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人の「末路」は蜜の味!?『宝くじで1億円当たった人の末路』が受けたワケ(前編)

(写真=iStock/GettyImages)

現代人の文字離れがさけばれ、書籍や雑誌の売れ行きが低迷して久しいなか、1冊のユニークな本がベストセラーとなって話題を集めています。
タイトルは『宝くじで1億円当たった人の末路』(鈴木信行、日経BP社)。雑誌『日経ビジネス』など数多くの経済誌・技術系雑誌の出版で知られ、お堅いイメージのある日経BP社の書籍としては異彩を放つ1冊。
経済誌の編集経験がある科学技術ライター・コンサルタントの須田昭久さんに、ドラマ化も決定したこの本の魅力やユニークな点などを説明してもらいました。

実際の宝くじ当選者を追ったルポではなく
人生のさまざまな岐路での選択による「末路」を解説

この本を手に取った人の多くは、まずタイトルを見て、内容を次のように想像するでしょう。「多くの宝くじ高額当選者のその後の人生を取材して、彼らが必ずしも大金によって幸せになっていない様子をルポしているのだな」と。しかし実際はそうではなく、表題の『宝くじで1億円当たった人の末路』は収録されたなかの1テーマであり、他にも人生のさまざまな岐路での選択がもたらす「末路」について語られています。

特筆すべきは、それぞれのテーマで解説されている岐路が、多くの現代人が人生において遭遇するものであり、その時の選択によって、どういう結果がもたらされるのかを“論理的に”解説している点です。つまり「Aさんはこうなった。Bさんはこうなった」という実例紹介ではなく、「あなたがこういう岐路に遭遇してこういう選択をしたら、こういう結末を迎えることになります」という内容です。

こう書くと、一見末路へのプロセスがリアリティに欠けるように思えますが、実際はデータや専門家の経験、深い考察に基づいた説得力のある解説なので、「Aさんはこうなった」という他人事としてではなく、読者が「自分もその選択をしたらこうなるのでは?」と“自分事”として引き込まれる内容になっています。読後には「もし表題のように1億円当選者のエピソードを書き連ねた本だったら、これほど魅力的にはならなかったし、ここまで売れてはいないだろう」と感じました。

日本で暮らす多くの人が不安に思う事象で
「この選択でこうなる!」とはっきり提示し解説

取り上げられている「人生の岐路」の選び方も絶妙です。主なものをあげると「事故物件借りちゃった人の末路」「キラキラネームの人の末路」「『友達ゼロ』の人の末路」「子どもを作らなかった人の末路」「賃貸派の末路」「自分を探し続けた人(バックパッカー)の末路」「留学に逃げた人(学歴ロンダリング)の末路」「『疲れた。海辺の町でのんびり暮らしたい』と思った人の末路」「『グロい漫画』が好きな人の末路」「8時間以上寝る人の末路」などです。

それぞれが、読み物としても興味をそそられるテーマであると同時に、現代の日本で暮らしていて、多くの人が漠然と感じている疑問や不安に当てはまることでもあります。どのテーマが特に自分の関心に“刺さる”のかは人それぞれでしょう。

例えば、私の場合、社会人になってから60歳近くの今日に至るまでずっと賃貸住宅に住み続けていますが、老後のことを考えるたびに「どこかの段階で家やマンションを買った方が良かったのではなかったか?」と自問しています。また釣りが趣味、都会の雑踏が苦手なので「いつかは海の近くの自然豊かな田舎で暮らしたい」と願いつつも、実際には踏み出せないでずるずると歳を重ねています。そして世相を反映した「キラキラネーム」に関しては、「あまりに奇抜な名前は、いじめられたり目立ちすぎたりして、子どもが不利益を被ることはないのだろうか?」と心配し、猟奇的事件が続発する世情を憂いつつ「自分の子どもが『グロい漫画』にのめり込んでいると知った親は、さぞショックだろうなあ…」と同情したりもします。

この本は、そうした現代人が遭遇しがちな岐路に対して、「こういう人はこうなる!」とズバリ断じて、なぜそう断言できるのかを解説しています。全体を通じて、多くの書籍に見られる「両論併記」や「ケース・バイ・ケースです」的な“逃げ”の姿勢がない潔さも、多くの読者から支持を得られた理由でしょう。

「末路」は必ずしも「悲惨で哀れな結末」ではなく
予定調和的な先入観が裏切られる面白さも

この本では、「末路」という言葉の使い方がある種のギミック(仕掛け)となっています。先述のテーマのいくつかは“挑発的”ともいえるニュアンスが感じられ、これだけを読むと反感を抱く人がいるかもしれません。

しかしこの本でいう「末路」は、必ずしも「悲惨で哀れな結末」を意味していません。いくつかのものは、一般的な予想を覆す「ハッピーエンド」の結末を提示しています。一例をあげると、通常は「寂しい老後」と結びつきそうな「友達ゼロ」を、「何の心配もいらない」と断じています。

つまり、厳密には「顛末」あるいは「行く末」という表現が正確なのでしょうが、そこをあえて「末路」と書くことで、予定調和的な先入観を持たれることを避けているかのようです。また逆に、先入観のいくつかが裏切られるという意外性が、読者の好奇心をより喚起する効果もあるようです。

後編では著者の鈴木信行さんに聞いた、同書のねらいや出版戦略、ベストセラーとなった社会的背景の分析などについてお伝えします。

日経BPコンサルティング 金融コンテンツLab. 
科学技術ライター・コンサルタント 須田昭久

日経BPコンサルティング「金融コンテンツLab.」(https://consult.nikkeibp.co.jp/financial-contents-lab/)は、難しくなりがちなお金の話題を、わかりやすいコンテンツに仕上げることをテーマとして取材・情報発信にあたっている制作研究機関。月刊誌『日経マネー』編集部の在籍経験の長いベテランスタッフが中心となり、マネー系コンテンツを提供している。

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