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インド中銀は利下げ実施、底堅いルピー

Rupee
(写真=PIXTA)

・ インド準備銀行は4月会合で政策金利(レポ金利)を0.25ポイント引き下げ、6.50%にしました。事前の市場予想通りの結果です。利下げの理由として、物価見通しの安定や投資等の弱含み、16年予算で財政規律が維持されたことを挙げました。 

・ 今後はモンスーン期の降水量などが物価に与える影響を確認しながら追加利下げの可能性があることを示唆しました。2016年秋口以降、小幅利下げの余地もあるとみています。

・ インドルピーは16年予算で財政規律が維持されたことが前向きに評価され、3月は持ち直しました。今後は4月~5月の州議会選挙の結果や外部環境の変化を見極めるため上値が重く、なかなか上がらない可能性があります。 

中銀は0.25%の利下げ実施 

 インド準備銀行(以下、中銀)は4月5日の定例会合で政策金利(レポレート)を0.25ポイント引き下げ、6.50%としました。

 レポレートとは、インド準備銀行が市中銀行に資金を貸し出す際のレートにあたります。中銀はレポレートを引き上げる(引き下げる)ことで、市中の資金需要を抑制(拡大)し、インフレを抑制(景気を刺激)します。

 レポレートの引き下げは事前の市場予想通りの結果です。加えて、政策金利の上限・下限のレンジをレポレート±1.0%から同±0.5%に縮小しました。これによって、上限金利となる限界貸出金利(MSF)は7.75%から7.0%に低下、下限金利となるリバースレポレートは5.75%から6.0%に上昇しました。

利下げの背景にあるのは物価見通しの安定や投資などの弱含みなど

 中銀は利下げの理由として、物価見通しの安定や民間投資が弱まる可能性があることを挙げています。 物価についてはゆるやかに鈍化し、2017年3月時点で前年比+5.0%前後に抑制するという目標に沿って推移しているとしました。

 政府が2月末に発表した2016年度(16年4月-17年3月)予算が財政規律を維持し、インフラ投資の増加が中期的な物価見通しの改善に寄与すると評価しています。リスクとして挙げたのは、モンスーン期(6月~9月)の降水量不足、原油価格の上昇や公務員の給与引き上げなどです。 

中銀は追加利下げ余地を示唆 

 景気については、2016年度の実質経済成長率(粗付加価値:GVAベース)は前年比+7.6%との見通しを維持しました。

 ただ製造業の設備稼働率が低下していることから、民間投資が低調になる可能性があるとしています。

 背景には、今までの利下げに比べて銀行の貸出金利の低下が限定的であることや、銀行の不良債権問題が貸し出しを控えさせる理由になっていることが考えられます。

 中銀は今回の利下げに加えて、政府が16年3月に実施した郵便貯金などの少額貯蓄金利の引き下げが民間銀行の預金金利に対する金利競争を和らげる一方、銀行の貸出金利に新しい決定メカニズムを導入して貸出金利の低下を促す方針です。ただ、銀行の約3分の2は国営銀行が占め、不良債権比率は銀行全体で2ケタとなっています。

 財政再建が続くなか、2016年度の公的資金の注入は前年度並みに留まっています。このため、今後についても「利下げによって銀行貸出や景気を下支えしてほしい」との政府や産業界の声もあるようです。ラグラム・ラジャン中銀総裁は金融緩和的なスタンスを維持するとしたうえで、モンスーン期の降水量の動向を見極めながら、必要があれば追加利下げを行うことを示唆しています。

 モンスーン期の降水量が平年を大きく下回らず食料品価格が安定的に推移し、原油価格が急上昇したり、米国の追加利上げにより通貨安圧力が強まったりということがなければ、16年秋口以降、追加利下げの余地があるとみています(次回会合は6月7日)。 

インド中銀 画像1

インド中銀 画像2

ルピーは予算案を好感し3月は反発、4月の利下げは事前に織り込み済み 

 インドルピーは2016年2月末にかけて1ドル68.7ルピー台までルピー安となりました。その後、注目された2016年度予算案は、懸念されていた公務員の給与引き上げの影響が限られ、財政規律が維持されたことにより、4月初めにかけて66.2ルピー台まで上昇しています。

 利下げが行われた4月5日はグローバルなリスクオフ(よりリスクの低い資産に資金が向かいやすい状況のこと)によりアジア通貨が下落するなか、66.4ルピー台まで反落しています。利下げについては事前に織り込まれていたことから、影響は限定的であったとみられます。

州議会選挙の結果を見極める必要あり

 今後のインドルピーをみるうえで注目したいのは政治情勢です。

 野党の抵抗によって、モディ政権が目指していた土地収用法の改正は見送られ、物品サービス税(GST)も成立していません。改革のスピードがダウンしたことから、市場のモディ政権に対する期待はやや後退しました。

 予算案で財政規律が維持されたことが前向きに評価され、一度は反発していますが、4月から5月にかけて複数の州議会選挙を控えており、選挙結果は少数与党となっている上院の議席分布にも反映されます(下院は総選挙で国民が直接選ぶが、上院は一部の大統領の指名枠を除くと、州議会の議席分布により2年ごとに議員を3分の1ずつ入れ替える間接選挙です)。

 与党の地盤が弱い州が多いなか、2016年度予算における農民支援策の拡充が企業寄りとみられているモディ政権のイメージを払しょくし、支持につながるか注目されます。

 他方、いわゆる「パナマ文書」が公表され、中米パナマなどのタックスヘイブン(租税回避地)を利用した資産隠し疑惑により、アイスランド首相が辞任に追い込まれました。同文書には中国やロシアに関する記述もあるようです。インドではボリウッドスターや民間企業の経営者の名前が挙がっており、インドの税務当局が調査に乗り出しています。

ルピーがなかなか上昇しないであろう3つの理由

 今後のインドルピーは上値が重く、なかなか上昇しないとみています。その理由は大別して3つあります。

 第1に上述のように州議会選挙などの政治リスクがくすぶっていることです。

 第2に、ファンダメンタルズ面をみると、経済成長率はGDP統計の改定もあって高めの伸びが続いているものの、実体経済は輸出の低迷や銀行の不良債権問題が重しとなってあまり回復していないことです。中銀の追加利下げ余地があることもルピーにとってはプラスではありません。

 第3が外部環境です。米国の利上げペースが一段とゆるやかになるとの観測や、日欧の追加緩和実施がルピーを下支えしてきました。今後米国の利上げ観測が再び高まると、投資家が再び慎重になる可能性があります。

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