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「大風呂敷」― 兜町カタリスト櫻井英明のここだけの株話

「大風呂敷」

あらゆる市場の関係者というのは、どういう訳か話の矛先を世界景気に広げる傾向があるようです。
表現を変えれば「大風呂敷」みたいな印象。
現状を確認もしないのに「米経済は・・・」。
見たこともないのに「メキシコとの関係は・・・」。
そして、「FOMC、ECB、日銀」。
地に足がついていない空理空論に聞こえてしまうのは、聞き方のせいなのでしょうか。
マクロは尊くミクロはアンタッチャブルみたいな印象を拭えません。
「マクロだから間違っても許されるがミクロは許されない」というような前提はないと思います。
解釈しても、議論をしても、何も解決しないことの多い世界を対象にしての無駄話。
その先に未来が感じられません。
そう考えると、無駄が無駄を生んで更に無駄な世界を展開しているのがマーケットみたいなもの。
株だけは違うと言いたいところですが、マーケットは間違いなく欲望の集積場。
これはFXも商品先物も暗号資産も一緒。
このグロテスクさを隠す必要はないでしょう。
しかし、隠すために世界経済という雄大な素材を持って来ているような気もします。
欲望という「鉾や槍や弓」を隠すのが世界経済という「鎧と盾」。
だから話は進まず堂々巡りという考え方も可能かも知れません。

「双方向」

マーケットの閉塞感のひとつは、データやシナリオの使いまわしにあるのかも知れません。
目新しいデータやシナリオに遭遇すると、すぐにその論調を誰もが使い始めます。
市場関係者というのは、なかなか自分でモノを考える人が少ないという傾向もあります。
特に、海外関連の事柄にこういうことが散見されるようです。
見たこともないことに対して、あたかも見てきたかのごとくの請け売りの多さ。
ドイツの議会やギリシャの国債入札を実際に見ていた人は多くない筈。
しかし、夜は欧州とNYやシカゴを回って朝は東京で滔々と論じるような印象。
そもそも・・・。
そんな超人がいる訳はありません。
「誰かが言い出すと、それが注目される。
誰かが言い出すと、それが多くのシナリオとなり、誰かが言い出すとそのワードが流行する」。
「リスクオン、リスクオフ」などその最たるものでしょうか。
だから、どんな場況やコメントを見ても読んでもほとんど一緒。
使われるデータが一緒だから着地が一緒になると言えるのかも知れません。
しかし、これでは面白みに欠けること間違いありません。
「この指止まれ」は子どもの世界の出来事でしかない筈。
そして・・・。
「株価が上昇基調のときはその銘柄の好材料を並べ立て、下落基調のときは悪材料のオンパレード」の状態。
上がっている材料だけを探し、下がっている材料だけを探して報道しようとするからこういう姿勢になるのでしょうか。
言い換えてみると、「全体像と相場観の欠如」。
この姿勢が支配的ですから「相場の見通し」が間違うことに繋がるとも考えられます。
株価が上昇しているときは値上がり銘柄からコメントし、下落時は値下がり銘柄からコメントする。
これも何の意味があるのかわかりません。
「株式市場は世相を反映している」と言えます。
そして、「株式市場は良いところしか見ない」とも言われます。
ともあれ、株式市場を取り巻く材料が一方通行的に提供される事で、市場心理も一方向に傾きがち。
しかも、高株価歓迎の全業界的立場からは「好材料重視・悪材料軽視」のトレンドが熟成されてきました。
実態をかけ離れた好材料のオンパレードが株高に繋がる訳はありません。
そういう情報に囲まれた投資家さんが報われてきたとはとても言えないと思われます。
兜町で昔良く聞かれたのは、「パニックは永遠には続かない」というコメント。
「今回だけは違う」というのもしばしばお目にかかります。
しかも、人間の心理作用の中で厄介なのが「忘却」と「慣れ」。
いつか悪材料を忘れて好材料だけをクローズアップする心理。
双方向から眺めるというのは、いろいろな意味でマーケットでは重要です。

「見方」

相場にはいろいろな見方があります。
株価指数を構成する株価の動向を考えてみると、株式相場は「ペイフォワード」とか「ジョーカーゲーム」と表現できるでしょう。
市場は自分が買った株価よりも、さらに上の株価で買ってくれるシナリオと投資家の登場を常に待っているもの。
つまり、突き詰めていくと「現在の株価が高いか安いか」の判断の最大の決定要因は「今の株価より高い値段で買いたい人がいるか」になります。
自分が買った株価よりも高い株価で買ってくれる人がいるかどうか。
それを気迷っているのが市場なのです。
例えば、将来的に日経平均株価が3万円という心理的大台のフシの上値を誰が買うのか。
最大の論点はココでしょう。
罫線や決算や需給を持ち出して理論ばかりが先行しますが、罫線も業績も需給もその先の上を買うシナリオに利用されているだけかも知れません。
アメリカの詩人ロバート・フロストの言葉は、「馬は死ぬ前に売ってしまうことだ。人生のコツは、損失を次の人に回すこと」というのがあるそうです。
ただ、損を人に譲ったつもりが、儲けを他人に差し上げることになることは多いもの。
もっとも、次に買った人も心理は同様。
この反復が日々の相場変動の一要因でもあるでしょう。
格言には「押し目の浅い相場は大相場」というのもあります。
ただ、押し目に遭遇した時の心理はたぶん「相場は終わったのかも知れない」という疑念。
強い心で押し目を買うことはなかなか出来ず、アレッという出遅れ感につながることも多いもの。
疑念と警戒は必要ですが、それだけでは相場に乗れないでしょう。
「株価はどうなるか?事実は何か?」。
これを問題にするのが株式市場。
しかし、これが問題ではないことも結構あります。
「株価について、人々がどう思っているか?」というのが最大の真理。
相場は心理の織り成す綾取りみたいなもの。
だから、比較多数の心理を読んでその裏を行くことが勝利への早道。
ひょっとすると、性格の悪い人に向くのかも知れません。

 

櫻井 英明(さくらい えいめい)
ストックウェザー「兜町カタリスト」編集長

日興証券での機関投資家の運用トレーダー、「株式新聞Weekly編集長」などを経て、2008年7月からストックウェザー「兜町カタリスト」編集長。
幅広い情報チャネルとマーケット分析、最新経済動向を株式市場の観点から分析した独特の未来予測に定評があり、個人投資家からの人気も高い。

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