新報社から『決済インフラ入門』や『ローマの休日とユーロの謎―シネマ経済学入門』などがある。TV出演の他、文化放送「The News Masters TOKYO」毎火曜日8時~レギュラー出演中。

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