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スイスで否決された「ベーシックインカム」とは?

Swiss
(写真=PIXTA)

 「最低限、生活に必要なお金を毎月支給します」——そんな制度が導入されるとしたら賛成でしょうか、それとも反対でしょうか。これはいわゆる「ベーシックインカム」と呼ばれる制度で、最近、スイスでその導入をめぐり国民投票が実施されました。

 具体的に投票の対象となった制度は「スイスの全国民を対象に、成人には2,500スイスフラン(約27万円)、未成年には625スイスフラン(約6万8,000円)を毎月支給する」というものです。

 2016年6月5日に実施された、ベーシックインカム制度導入の是非を問うスイスの国民投票は日本でも一部メディアで取り上げらました。結果は賛成23.1%、反対76.9%で否決されました。

 ベーシックインカムは新しい社会保障の在り方の一つとして、さまざまな国で議論されています。今後もニュースなどでたびたび取り上げられることも考えられます。

簡単にいうと「無条件でお金がもらえる制度」

 ベーシックインカムは就労や資産の有無にかかわらず、国がすべての国民に生活に必要最低限のお金を無条件で給付する制度です。「無条件でお金がもらえる制度」と解釈しても差し支えないでしょう。

 スイス国民の多くは「無条件でお金がもらえる制度」に反対したことになります。素晴らしい制度のように思われがちなベーシックインカムですが、実際に導入するとなるとさまざまなメリット・デメリットがあるのです。

貧困問題が解決され、ライフスタイルの多様化につながるとの期待

 ベーシックインカムの「主なメリット」として考えられるものは三つあります。

 一つめは、すべての国民に最低限の生活費が支給されることで、「貧困問題の解決」になるとの考え方です。

 二つめは、無条件で最低限の生活費を支給するため、受給資格の審査等の複雑なシステムが不要で、効率的にコストを削減できるとの考え方です。

 三つめは、ライフスタイルの多様化が考えられることです。たとえばそれまで週に5日働き2日休むサイクルで生活していた人も、「週に1日働き6日休む」といった生活や、「まったく働かない」という生活を選択することも可能になります。趣味やボランティア活動など、仕事以外の時間を自由に活用できるのは魅力の一つかもしれません。

財源不足と労働意欲減退への不安

 一方で、主なデメリットとして考えられるのは二つです。

 一つめは、財政支出が巨額になることです。スイスの場合は、日本円に換算して年間22兆7,000億円を超える費用が必要であると試算されていました。これは同国の国家予算(年間20兆円前後)に匹敵する規模で、いかに大きい金額か理解できるでしょう。

 ベーシックインカムを導入するためには、財源をどうすべきかを明確にしなければなりません。国民の多くが納得できるような財源の確保が求められます。

 二つめは、労働意欲の減退につながり、経済競争力が失われるとの考え方です。先の三つめのメリットと相対する考え方ですが、極端な話、まったく働かない人が増え続けるとその国の経済はどうなってしまうのでしょうか。本当にそうなるかどうかはともかく、手放しで歓迎しにくい面があることは想像がつくでしょう。

日本・世界のベーシックインカムの議論

 ベーシックインカムは、日本でもメディアなどでたびたび話題に上がります。日本におけるベーシックインカム導入論の第一人者は経済学者、小沢修司氏(元・京都府立大学公共政策学部長)です。小沢氏はかつて、1人当たり月8万円でベーシックインカム制度を導入することを試算しました。この額をすべての個人に給付するとおよそ115兆円かかりますが、小沢氏は「個人所得総額に対する所得税の現行の所得控除を廃止して、約45%の比例課税をすると財源調達は可能」と主張しています。

 また2016年7月の参議院選挙では、ベーシックインカム制度の導入をマニフェストに掲げた政党もありましたが、現時点では十分な議論がなされているとは言えません。

 スイスでは国民投票で否決されましたが、フィンランド政府は8月、ベーシックインカム制度を試験的に導入する方針を明らかにしました。オランダの一部自治体ように試験的な導入を検討する動きも見られます。今後、世界の国々でベーシックインカムについての議論が広がることも考えられ、議論を深めていく時が来ているようです。

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