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「ワーテルローの戦い」― 兜町カタリスト櫻井英明のここだけの株話

「ワーテルローの戦い」

投資の大原則は「資産を減らさないこと」。
これが絶対の大命題です。
通常、投資というと、増やすことと考えるのが多いですが、これは一般的な思考法。
欧米富裕層の投資方針としては、まず減らさないことを挙げる投資家が多いです。
考えてみれば、大きなリターンを得るには、大きなリスクを取らなくてはならないので、損失が拡大する可能性が大きくなります。
逆に、「減らさない」を前提にすると、意外と良い投資が出来るともいえます。
「リスクは少なくする、リターンは少なくても構わない」。
簡単に言われますが、実はこれは一番難しいこと。
人間の欲には限度がないので、「もっと、さらに」という思考法が支配的になってしまいます。
兜町の格言に「もうはまだなり、まだはもうなり」というものがあります。
「もう下値に届いたと考えても、まだまだ下値の可能性はあるし、まだ上昇は続くだろうと考えても、さらに上昇は続く可能性はある」ということ。
別の格言では「商いは3日待て」というのもありますし、「相場は明日もある」というのもあります。
1815年という大昔のこと。
ロスチャイルドは、ワーテルローの戦いでナポレオンが敗れたのを確認して、「ナポレオンが勝って英国軍は負けた」とデマを流し、公債を大量に購入して資産を増やしたという歴史があります。※諸説あります。
市場はそれこそ生き馬の目を抜く世界。
起きた事柄や業者の話に一喜一憂すると、それこそ餌食になってしまう世界。
だからこそ、じっくりと考えることが必要。そして、踊らないこと。
熱狂の最中では、物事が良く見えなくなることもまた現実です。
「この株は永遠に上がり続けるに違いない」と感じたら、それは天井が近いという警戒感。
腹八分目を心がけ、常にキャッシュを確保するというような神経質で臆病な姿勢は、必要になると思われます。
兜町で名をなした人、ウォールストリートで有名なファンドマネジャーで勝ち続けた人はゼロではありませんが、稀有であるということも覚えておきたいところです。
少しシニカルな見方かも知れませんが・・・。

「現場」

先日「量子力学」について、ある化学企業に取材しました。
私は私立文系なので物理や化学なんて門外漢。
それでも多少は理解できるように説明していただいたので、何とか理解の門前までは行けたような気がします。
その時の一言。
「量子力学の未来?
簡単に言うと、渡り鳥とか竹みたいなことが可能になるっていうことかな。
渡り鳥は、微妙な地磁気を感じて、地球上を瞬間に俯瞰して正確に目的地に向かう習性があります。
竹は二酸化炭素を酸素に変えて、一晩で5センチ以上も成長します。
今の技術では、これらのことを瞬時には判断することは不可能だが、これが可能になるということです。
最適化という判断のスピードが格段に速くなるということ。
未来に何が実際に起こるか、何ができるかの予測は難しいですが、自然の不思議さに近づけることは間違いないでしょう。
最初は、金融の世界で活躍すると思います。
瞬時の判断が出来るということは、今のAIトレードどころではなく最強のトレーディングシステムになるはずです。
これに人間が勝てる可能性は低いでしょう。
あるいは、暗号系の解読も今に比べると、格段に可能になるに違いありません。
金融機関のシステムなども容易に破られてしまいそうです。
例えば、3Dプリンターシステムは、夢から実現まで10年かかりました。
理想と現実の時間軸は、こんなものです。
日本のサイエンティストは優秀で、世界に伍していけるレベルです。
ただ、ココは夢の世界。
これを現実の世界に変換するのはエンジニア。
職人がどれだけ頑張れるかという問題にすれば、日本だって負けない筈です。」
企業の現場で、こんな意見がもらえるとは考えてもみませんでした。
あるいは、日本のモノ作りに関してのある官僚氏のコメント。
「日本のITは、そろそろ方向転換することが必要かも知れません。
先進的なことだけではなく、日本の企業風土の良さを加味することが重要だと思います。
100年続いている企業とか、300年続いている企業、400年続いている企業も日本にはあります。
それらの企業は、創業のときの事業を綿々と続けている訳ではありません。
時代や技術の変化に伴って、企業のメインテーマを変えつつ長寿企業となっているのです。
ITの時代になっても、企業を運営しているのはヒト。
これだけは変わりません。
そして・・・。
国家の政策を作るときに必要なのは、もちろんデータです。
でも、データや統計は必ず遅行性があります。
緊急性のある事案の場合に、データを待っていては間に合わないことは多々あります。
そういうときに重視するのは感性。
言い換えれば勘。
そして、現場に出向いて工場とか営業所の声を聞くことなんです。」
国家の政策というだいそれたものではないですが、株式市場でもデータを重視します。
しかし、当然のようにデータは遅行性のあるもの。
日々動く相場のスピードにはついていけません。
その時に重要なのは、やはり「現場感覚」。
市場と企業の現場の声というか、囁きを感じること。
立場は違っても優先順位は同じように思えます。

因みに、10年前に経済産業省がわずか500億円とはいいながら戦略10課題への技術革新への予算を付けていました。
それは
  ↓
・自動車エンジンの燃費改善
・省エネ型半導体
・炭素繊維など軽くて強い材料
・水素の効率的利用
・海底熱水鉱床などの探査
・事故回避や渋滞解消の技術
・点検・補修ロボットや長寿命への新材料
・自然災害の観測・予測技術
・IT活用での農産物収穫量増大
・3Dプリンター技術

10年経ってみると、多くの事業が進み、社会は進化してきました。
もちろん、出来たことも出来なかったこともあります。
でも、これが政策であり国策であるということ。
もちろん、株の世界でも関連セクターや銘柄の株価が変動しましたが、それよりも大きいのは「生活の便利さが格段に良くなった」ということ。
刹那的に株価を云々することも大切ですが、それよりも、いかに「生活に役立ったか」。
あるいは「未来の生活に役立つのか」ということが重要でしょう。
そして・・・。
これこそが株式市場とふれあうことの醍醐味でもあります。
「投資はあくまでも相場と自分との対話。
人に教わるものではなく、自分で身につけるものです。そうでないと、投資の面白さも分かりません。」
老練な市場関係者の含蓄のある言葉です。

 

櫻井 英明(さくらい えいめい)
ストックウェザー「兜町カタリスト」編集長

日興証券での機関投資家の運用トレーダー、「株式新聞Weekly編集長」などを経て、2008年7月からストックウェザー「兜町カタリスト」編集長。
幅広い情報チャネルとマーケット分析、最新経済動向を株式市場の観点から分析した独特の未来予測に定評があり、個人投資家からの人気も高い。

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