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脳に関する日頃の疑問にお答えします (前編)

新たに英単語を覚えようとしても、なかなか覚えられなくて、脳の老化を意識したり、一日中仕事のことを考えて、脳を休ませていないのでは?と感じたりと、日々生活していくうえで脳について気になっていることはありませんか?
そのような脳についての日常の疑問を、脳のMRI画像を使って1万人以上の脳を診断・治療してきた脳内科医の加藤俊徳さんにお聞きしました。

Q.1 今度こそものにしたい! と英語の勉強に再チャレンジしていますが、新しい単語や慣用句をなかなか覚えられません。やはり脳が老化しているのでしょうか?

A.1 英単語をかつてのように覚えられなくなったのは、覚えなくていい生活をしているから。記憶力を使わない生活で、いつの間にか対応する脳機能が低下しているのです。

英単語をかつてのように覚えられなくなったのは、覚えなくていい生活をしているからです。脳の中でも記憶にかかわる「海馬」は一般的に40代後半から小さくなる傾向にあります。原因の1つは、覚えておかなければいけない状況や暗記の機会が減っていることにある、と私は考えています。

社会人になると、学生時代のように暗記しなければ受験の合否にかかわるような切羽つまった場面は、あまりありません。さらに、パソコンやスマートフォンに頼った生活では、明日の予定も新しく得た知識も、覚える必要がありません。検索するだけですぐに教えてくれるからです。

脳は環境に適応します。電卓に頼ってばかりいると、簡単な四則計算さえ暗算でできなくなるように、記憶力を使わない生活で、いつの間にか対応する脳機能が低下しているのです。

実は、脳は人間の体の中でも一番寿命が長い部分。情報や経験を得ることで、まだまだ育ちます。これは脳のMRIの画像診断でも確認できる事実。ほとんどの人は自分の脳を過少評価していますが、意識して脳を使う生活で記憶する力も取り戻せます。特に脳はデッドラインを明確にすると、何とかそれまでに完了しようとする傾向があります。朝の始業前の20分、就寝前の10分等、忙しい社会人だからこそデッドラインを意識した、脳の使い方が有効です。

Q.2 学生時代は優秀だったはずなのに…と周囲の期待に応えきれていない部下がいます。受験勉強で鍛えた脳は、応用力が低いのでしょうか。

A.2 受験期に使われるのは記憶系等ごく一部の脳。さまざまな脳の機能を使って問題を解決する力が求められる社会では、それだけでは足りないのです。

若いときに養った学力を、脳力と思っている人も少なくありません。しかし、学校脳で鍛えられたのは、脳の中のほんの一部にすぎません。

脳には千数百億個の神経細胞があり、「見る」「聞く」「話す」「理解する」等働きによって、使う場所が違います。これを私は8つの番地に分類しています。脳は脳番地ごとに成長するため、どこがよく育っているかによって、得意な分野が異なります。

図 「生きがいでの喜びの大きさ」は「健康」や「お金」の大きさに比例する


受験期に使った脳は、教科書に書いてあることを学びなさいというものがほとんど。使われているのは記憶系等ごく一部です。これに対し、社会で求められるのは、予想外の事柄に対し、さまざまな脳の機能を使って問題を解決していく力。学校脳のままでよしとしていると、勉強の延長線上でしか脳を使えていません。ほかの脳番地を刺激しないから、自然に衰えていきます。

また、高学歴な人ほど多くの情報に対し、すでに知っているという意識があるため、脳が記憶しようとしません。新鮮でない情報は、脳を刺激しないので定着しにくいのです。

若いころの脳貯金がずっと続くわけではありません。脳のさまざまな部位に刺激を与えて、活性化させる脳貯金を続けることができる人が、脳の力を伸ばし続けられるのです。

Q.3 働き方改革で帰宅時間は早くなりましたが、自宅に帰ってからもメールの転送機能で仕事の情報が追いかけてくるようになり、なんとなく脳が休まらない気がします。私だけでしょうか?

A.3 ダラダラ仕事を引きずってしまわず、しっかりと終わらせること。オン・オフをしっかりと区別し、仕事とは違う分野の脳を使って切り替えを心がけましょう。

オン・オフの区別なくパソコンやスマホの画面をみつめ仕事をしていることは、脳にはよくありません。仕事脳ばかりが使われている状態で、脳が疲弊し作業効率は低下。さらにほかの部分が使われず働きがおろそかになります。その習慣はいずれ脳のくせになり、脳の形になり、挙げ句使わない脳の場所は老廃物がたまりやすくなり、だんだん劣化していきます。

行動のスイッチを入れるのは簡単でも、オフにするのは意外に難しいものです。ダラダラ仕事を引きずってしまわず、しっかりと終わらせることで、記憶が脳にたまりやすくなります。帰宅したらオフにすること。例えば、子どもと遊ぶ、好きな音楽を聴く、プラモデルを作る等仕事とは違う分野の脳を使って切り替えを心がけましょう。

また、起きているときに脳をうまく機能させるためには、いかに眠るかが大切。眠っている間、脳は起きている間に入力した情報を整理しリセットしています。できれば深夜12時前には就寝し、少なくとも6時間以上の睡眠をとりたいものです。行動のオン・オフをしっかりと区切ることで、脳の海馬が刺激され、記憶力も向上します。

>>脳に関する日頃の疑問にお答えします(後編) に続く 

脳の学校 代表取締役
加藤俊徳(かとう・としのり)さん
新潟県生まれ。加藤プラチナクリニック院長。脳内科医・医学博士。昭和大学客員教授。脳番地トレーニングの提唱者。米国ミネソタ大学、慶應義塾大学、東京大学等で、脳研究に従事。胎児から超高齢者まで1万人以上の人をMRI脳画像を用いて診断・治療。加藤プラチナクリニックでは、MRIで脳の成長を診断し、発達障害や認知症等の脳が成長する医療を実践。雑誌。新聞、テレビ、ラジオ等で活躍中。著書は『才能の育て方』(小学館)、『脳を強化したければ、ラジオを聴きなさい』(宝島社)等著書多数。
脳の学校公式サイト http://www.nonogakko.com
加藤プラチナクリニック公式サイト http://www.nobanchi.com

※ 『日経おとなのOFF』2017年5月号を参考に記事を作成しています。

日経BPコンサルティング 金融コンテンツLab. 
中城邦子

日経BPコンサルティング「金融コンテンツLab.」(https://consult.nikkeibp.co.jp/financial-contents-lab/)は、難しくなりがちなお金の話題を、わかりやすいコンテンツに仕上げることをテーマとして取材・情報発信にあたっている制作研究機関。月刊誌『日経マネー』編集部の在籍経験の長いベテランスタッフが中心となり、マネー系コンテンツを提供している。

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