
2017年1月20日、ついにアメリカの第45代大統領にドナルド・トランプ氏が就任しました。トランプ氏は、政治家出身ではなくビジネス界の出身ということで、経済政策についてさまざまな改革方針を掲げており、その影響はアメリカのみならず世界に及ぶとみられています。
“米国第一主義”に傾きはじめたアメリカ。今後の米国経済や世界の金融市場はどうなっていくのでしょうか。
公約実現にむけて動き出したトランプ氏
「メキシコ国境に壁を建設する」「イスラム教徒を全面入国禁止にする」など、一見無謀で過激な公約を、トランプ氏が本当に実行するのかということに注目が集まっていましたが、2017年1月25日、メキシコとの国境に壁を建設するよう命じる大統領令に早速署名したことでその意志の強さと実行力の高さがうかがえます。過激なことを言っていても大統領に就任すれば現実的な政策姿勢に転換するとの見方もありましたが、現時点ではトランプ氏は本気で公約を実現しようとしているようです。
同氏がこれから何を実現しようとしているのか、あらためて整理してみましょう。
就任後100日以内に立法化を目指すもの
トランプ氏は減税やインフラ投資、オバマケア撤廃など就任後100日以内に立法化を目指す措置を自身のホームページで公表しています。
今現在はまだ概要にとどまっていますが、こうした政策の具体像が示されるのは2月から3月にかけて見込まれる両院議会演説(従来の一般教書演説に替わるもの)や予算教書以降になるとみられています。これらの実現性や優先順位は法案の提出・議決権を握る議会次第で、財政政策の規模や実施のタイミングなどが明らかになるまでには今しばらく時間がかかりそうです。
就任後に示された政策方針まとめ
トランプ氏の就任演説では具体的な政策の内容を言及しなかったものの、ホワイトハウスのホームページに掲載されている政策方針をまとめると以下のようになります。
とくに「米国第一主義」の姿勢は一貫しており、就任演説では「Buy American and Hire American(米国製品を買え、米国人を雇え)」と主張しています。とくに、日本にとっても影響が大きい環太平洋経済連携協定(TPP)については、「永久に離脱する」という大統領令に署名し、カナダ・メキシコと結んでいる北米自由協定(NAFTA)についても見直しを表明するなど着々とアメリカファーストな保護主義的政策を実現させようとしています。
今後の米国経済はどうなる?
現在アメリカは完全雇用※の状態に近い労働市場という堅調な要因に加えて減税をはじめとする財政政策が後押ししていく展開が予想されています。
(※完全雇用とは働く意欲と能力をもち、現行の賃金水準で就業を希望するすべての人が雇用されている状態)
もっとも、トランプ新政権による政策の効果が現れ始めるのは早くても2017年後半以降になるとみられ、2017年前半は大統領選以降の金利上昇やドル高が成長ペースを抑制する可能性に留意が必要です。
当面の米国株の動きとして2万ドルを超えたNYダウは政策期待や業績期待を背景に上値余地を探る動きが継続、その後、好材料一巡で5月~8月に一旦もみ合いに転じ、年末にかけては2018年の成長加速期待を織り込む形で再び上昇基調を強める展開が予想されます。
トランプ政策による世界経済のリスク
リスクシナリオとしては大規模な財政刺激策が実現した場合、経済の過熱や想定以上のインフレを招く可能性があります。この結果、米長期金利が大幅に上昇し、それにともないドル高も進んだ場合、米国経済や企業利益への影響だけでなく、資本流出やドル建て債務の返済負担の増大(ドルが高くなると返さなければならないお金も増えてしまう)などにより、新興国経済への下押し圧力が強まる懸念があります。
トランプ氏の思惑通り保護主義的な政策が実現すれば、世界的な貿易活動の停滞やサプライチェーン(製造した商品が、最終的に消費者に届くまでの流れ)の混乱を引き起こし、世界経済の成長自体を抑制してしまう可能性があります。とくに中国との関係が悪化し、“貿易戦争”になる可能性には注意が必要です。
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