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相場で稼ぎたいなら筋トレよりも○○― 兜町カタリスト櫻井英明のここだけの株話

「筋トレよりも大事なもの」

「早耳の早耳だおれ」という格言があります。
「情報を早く得た者が相場で成功するとは限らない」という意味の格言です。
「情報をいち早く得て争いに参加して、その情報をもとに投資を行っても損をすることが多い」という意味でもあります。
現在は、インターネットの発達で誰もが素晴らしい情報環境を手に入れることができます。
しかし、その行く先は「一分一秒を争う戦い」。
「情報の早さの争いに参加するよりも、その情報が大局上昇相場もしくは下落相場へつながるものなのかどうかが課題。
これを見極める力は必要」という声も聞こえます。
つまり、「スピードは競わない」ということでしょうか。
結局、体力を鍛えずに脳トレを繰り返すのが相場の本筋なのかも知れません。
ギリシャ神話に「王様の耳はロバの耳」という話があります。
本当の事をいうことの大切さと人に対する寛容さを説いた寓話(ぐうわ)です。
しかし、相場に置き換えるとどうなるでしょう。
耳でも目でも口でも自分で見ることは絶対にできません。
日銀短観の中身だって、雇用統計の個別項目の中身だって自分では絶対に見ることは不可能。
それでも市場は、これらの自分では絶対に確かめることのできない指標を用いてアレコレ詮索する場所。
しかもロバの耳と違って、どこが正しくどこが間違っているのかを確かめることはできません。
それで相場を生き抜くことはかなり難しいような気がします。
「カミソリと鉈(ナタ)」として考えることも重要かも知れません。
カミソリはスパッと切れてナタはザクッと切れるもの。
見た目はカミソリの方がナタよりも鋭く切れるように思えます。
しかし、カミソリの方が切れ味が良いかというと、そうとは限りません。
「長もちし大成しようと思うなら、目先を追って小回りを利かすよりも、肚をすえてどっしり構える」。
「分かったような気になったり、分かったふりをするのは、間違いのもと」というのは身に染みる言葉となってきます。

「推理推論」

株式市場は推理推論の世界。
だったら帰納法(きのうほう)と演繹法(えんえきほう)の違いを知っておくことも必要でしょう。
帰納法(きのうほう)とは・・・。
さまざまな事実や類似の事例から導き出される傾向などから法則や結論、原理を導き出す推論法のこと
また、演繹法(えんえきほう)とは・・・。
帰納法の対義語で、一般論やルールに観察事項を加えて、必然的な結論を導く思考方法で三段論法ともいわれます。
つまり、ルール(大前提)から結論を導く思考回路です。
「好業績の企業の株は上昇する」。
「A社の業績は良い」。
「だからA社の株は上昇する」。
説得力のあるコメントとなります。
ただ演繹法の欠点は正しくなかったり、適切ではない前提を用いてしまうと読み間違えること。
A社の業績は、前期はよくても今期がよくないとなると前提は崩れてしまうことになります。
一方で帰納法とは・・・。
多くの観察事項(事実)から類似点をまとめ上げることで結論を出すという論法。
言い換えるとさまざまな事実や事例から導き出される傾向をまとめあげて結論につなげる論理的推論方法のことです。
「海外投資家の日本株保有比率は上昇している」。
「アンケートでは7割の海外投資家が株は上がると考えている」。
「日本株が上がってきたら買いたいと思う海外投資家全体の7割に及ぶ」。
これらを結合させると「海外投資家は日本株を買い続ける」という結論が導きだされてきます。
重要なのは多くの事例に共通することをまとめること。
しかし、前提として選んだ一般論や普遍的事実が偏っていると論理が破たんすることもありますから厄介です。
例えば、「日本株が上がったら買いたい海外投資家は7割」。
しかし、別の選択肢で「日本株が下がったら売りたい投資家は8割以上」というのを見逃していると、前提条件が崩れてしまいます。
これらの論理の違いをふまえて、自分の相場観を養うことが求められるのは株式市場です。
というか、脚色された論理のスキを見つける力を養うと、意外と相場観がしっかりしてくるものです。
そもそも市場の解釈は全体の一部を切り取って微分した結果で陽炎みたいなものと考えても良いかも知れません。
連立方程式を解くことが難しいから、いつも難しいようでいて単純な論理が横行するもの。
この視点で相場を見ると結構面白いものです。
一方で変化の割合から全体的な変化を求めるのが積分。
本来は、局地的な微分的思考よりは、極地から全体を創造する積分の方が相場には合っているような気がします。
もっとも積分では微分と違って「この形にはこれ」というような解き方のパターンが必ずしも存在するとは限らないというのがややこしい点ですが・・・。

「名残り」

先日の悪夢は「初日営業のマル」。
一般の方には何のことか理解できないでしょう。
その昔、多くの証券会社で初日営業なるものが存在していました。
受け渡しベースで翌月渡しとなる月初の3日前。
前夜から豪勢なお弁当を振る舞われ気合を入れて臨むお祭りの日。
月が変わってリセットして再スタートいう意味がありました。
月が変わって何も変わらないのになぜ?と思いましたが、さらに昔の清算取引の名残りだとされていました。
大昔は月ごとの決済の清算取引でしたから顧客口座の損金も益金もまっさら。
月末の損益をリセットしての再スタートという意味があったそうです。
ちなみに、今は売買高よりも売買代金の方が重要視されています。
売買高のランキングなんて要らないという声もないではありません。
ただ、いまだに売買高が残っているのは、発行済株式数に対する取引割合の明確化などもあるのでしょうが、多分に名残りのような気がします。
その昔は、瞬時に売買代金などを計算できませんでしたから売買エネルギーの表現は売買高だけでした。

さて夢の話。
毎月やってくるその初日営業(一日営業)の前場。
株価は停滞気味で、前夜の予約注文など当然できていません。
前場11時(今は11時30分までが前場ですが、一昔前までは11時までが前場でした)まで頑張っても注文はゼロ。
当然ながら約定もゼロ。
ラチが明かず最後の砦の顧客の会社に昼休みに夢の中で向かう始末。
正しいか間違っているかは別にして、投資家さんにある銘柄との乗換商いを理路整然と見事に説明していました。
しかし、答えは「今日でなくてもいいでしょう」。
帰社してみれば「伝票は?」。
頭を抱えて大引けまで震えながら過ごしているところで目が覚めました。
久々に昔の株屋営業に自ら触れたことになりました。
今はこんなお祭りなど考えられないことですが・・・。

 

櫻井 英明(さくらい えいめい)
ストックウェザー「兜町カタリスト」編集長

日興証券での機関投資家の運用トレーダー、「株式新聞Weekly編集長」などを経て、2008年7月からストックウェザー「兜町カタリスト」編集長。
幅広い情報チャネルとマーケット分析、最新経済動向を株式市場の観点から分析した独特の未来予測に定評があり、個人投資家からの人気も高い。

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