
今年に入りメキシコペソは反発
昨年11月にトランプ米大統領が誕生して以降、メキシコペソは、一時過去最安値の1ドル=22.0ペソ台を付けましたが、4月中旬には1ドル=18.4ペソ台と米大統領選挙直前の高値18.1ペソ台に近づいています。トランプ政権誕生前の為替水準に戻ってきていますが、依然として新興国通貨のなかでもペソは割安感があり、トランプリスクの一巡や原油価格の安定で見直し余地が大きいと考えられます。
トランプ政権誕生がメキシコに与えた影響とは?
昨年11月8日(火)の米大統領選挙の結果を受けて、新興国通貨は大幅に下落しました。南アフリカランドやブラジルレアルを始め、新興国通貨の下落基調が強まりましたが、なかでも、メキシコペソは11月9日(水)~10日(木)にかけて10%超の大幅な下落を記録しました。
その理由は、トランプ米大統領の掲げている対メキシコ政策が影響しています。トランプ米大統領は、①メキシコ政府の資金負担による国境間の壁建設、②メキシコから米国への不法移民の強制送還および移民送金の規制、③北米自由貿易協定(NAFTA)の見直しを主張しており、実施されればメキシコ経済に打撃となります。トランプ政権の対メキシコ政策が同国経済の重しとなっています。
ペソは年明けから目覚ましい持ち直し
しかし、ペソは今年1月に対ドルで過去最安値を更新してから、大幅に持ち直しています。背景には、1.ドル高一服や原油価格の安定、2.メキシコ中央銀行(以下、中銀)の利上げや為替スワップ入札等のペソ防衛策、3.トランプ政権の保護主義的な通商政策への警戒感の後退、等が挙げられます。中銀は、3月の会合で5回連続となる利上げを実施し、政策金利を6.50%(5回累計で2.25%の利上げ)としました。
中銀がペソ安を受けたインフレ圧力の高まりに積極的に対応し、通貨防衛姿勢を鮮明にしていることは、ペソ相場を下支えする要因になっています。また、4月26日(水)には、トランプ政権がNAFTAからの離脱を命じる大統領令を検討していると報じられペソは下落しましたが、その後、トランプ大統領がカナダのトルドー首相、メキシコのペニャニエト大統領と電話会談を行い、NAFTAの再交渉を目指すが、現時点では終結させないことで合意したと報じられると、ペソは反発しました。目先、5月頃からNAFTAの見直し交渉が始まる予定とされており、今後もNAFTAに関する報道は市場の関心も集めるでしょう。
長期的にみればペソは依然として割安水準
それでは、長期的にみた場合、足元のペソの水準はどのようにとらえられるでしょうか。2001年を基準としたペソの対ドルレートの購買力平価の推移をみると、足元の水準はリーマンショック時を上回る大幅な下方かい離となっていることがわかります。これは、14年半ば以降の原油価格の下落や、15年の米利上げ観測の高まりにともなうドル高、16年のトランプ政権誕生とメキシコにとっての悪材料が集中した点が大きいと考えられます。
カルステンス中銀総裁は1月下旬に「経済見通しに関する不確実性がペソの名目為替レートの過度な反応を引き起こした。米大統領選挙後、ペソの下落は行き過ぎており、米国とメキシコとの間の協議により、経済見通しの確実性が増していけば、ペソは上昇するだろう」と述べています。
また、米国側も、NAFTAの見直し交渉を担当するロス商務長官が、「NAFTAへの懸念がペソを押し下げており、米国とメキシコが良識ある貿易協定を結ぶことができれば、ペソはかなり大きく回復する可能性がある」と指摘しています。
メキシコは米国にとって安全保障面においても重要な国であり、政治・経済的に不安定化することは米国も望んでいないと考えられます。為替市場においては、ペソの持ち直しはある程度進みましたが、購買力平価でみた通貨の実力からすると、依然として割安感は大きく、今後の対米通商交渉の進展を通じて不透明感が後退していけば、この先もペソが戻りを試す展開が十分に想定されます。
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