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「時間軸」― 兜町カタリスト櫻井英明のここだけの株話

「時間軸」

司馬遼太郎氏の名作「坂の上の雲」を読んでいて、ふと考えたこと。
「日露戦争当時、世界最強だったバルチック艦隊が負けたのは、なぜだろうか」。
それは、官僚主義と「見えない敵への理由のない恐怖心」。
欧州の北海にいるはずもない日本艦隊におびえ、イギリスの漁船に向かって砲撃をしたというのが歴史でした。
戦艦の乗組員の、「夜が怖い」という言葉が端的に恐怖心の表れでしょう。
合理的に考えれば、ある筈のない脅威におびえての自滅。
どこか東京株式市場に似ているように思うのは、気のせいでしょうか。
でも、方向を変えてよく考えてみると・・・。
多くの投資家さんにとって「株が明日上がる」ということは重要なことなのでしょうか。
昭和の時代の証券マンなら、今日、お客さんに勧めて買っていただいた株を明日利食って、別の株を買っていただく、という一連の動きは当時では重要なこと。
今では考えられないことですが、日計り商いが出来る営業マンは優秀な営業マンという評価でした。
だから、鵜の目鷹の目で「明日上がる株」を見つけることが至上命題。
高値にある株が「今日動いたから明日も動くだろう」という楽観論で、しばしばターゲットになりました。
でも、高値にあるのですから糸の伸び切った凧のようなもの。
得てして翌日は反落、なんていうリズムに見舞われたものです。
しかし・・・。
例えば、現在ではポイント投資などで、本来的に長期的資産形成を行っている人にとって「明日上がる」はほとんど関係ないでしょう。
年金運用などでも同様です。
「明日上がる」のではなく、売りたいときに上がっていることこそ重要ということ。
この時間軸の違いは大きく感じられます。
だから・・・。
市場解釈も「明日上がる」ではなく、「何年には上がっている」。
あるいは「何月には下がっている」というリズムの予測が大切になってきます。
ところが、旧態依然として今日上がれば喜び、明日下がれば悲しむ姿ばかりが目に付きます。
あるベテランの女子アナさんは「実況をする上では今日株価が上がっていることは重要」とつぶやきました。
そう言われると残念ながら否定のしようはないのですが、でもその先にある明日への観察眼は少ないようです。
「明日下げればそれは明後日への期待」。
そういう思考法はこれから大切になってくると思います。
時間は永遠に続くもの。
その永劫の時間軸で、今日、明日を論じることはかなり虚しいという論調はそのうち登場してくるに違いありません。
加えれば・・・。
過去を振り返る相場人は多いもの。
数日前、1週間前、1ヵ月前、1年前など、時間軸は縦横無尽で過去への比類なき想像力です。
でも、未来の時点を想定して今日を振り返るコメントは滅多に遭遇しません。
1週間先の時点で今日を振り返ったらどうなのでしょうか。
G20大阪サミットとか、米雇用統計とか、日銀短観など市場が話題にして様子見材料としているものは数多くあります。
それらを通過した時点での結論は、すでに「待ったこと」の正否が証明されている未来の時点。
その一歩先の視点こそ、相場では大切なものだと思います。
スケジュールを語る相場人も多いです、そのスケジュールの意味するところや結果を論じる相場人は少ないもの。
今の時点で過去を振り返るのは容易です。
でも、未来の時点で過去を振り返るクセを付けることこそ重要なこと。
そうすることで、相場のアヤや虚しさ、あるいは謙虚さが見えてくるでしょう。
そして、相場自体が訴えたかった声も聞こえてくるかも知れません。
「注意しましょう」とか「警戒しましょう」なんて意味のない言葉に縛られることも少なくなるでしょう。

「夢追い人」

もう一つ気づいておかなければならないことは、「市場は売りたい人で満ちている」ということ。
株価の動きは、株を持っている人にとってこそ重要。
当然ながら、持っていない人にとっては表面上は何の関係もありません。
値動きそのものが、まったく別の世界の出来事。
しかし、株を持っている人にとっては一大事。
常に高値で売ることを夢見て投資しているのだから、当然です。
日本の個人投資家は、約1,000万人弱と言われています。その他の約1億人にとっては、株の値動きに興味はありません。
この考え方はなかなか腹に落ちないが、現実。
だからこそ「一喜一憂は虚しい」ということもできるでしょう。

相場には2種類の人達がいるといわれます。
一つは「タテ追い人」。
一つの銘柄を、時間軸を長くして追いかける人たち。
この人達にとっては、株価を買い目線で見ているので下落はむしろ歓迎方向です。
もう一方は「横追い人」。
上がりそうな銘柄を、いつも追いかけるヒーロー追いの人たち。
上がっている株を追いかけるから、上がり続けてくれないと儲かりません。
つまり、「売りたい強気の売り目線」の人たち。
どちらかというと前者に幸多く、後者は「労多くして益少なし」みたいな印象。
常にヒーローを追いかけることは間違いなく楽しいことです。
しかも、充実しているかも知れません。
しかし、実利は静かな縦追人に軍配が上がることの方が多いようです。
銘柄は主役でいる時間は短く、脇役でいる時間、あるいは悪役でいる時間は長いもの。
結局、それを我慢できるかどうかという心理的問題が株式投資の損得を結果付けるような気がします。
でも、全員が「夢追い人」であることは間違いありません。

「農耕民族の仕事」

昔、株は「狩猟民族の仕事」と言われました。
銀行は「農耕民族」で証券は「狩猟民族」。
だから証券マンは、いつも何かを追い求めた目をしているとも言われました。
でも、最近の証券マンはほとんど牙を抜かれた狩猟民族。
実際は農耕民族の仕事という気もしてきます。
というか・・・。
農耕民族というのは最近の話ではなくて、もともと農耕民族だったのではないでしょうか。
毎年毎年、同じ時期に同じ話題を提供して、同じような苦楽を味わう世界。
以前は3月になれば決算対策の売り、4月からは年金運用資産の配分なんて話題を何年も繰り返していました。
毎月の雇用統計を待つ姿勢も一緒でしょう。
7月初めにはETFの分配金原資確保のため売りと再投資の話題。
月初は米雇用統計の話題。
4ヵ月に1度は日銀短観や決算の話題が登場します。
アレコレとありますが、どれも暦に従った話題に過ぎません。
話題の登場の仕方は十年一日の如くです。
秋のイスラムヒジュラ暦の株高のアノマリーだって似たようなものでしょう。
年末になれば「来年の干支銘柄」とか「相場予見」なんてものも登場します。
あれこれ考えることよりも、暦を正確に覚えておくことも結構重要なことのようです。
それが最終的には「自分でリズムを感じること」。
あるいは、「自分でハーモニーを愛でること」につながるように思えます。

 

櫻井 英明(さくらい えいめい)
ストックウェザー「兜町カタリスト」編集長

日興証券での機関投資家の運用トレーダー、「株式新聞Weekly編集長」などを経て、2008年7月からストックウェザー「兜町カタリスト」編集長。
幅広い情報チャネルとマーケット分析、最新経済動向を株式市場の観点から分析した独特の未来予測に定評があり、個人投資家からの人気も高い。

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