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宿輪純一教授に聞く「映画からひも解く経済学」前編

映画の解説を聞きながら、リアルな経済学をわかりやすく学べると話題の「シネマ経済学」。このたび特許庁にて商標登録も完了し、映画と経済学の新結合が、新分野として公的に認知されました。今回はこのユニークな経済学の創始者として知られ、国際金融・フィンテック・決済などの第一人者である帝京大学経済学部教授・宿輪純一先生に、話題の新経済学の魅力や意義についてうかがいました(このインタビューは2017年11月29日に行われました)。

――宿輪先生が、映画と経済学を融合した「シネマ経済学」を着想された背景から教えてください。

宿輪氏:もともと、中学生の頃から映画が大好きで、当時はビデオもなく名画座で一年間に100本のペースで鑑賞していました。プロとなった今は200本くらいになっていますが。ずっと映画評論家になりたいと思っていましたが、免許が必要な仕事ではありませんから、“自称”を含めて世の中に何万人もいるような世界。そこは趣味としながら、銀行勤務を経て大学で経済学を教えるようになって、最初、東大大学院で企業戦略を教えていたのですが、そこで“イノベーション”を教えていてふと思いついたんですよ。

多くの日本人が誤解していますが、あれは発明ではなく「新結合」って意味なんですね。いろいろな技術を組み合わせていって新しい価値を生むというものです。私も大好きな映画を使って何かできないか?と考えたときに、経済学と組み合わせ、映画を経済学的な切り口から説明しようと思い立ったのです。

最初は女性誌の仕事からはじめました。経済学を学びたいけれど、いきなり難しい理論からはいるのは苦手という方に向けて、映画と組み合わせて説明したら話題になって、以降、朝日新聞やHUFFPOST、日経BP、東洋経済から連載に依頼があり、フジテレビ・テレビ東京などのテレビにも出演し、日本経済新聞の映画の特集に声がかかるようになりました。

――「シネマ経済学」を通じて先生は、聴講者や読者に対して、どのようなことをお伝えしたいと考えていらっしゃるのでしょうか。

宿輪氏:純粋に映画への理解が深まると同時に、わかりづらい経済学にも興味を持ってもらいたいのですね。やはり映画評論家の仕事はスパイスだと思っていて、評論を読んで、もう一度映画が見たくなるというのが「職業としての使命」と考えています。同様に私が書いた経済学的な切り口の記事を読んでいただいた後に、もう一度映画を鑑賞すれば“なるほど、そうだったのか”と合点がいくはず。例えば「スター・ウォーズ」シリーズはご覧になっていますか。

――はい。最近、全作品を一気見しました。

宿輪氏:「スター・ウォーズ」って、そもそも従来の経済原則とは逆行した世界観が描かれています。「エピソード4/新たなる希望」でショッピングをするシーンが登場しますよね。主人公たちが「R2-D2」を購入したりガラクタを売ったり。あのマーケットにはいろいろな星から宇宙人が集まっているにも関わらず、通貨が統一されていますよね。ちなみに通貨の単位は“クレジット”という、少しダサいものでしたが(笑)。

そもそも、宇宙戦争の原因は通商同盟のこじれ、すなわち貿易でもめているのにも関わらず、すでに通貨が統一されているのですよ。ヨーロッパの例を見ればわかるように、普通は逆ですよね。隣の国と通商同盟を締結して、貿易を深めていってそれから通貨を統一していったではないですか。

ところが、アジアの場合は少しだけ事情が違っている。私は財務省のアジア通貨統合に関する委員会にも出席していたことがあって、その場でも提言していたのですが、アジアは逆に通貨統一からはじめるべきだと思っているのですね。なぜかといえば、日本とアジアは貿易がダブってしまう。日本は農業を守りたいのですが、ほかのアジア諸国だってメインの産業は農業ですから、間違いなく利害がぶつかります。

ところが通貨や金融の分野においては、アジア通貨危機などがあって、まだまだ彼らは日本から教えてもらう立場にあると自覚しているのでささりやすい。それどころか、日本から教わりたいとさえ思っていました。だからアジア向け経済戦略は“スター・ウォーズ型”の政策なのです。日本の農業政策から考えたら絶対にコメを無税で輸入するわけがないのですから、金融インフラを強化してあげれば通貨危機は二度と起こらないのです。このように考えると非常に面白いでしょう?

――確かに面白いです!作品に対する理解が深まりますね。

宿輪氏:さらにいえば、「スター・ウォーズ」がすごいのは、現代的要素がしっかり作品のなかに取り入れられている点。「エピソード1/ファントム・メナス」では、悪の黒幕だった元老院最高議長が自分の政権を固めるために、ダースベーダーみたいな忠実な部下を使って、どんどん役員のポジションにある邪魔者を切っていきますよね。あれって大きなグループ企業ではよくある光景ですよね。

文字通り、切っちゃうでしょ。映画というのはそういう風に、社会的な要素がベースにあって、時代にあうように作られている。だから映画を見るとすっとするし、「これって、どこかでよく見る光景だよね」と納得するのです。むしろ、そういった社会的課題がしっかり描かれていないような作品はヒットしづらいですよね。

古くは「風と共に去りぬ」も典型的な例ですよね。あれは国策としてつくられた映画です。実は第二次世界大戦がはじまる前、1939年の映画です。当時、日本ではまだ白黒で無声映画で活動弁士がいた。そんな時代にフルカラーの作品を製作し、日本軍に渡したという説があります。要するに、あの作品を通じて国力の差を見せつけようとしたのでしょう。このような国と戦争を続けても無駄だというメッセージを伝えたかったのでしょうね。

要するに優れた映画には必ず、何らかの社会・経済的なメッセージが含まれているので、それを読み解く面白さもあると思うのです。

>>宿輪教授に聞く「映画から紐解く経済学」後編に続く

宿輪 純一(しゅくわ・じゅんいち)
帝京大学経済学部経済学科教授。
1987年慶應義塾大学経済学部卒業後、富士銀行入行。2015年に三菱東京UFJ銀行を退職後、同年より現職。
2012年より慶應義塾大学 経済学部 非常勤講師(国際金融論)(現任)。
プロの映画評論家としての顔を持ち、2017年には「シネマ経済学」の商標登録を特許庁から取得。
ボランティア公開講義「宿輪ゼミ」では、1万人以上の経済・映画ファンが集う。主な著書には、日本経済新聞社から『通貨経済学入門(第2版)』、東洋経済新報社から『決済インフラ入門』や『ローマの休日とユーロの謎―シネマ経済学入門』などがある。TV出演の他、文化放送「The News Masters TOKYO」毎火曜日8時~レギュラー出演中。

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