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為替市場-ドル円:下押し局面は一巡へ

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(写真=PIXTA)

・ この1年でドル円は20円以上もの円高ドル安に
・ リスク回避の円高圧力がその要因
・ しかし、そのほとんどには出尽くし感があり今後円高圧力は後退へ

ドル円は昨年の高値から20円以上もの下落

 過去10年間のドル円の高値は1ドル=125.86円でした。ほぼ1年前の昨年6/5、発表された5月の米雇用統計が良好な内容だったことを材料に記録しました。しかし、その後ドル円は下落に転じ、約11ヵ月後の今年5/3には1ドル=105.55円と20円以上もの下落を演じています。

今後はもみあい相場への移行を想定

 直近ではドル円は1ドル=110円水準に反発してしますが、数ヵ月単位のトレンドとしては下落傾向が続いています。今後の予想としても年内1ドル=100円割れを予想する向きもあるようです。しかし、この1年間に円高ドル安の原動力となった材料には一定の出尽くし感があり、これ以上の円高ドル安を演出するには力不足となりつつあるようです。
 
図1

中国リスク

 中国の状況を振り返ると、昨年6月頃から上海総合指数等の中国株式市場は下落基調を強めました。加えて8月に入り中国人民銀行が人民元の対ドルレートを切り下げたことをきっかけに中国経済に対する懸念が強く意識され、世界中の株価が乱高下する等、金融市場の大きな混乱につながるとともにリスク回避の円買いとなりました。今年年初にも中国経済指標の悪化や上海株の急落、人民元の切り下げ容認姿勢等がみられ、再び混乱の火種となる場面がみられています。

 これに対し中国当局は人民元を安定的に推移させるとともに、株式市場を監視しています。加えて3/5開幕の全国人民代表大会(全人代)では積極財政の強化、金融のリフレ政策、規制緩和等の政策を総動員して対応することを表明し、5/11には4.7兆元(約78.5兆円)規模のインフラ投資計画を発表する等、景気のテコ入れに全力を尽くす姿勢を示しました。引き続き構造改革と安定成長の狭間で難しい対応を迫られますが、徐々に中国経済の悪化リスクは後退している印象が強まっています。

原油リスク

 昨年12/4、ウィーンで開催された石油輸出国機構(OPEC)の総会で産油国は減産で合意できず原油価格が急落しました。原油価格下落の背景には2012年頃から急激に生産が伸びた米国のシェールオイルに対し、中東産油国がシェア争いのなか増産で応戦して需給が悪化したことがあります。この結果、ウエスト・インターミディエート(WTI)先物は1月から2月にかけて2003年以来となる1バレル=26ドル台まで下落する動きとなり、リスクオフを通じた円高圧力となりました。原油安によって米国のシェールオイル企業は破たんが相次ぎ、掘削装置(リグ)数も急減する等、産油国の目論見が着実に達成されてゆく一方、産油国の財政赤字も深刻化しましたが、2/16にはカタールの首都ドーハでサウジアラビアやロシア等の産油国が増産凍結で合意しました。その後も数度にわたり産油国の話し合いがもたれるなか、徐々に原油価格は反転し、5月には50ドル手前の水準まで上昇しています。

図2

米景気後退懸念

 米国の景気減速懸念もドル安材料やリスクオフからの円買い材料となりました。前述の中国の景気減速懸念や原油価格の下落、それにともなう金融市場の混乱等の悪影響に巻き込まれ、米国の緩やかな景気回復傾向にブレーキがかかり、米連邦準備理事会(FRB)の利上げペースも大きく遅れるのではないかとの懸念が強まりました。しかし、直近の連邦公開市場委員会(FOMC)声明でも雇用や住宅の一段の改善を指摘する等、経済活動の拡大自体は継続しているとの姿勢を示しています。米利上げペースの減速を材料としたドル売りも一巡しつつあるのではないでしょうか。

基本、109円~119円のレンジを想定

 このようにこれまでの材料を並べると、改めてさまざまな理由とともにドル円が下落してきたことが浮かび上がりますが、いずれも一定の達成感や出尽くし感が感じられます。今年これまでドル円の値幅はすでに16円を超え、2000年以降の平均値幅である15円92銭を上回りました。日米ともに年後半には国政選挙を控えるなか、金融政策も為替相場も動きづらくなる可能性もあります。今後改めて1ドル=105円を下回り、100円を目指す大相場へ突入するよりも、109円~119円といった居心地のいいレンジへ小反発し、これまでの材料や値動きを消化しつつ選挙結果や金融政策を見極める展開に移行していく可能性の方が大きいのではないでしょうか。

リスクシナリオは

図3

 一方で、1ドル=100円を目指すリスクシナリオへ至るには、どのような材料が考えられるでしょうか。1つは英国の欧州連合(EU)離脱が現実化することです。基本的には実現する可能性は非常に低いとみていますが、実現すればユーロ売りやポンド売りとなる反面、米ドルや円が買われる展開となるでしょう。

 もう1つはトランプ大統領が米国で誕生することです。政治的手腕が不透明ななか、もしトランプ大統領誕生の可能性が高まれば、金融市場は嫌気し、ドル売りやリスク回避の円買い材料となるでしょう。

 とはいえ、その可能性は非常に低いと思われますが、現実的には前述の通り、1ドル=109円~119円を中心としたレンジで推移するものと考えられます。

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